いっときは好調だったSaaS市場に変化が訪れ、値上げが続いている。SaaSの利用料金が上昇する背景には、単なるインフレではない幾つかの要因が関係している。SaaS市場はどうなってしまったのか。
クラウドサービス、とりわけSaaS(Software as a Service)の値上げ問題が浮上している。世界的なインフレの中でSaaS価格が上昇することは自然なことだ。だがSaaSのコスト最適化ツールを提供するVertice Technology(以下、Vertice)によると、SaaSの値上げはその他の物価上昇と同じではない。
SaaSの値上げが続く背景には、実質的な値上げをもたらす“ある要因”を含めた、複数の理由が関係している。いっときは成長著しい分野の一つだと見なされていたSaaS市場に何が起きているのか。
Vertice Technologyで北米担当のバイスプレジデントを務めるジョエル・ウィンデルス氏によれば、SaaSが値上げになる要因の一つは、SaaSの成長鈍化だ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)でテレワークの実施が急速に広がった際、SaaSの導入が加速した。だがその動きがいったん落ち着いてから、SaaSベンダー各社の売上高は伸びにくい状況が続いている。
SaaSベンダー各社は、売上高を増やす手段の一つとして、価格の値上げを実施しているとウィンデルス氏は見ている。物価が上昇する中でSaaSが値上がりすることは自然な流れではあるものの「SaaSは他の分野に比べて値上げのペースが速い」と同氏は指摘する。
売上高の成長率が鈍化するのは、SaaSベンダーが新規顧客を以前ほどには獲得できていないからだけではない。「SaaSのアカウント数や使用量が減少する分を相殺するために、SaaSベンダーは価格を引き上げている」。SaaS管理ツールを手掛けるProductivで最高情報責任者(CIO)を務めるアーシシュ・チャンダラナ氏はそう語る。
マクロ経済の悪化も背景にある。「ユーザー企業のCIOはパンデミックの際に導入したクラウドサービスについて、景気の状況に応じて使用量の適正化を図っている」(チャンダラナ氏)
SaaSベンダーにとっては、支出が増加することも値上げに踏み切らざるを得ない一因だ。特に半導体不足が続く中で、ハードウェアにかかる費用が上昇する傾向にある。「SaaSベンダーがデータセンターにかけるコストは確実に上昇している」(チャンダラナ氏)
そうした厳しい事業運営環境に置かれる中で、SaaSベンダーにとって選択肢になっているのは、単純な値上げに限らない。ウィンデルス氏が挙げるのは、クラウドの「シュリンクフレーション」だ。シュリンクフレーションとは、価格は据え置きで、内容がシュリンク(縮小)する経済現象を指す。SaaSの場合、利用料金は変わらないものの、利用できる機能が減ることになる。
SaaSのシュリンクフレーションには、幾つかの種類がある。その一つが「アンバンドリング」だ。複数の機能やサービスをまとめて提供する「オールインワン」型のサービスから、個々の機能やサービスを切り離して提供する形態に切り替えることを意味する。アンバンドリングをすることで、SaaSベンダーは個別の機能やサービスごとに利用料金を得ることができるため、ユーザー企業1社当たりの売上高を増やすことができる。
反対に、複数の機能やサービスを1つにまとめて提供する「バンドリング」を実施するSaaSベンダーもある。単一の機能やサービスしか必要としないユーザー企業でも、バンドルされた機能とサービス群の全体を購入することになるため、価格は必要以上に高くなる可能性がある。ウィンデルス氏によると、SaaSのシュリンクフレーションは、2023年にSaaS利用料金の上昇に影響を及ぼした要因の一つだ。
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