HDD新時代の予兆「マルチアクチュエーター」がなぜ“それほど重要”なのかHDDは“技術的限界”を突破できるか【中編】

HDDはこれからも“技術的な限界”を突破していけるのか。容量やデータ読み書き速度においてこれからの鍵になると考えられる「マルチアクチュエーター」について、それがどれほど重要なのかを解説しよう。

2024年06月30日 07時00分 公開
[Robert SheldonTechTarget]

 HDDは「もう進化の限界が来た」と見られては、新技術が台頭して“新たなステージ”にまた突入するという形でブレークスルーを遂げてきた。新たな進化の芽である「マルチアクチュエーター」技術は、まだ広く普及しているわけではない。だが今後、HDDが使われ続けるのかどうかをも左右する重要な存在だ。

 HDDの部品1つの進化がなぜそれほど重要なのか。SSDを使うのか、HDDを使うのかを検討したり、HDDの容量がどこまで増えるのかを見通したりする上でも鍵になる「マルチアクチュエーターがなぜ重要なのか」を解説しよう。

「マルチアクチュエーター」がなぜそれほど重要なのか

会員登録(無料)が必要です

 まずアクチュエーターとは、HDD内部でデータの読み書きを担う「磁気ヘッド」の位置を制御するための装置だ。それを2つ備えるデュアルアクチュエーター搭載のHDDでは、2つのアクチュエーターが同一の軸に配置されている。それぞれに専用の磁気ヘッドとアクチュエーターアームを備える。2つのアクチュエーターは独立して動作する。磁気ヘッドは、円盤状の記録媒体であるプラッタ上でデータ読み書きをする。アクチュエーターアームは、磁気ヘッドをプラッタ上の特定の位置に移動させる部品だ。

 マルチアクチュエーターは、将来HDDに必要とされる特定のデータ処理要求に対して非常に有望な技術だ。どういう用途かと言えば、保存容量の大きさとデータ読み書きの高速性が求められるものの、それらの特性を備えたSSDに投資するほどではないタイプのデータ処理だ。

 HDDは誕生した20世紀から長年にわたり、容量と読み書き速度の両面で進化を続け、さまざまデータ処理のニーズに応えてきた。容量と読み書き速度への要求はとどまることがなく、依然としてさらなる向上が求められている。今後も「企業の保有データ量が増え続ける」のがほとんど確実であるのと同じくらい、容量と読み書き速度の改善は変わらず求められるはずだ。

 だが、HDDの技術進化は、従来の技術ではほとんど実用的な限界に来ている。その理由は、HDDの機械的な部品にある。アクチュエーターの動作は、データの読み書き速度を左右する。基本的にはHDDの容量が増えるほど、データ読み書きのための磁気ヘッドはプラッタ上でより多く移動をしなければならない。アクチュエーターの動作速度には限界があるので、データ読み書きの速度が要件通りには上がらないという状況が発生する。

 HDDの大容量化は継続して進行してきたことであり、今後も続くと考えられる。1台の容量が最大30TBや40TBになる時代が来ている。そうした大容量HDDの利用が広がると、次は容量だけではなく、読み書き速度への要件も上がってくるのが通例だ。ハイパースケールデータセンターのようなコスト効率を特に重視する運用環境においては、読み書き速度を犠牲にせずに、大容量HDDによるコスト効率の良さを生かしたいというニーズが高まってくるのだ。そうして容量にも読み書き速度にも向上が求められるという状況は続いていく。

 マルチアクチュエーターがなぜ重要なのかはもう察しが付いただろう。複数のアクチュエーターを使えば、1つのアクチュエーターによる移動速度の限界を突破できる。保存容量が増えた結果として読み書きしなければならない領域が増えても、複数のアクチュエーターがあることで読み書き速度を犠牲にせずに済む。HDDの大容量化を追求しながら、IOPS(1秒当たりのデータ入出力数)を向上させる可能性を秘めているのがマルチアクチュエーターなのだ。

「マルチアクチュエーターHDD」はあくまで容量を求める用途向け

 ただし、マルチアクチュエーターを“SSDに対抗する技術”だと捉えるのは筋違いだ。マルチアクチュエーター搭載HDDはSSDの代わりではなく、主要クラウドベンダーなど、さらなる容量を求めるハイパースケールデータセンター事業者のニーズに応えるストレージだ。データ読み書きなどのパフォーマンスの面ではSSDに劣ってもいい。あくまでもHDDの優位性であるコスト効率を生かしつつ、より多くのデータ処理が求められる今後のニーズに応えるのがマルチアクチュエーター搭載HDDだ。

 例えば、マルチアクチュエーター搭載HDDは次のような用途で役立つと考えられる。

  • メールサーバ
  • ビデオストリーミング
  • コンテンツデリバリーネットワーク
  • 分散処理コンピューティングシステム

 ストレージのインタフェース規格「SAS」(Serial Attached SCSI)に準拠したインタフェースを持つHDDの場合、システムはデュアルアクチュエーター搭載のHDDを、2つの独立した「LUN」(論理ユニット番号)として認識する。論理ユニットは、データの記録領域を論理的に区分した単位を指す。例えば、デュアルアクチュエーターを搭載する容量18TBのHDDがあるとする。これを、それぞれ9TBの容量を持つ2つのLUNとしてシステムに対して表示することができる。

 ストレージのインタフェース規格「SATA」(Serial ATA、Serial Advanced Technology Attachment)準拠のインタフェースを搭載するHDDの場合、容量18TBの単一のデバイスとしてシステムに表示される。


 次回は、マルチアクチュエーター技術を実際に搭載したHDD製品を例にして、具体的にはどのような利点が期待できるのかを解説する。

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

製品資料 プリサイスリー・ソフトウェア株式会社

データソート性能向上でここまで変わる、メインフレームのシステム効率アップ術

メインフレームにおけるデータソート処理は、システム効率に大きく影響する。そこで、z/OSシステムおよびIBM Zメインフレーム上で稼働する、高パフォーマンスのソート/コピー/結合ソリューションを紹介する。

事例 INFINIDAT JAPAN合同会社

従来ストレージの約8倍の容量を確保、エルテックスが採用したストレージとは

ECと通販システムを統合したパッケージの開発と導入を事業の柱とするエルテックスでは、事業の成長に伴いデータの容量を拡大する必要に迫られていた。そこでストレージを刷新してコスト削減や可用性の向上などさまざまな成果を得たという。

製品資料 日本ヒューレット・パッカード合同会社

空冷だけではなぜ不十分? データセンターの熱負荷対策をどうする

CPUやGPUの性能向上に伴い、データセンターでは今、発熱量の増加にどう対応するかが課題となっている。特に高密度なサーバ環境では、従来のファンやヒートシンクに頼るだけでは熱管理が難しい。こうした中、企業が採用すべき手段とは?

比較資料 アイティメディア広告企画

ユーザーレビューで徹底比較、オンラインストレージ選定ガイド【2025年冬版】

オンラインストレージは幅広い用途で利用されるだけに、市場に提供される製品も多数に上る。最適なサービスを選定するための基礎知識を解説するとともに、ユーザーレビューから分かったサービスの違いを明らかにする。

製品資料 Dropbox Japan株式会社

ファイルサーバをアウトソーシング、「クラウドストレージサービス」の実力

中堅・中小企業の中には、IT担当者が社内に1~3人しかいないという企業も少なくない。そのような状況でも幅広い業務に対応しなければならないIT担当者の負担を減らす上では、ファイルサーバをアウトソーシングすることも有効だ。

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

ITmedia マーケティング新着記事

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...

news040.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。