ITエンジニアが不足しているのであれば、採用よりも育成が“真の解決策”になることがある。通信大手BT Groupは、IT分野の専門知識がない従業員をサイバーセキュリティの専門家として育成している。
IT人材の流出や確保は、企業にとって重大な課題の一つとなっている。探しても良い人材が見つからないのであれば、既存の従業員を配置転換して、特定の分野の専門家として育成する企業がある。IT分野での業務経験がほとんどない従業員をサイバーセキュリティ分野の専門家として育成している通信大手BT Groupの例を紹介する。
通信大手のBT Groupは、同社のあらゆる事業部門の候補者を対象にリスキリングプログラムを導入している。「DEI」(ダイバーシティー、エクイティー、インクルージョン:多様性、公平性、包摂性)を推進し、スキルや人材不足に悩むサイバーセキュリティ分野での従業員の定着率を高めることが目的だ。
2022年3〜7月にBT Groupが実施した第1期のリスキリングプログラムは30人の枠で募集した。応募の条件としてITリテラシーを求める一方、IT分野の専門的な業務の経験や、サイバーセキュリティの知識は求めなかった。候補者はコールセンターや小売店で1〜25年勤務する22〜50歳の従業員だった。その大半はIT分野のスキルや管理職の経歴を持たない。参加者の約40%が女性だったことも注目に値する。
第1期のリスキリングプログラム参加者は、社内公募を通じて応募した200人の従業員の中から選ばれた。合格者はその後、サイバーセキュリティトレーニングベンダーCapslockが提供するオンライントレーニングに登録し、メンターからの専門的な指導を受けた。BT Groupのメンターと同僚からも、同社のシステムやネットワークの理解に重点を置いた指導を受けた。
リスキリングプログラムが半分程度経過した時点で、参加者はプログラムを通じて取得した適性スコアと居住地の情報を基に、計画されていた職務30件のうちの一つに配属された。配属先での定着率は100%を維持している。参加者の中には、専門的な学習を続けている者が2人いる。一人はコンピュータサイエンスの理学士号を、もう一人は修士号を取得中だ。
「このようなリスキリングプログラムには人生を変える力がある」。BT Groupでサイバーセキュリティ分野の商業戦略および成長部門のディレクターを務めるオーロラ・チェイニー氏は、リスキリングプログラムの参加者にIT部門での勤務経験者がいなかったことを前提にしてそう語る。
参加者はリスキリングプログラムの「真の成功者」として、社内外でプログラムをプロモーションしている。リスキリングプログラムの第2期には、1000人を超える応募があったという。
サイバーセキュリティの脅威が増大する中、企業はセキュリティ分野のスキルや知識を有する人材を必要としている。だがそうした人材を採用することは一筋縄にはいかない。「そのような状況においては、多様な人材を確保するためのパイプラインを開発することが重要だ」。チェイニー氏はそう話す。
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