ITエンジニア不足なら「採用ではなく育成」こそが“本当の近道”だった?人材採用という選択肢を捨てる【前編】

ITエンジニアが不足する中で、IT分野で必要な人材を採用することは企業にとって簡単ではなくなっている。重要なのは人材を採用するという考え方に固執しないことだ。ある企業の取り組みを紹介する。

2024年09月17日 08時00分 公開
[Cath EverettTechTarget]

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 ITエンジニアの採用や定着が難しくなることが企業にとっての深刻な問題となっている。高度なスキルを持つIT人材の採用は簡単にはいかないこともある。そこで重要になるのは、人材を採用するという選択肢に固執しないことだ。どういうことなのか。実際に非エンジニアからの転身例が出ている他、離職率を低く抑えられている企業の取り組みを紹介する。

「ITエンジニア育成」こそが本当の近道だった理由

 xSolutions365(旧xDesign。CreateFutureの名称で事業展開)は500人の従業員を擁するITコンサルティング企業だ。同社にとって、高度なスキルを保有する人材を採用するのではなく、従業員のスキルアップを図ることは事業を運営する上での不可欠な取り組みとなっている。同社エンジニアリング部門の責任者を務めるアイリス・ウインター氏によると、自社の価値観や文化を理解している従業員は、社外から来た人材よりも優れたパフォーマンスを発揮する傾向にある。

 人材が成長するためのさまざまな取り組みをxSolutions365は実施している。全社規模のハッカソン(複数の開発者がアイデアや技術を持ち寄ってアプリケーションを開発するイベント)や、従業員の個人的な興味や挑戦の意思を生かした部門横断型チームの結成もその一つだ。「ハッカソンの目標はアプリケーションを作ることではなく、その取り組みを通じて従業員がさまざまなスキルを習得することだ」とウインター氏は説明する。部門横断型チームでは、例えば経理部門の従業員がソフトウェア開発に1週間だけ挑戦してみるといった取り組みを実施する。

 中にはハッカソンの経験を通じて、専門分野の変更を選んだ従業員もいるという。例えば、採用部門の担当者だった従業員はモバイルOS「iOS」用アプリケーションの開発者になり、品質保証部門の担当者2人はフロントエンド開発者になった。

 ハッカソンから生まれたアプリケーションとしては、従業員のスキルを可視化する「Skills Matrix」がある。同アプリケーションでは特定のスキル習得を支援するメンターになることを志願したり、メンターからの指示を仰ぎたいという意思表示をしたりすることが可能だ。

 xSolutions365は従業員同士の学習コミュニティーの立ち上げも支援している。そうしたコミュニティーでは、従業員が定期的に集まり、興味のあるテーマについてディスカッションしたり、講演者を招いて知見を共有してもらったりする。従業員がカンファレンスを開催し、ワークショップやプレゼンテーションを提供することもある。

 こうした取り組みの結果が、xSolutions365の低い離職率に表れているとウインター氏は考えている。同氏によると、業界の離職率の平均が13.2%であるのに対し、同社の離職率は8%だ。「働きがいのある会社」を認定している機関Great Place to Workのランキング「Best Place to Work for Wellbeing」では、xSolutions365は2023年に英国で1位になった。

 ウインター氏によると、離職率が低くなっている理由は主に2つある。1つ目は、従業員が学習と継続的な改善に前向きになれるように会社が支援していること。2つ目は、従業員が心理的安心感を抱きながら、さまざまな方法で学習できるように会社が支援していることだ。

 従業員の誰もが安心感を抱ける文化を醸成することが重要だとウインター氏は考えている。「大切なのは、誰の意見にも正当性があることと、それぞれが異なる考えを持っていることを全従業員が理解し合うことだ」(同氏)


 次回は人材会社が実施している、優良な人材確保に関する取り組みを紹介する。

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