生成AIの普及や市民開発者の出現で、ITエンジニアの仕事は変化しつつある。専門家の意見を基に、企業での需要が見込まれ、経営層への昇進も目指せるIT関連の職種を7つ紹介する。
人工知能(AI)技術の活用が広がり、ビジネスの知見とITを駆使してアプリケーションを開発する「市民開発者」が登場する中で、ITエンジニアの仕事に変化が起きている。これから需要が拡大すると見込まれるIT職種とは。専門家への取材を基に、需要が見込まれる7つの職種と、その職種に必要なスキルや各職種の平均年収をまとめた。
AI技術を搭載した新製品やサービスを開発し、市場の投入と管理、他サービスや製品との展開をリードするのがAIプロダクトマネジャーの仕事だ。
AIに関する知識に加えて、データサイエンスやユーザーエクスペリエンス(UX)の設計、プロダクトマネジメントのスキルが必要だ。これらを基に、AIを生産性向上や業務を支援する手段、競争優位性を生み出すためのツールとして活用できるのがAIプロダクトマネジャーの強みだ。
AIプロダクトマネジャーを志望する人材は「STEM」(科学、技術、工学、数学)やデータサイエンスのバックグラウンドを持つ傾向にある。これらに加えて重要な要素がコミュニケーションスキルだ。プロダクトマネジメントの経験とAIのスキルがあれば、魅力的な人材として企業から求められる。現在の職場でAIプロダクトマネジャーのポジションを得ることはできないか探るのも一つの手だ。
求人情報サイト「Glassdoor」によると、米国におけるAIプロダクトマネジャーの平均年収は2024年8月時点で15万3158ドル。ボーナスや成果報酬を含めると24万6487ドルだ。
事業部門やエンドユーザーが求める技術要件や課題を収集、分析し、関係各所にその情報を伝えて課題解決やプロジェクトの推進につなげるのがビジネスアナリストの職務だ。
ビジネスアナリストとして成功を収めるには、ITやビジネス全般に対する幅広い理解、プロジェクト管理やチェンジマネジメント(組織の変革を成功させるためのマネジメント手法)、コミュニケーションのスキルが必要だ。AIの可能性や限界、倫理的な課題についての知識も求められる。
新人レベルからスタートし、経験を積み成長する機会を得られればリーダーの地位を目指すこともできる。ビジネスアナリストはITエンジニア向けではないが、専門性を追求し、ITビジネスアナリストになることも可能だ。
給与データを収集してまとめているWebサイト「Salary.com」によると、米国におけるビジネスアナリストの平均年収は2024年7月時点で10万6257ドルだ。
AIに投資する企業は増加しており、その取り組みを指揮するリーダーを必要としている企業もある。CAIOはITベンダーに勤務する傾向にあるが、ITベンダー以外の企業での採用も広がっている。ビジネス戦略におけるAIの活用や、組織全体でのAI活用の能力向上を目指す上でCAIOの役割は重要になる見通しだ。
CAIOに求められるのは、エンドユーザーの指示を基にテキストや画像、音声などのデータを生成する生成AI(ジェネレーティブAI)と大規模言語モデル(LLM)に関する知識だ。加えて、ビジネスに対する戦略的な視座や事業目標の達成に向けたAIの活用、チェンジマネジメントといったマネジメントの知見も重要だ。
AI技術への投資をビジネス戦略と一致させる上で重要な役割を担うCAIOは、経営層の中でも大きな発言権を手にすることができる職務だ。CAIOを経て、バイスプレジデントや最高執行責任者(COO)といった役職への道が開ける可能性もある。
Glassdoorによると、米国におけるCAIOの平均年収は2024年8月時点で15万6811ドル。ボーナスや成果報酬を含めると34万1488ドルだ。
ビジネスの変革と価値の創出を推進するキープレーヤーがCTOだ。企業のAI活用が進むにつれて、CTOの重要性と影響力は増大する見通しだ。戦略立案やリスク管理、AIに関するプロジェクトのROI(投資利益率)の理解、コミュニケーションスキル、チェンジマネジメントなどマネジメント分野の知見が必要な職務だ。
製品やサービスの開発、その実装を、AIを使って変革することがCTOには期待される。AI技術の戦略的な導入やリスク管理を主導したり、ITと事業目標を合致させたりする役割を担うため、AIスキルやシステムアーキテクチャ、ITインフラに対する理解が必要だ。
CTOの役割を担う人材は、ビジネスのニーズや戦略に関する知見を持つ傾向にある。CTOとして成果を出せば、最高経営責任者(CEO)やCOOの座を手にすることも可能だ。IT系スタートアップ(創業間もない企業)の中には、創業幹部がCEOとCTOを兼任している場合もある。
Salary.comによると、米国におけるCTOの平均年収は2024年7月時点で30万3874ドルだ。
サイバーセキュリティの脅威から企業のITインフラを守るのがITリスクアナリストの職務だ。具体的には、データサイエンスの観点からシステムを監査したり、脆弱(ぜいじゃく)性を検出したりして、リスク管理を主導する。
ITリスクアナリストは、情報セキュリティの取り組みの一つであるリスク評価を実施する。脆弱性の検出や事前対策はセキュリティ対策の中でも極めて重要で、データ保護のみならず、コーポレートガバナンスや規制を順守するためにも不可欠な取り組みだ。AI技術は、巧妙かつ効率的なサイバー攻撃に悪用されるという予測がある。ITリスクアナリストには、インシデントの発生に迅速に対処できる知識と洞察力が求められる。事実とは異なる情報を出力する幻覚(ハルシネーション)を起こさないようにする、著作権を侵害するデータを出力させないといった観点からAI技術の適切な活用を推進するための枠組みを構築することも、ITリスクアナリストの職務だ。
ITリスクアナリストは、STEMやビジネス関連の学位と業務経験を持つ傾向にある。AI技術の活用やリスク分析を実施できるかどうかが、ITリスクアナリストとして活躍できるかどうかのポイントだ。ITリスクアナリストとしての業績を収めれば、AI関連の上級職やITセキュリティ分野の上級職への道が開ける。昇進は資格の取得や継続的な学習、所属する技術業界団体に左右される場合がある。
Salary.comによると、ITリスクアナリストの平均年収は2024年7月時点で6万4453ドルだ。
エンドユーザーが何を求めているかを生成AIに伝え、望ましい回答を生成させるプロンプト(情報生成のための質問や指示)の作成や最適化を主導するのがプロンプトエンジニアだ。生成AIを使ったコンテンツの生成やバーチャルアシスタントとしての活用を推進する上でも必要な職務だと言える。この職務で業績を上げるためには、AIの挙動や自然言語処理(NLP)への理解、問題解決に向けた創造性が求められる。
AI技術を取り巻く情勢は変化している。AI技術の応用以外にも、プロンプトエンジニアに求められる技術やスキルは変化する見込みだ。中でも重要な要素が、状況に合わせて機敏に変化に順応し、時には方向転換しながら小規模な変更を短期間のうちに繰り返す「アジャイル」型の動きだ。成長への意欲や、自分自身や他者の感情を感じ取って理解するスキルも必要になる。
プロンプトエンジニアとして成功すれば、AIに関するプロジェクトや部門のリーダー、CTOやリードプロンプトエンジニアといった上級職への昇進が期待できる。
foorillaが運営するAI関連の求人情報サイト「aijobs.net」によると、2024年7月時点のプロンプトエンジニアの平均年収は13万5000〜21万7500ドルだ。給与額は、需要や専門性によって変動する場合がある。
データセキュリティに対する脅威が増加傾向にある中で、高度なセキュリティ対策を専門とするセキュリティアナリストは需要が見込まれる職種だ。その役割は、ITインフラやネットワークのデータ分析やリスク評価、社内での啓発活動やトレーニングプログラムの開発といった取り組みを通じてセキュリティインシデントから企業を守ることだ。
ITインフラだけではなく、AIシステムが稼働するインフラや、AIシステムそのものを標的としたサイバー攻撃に対処できるスキルが求められる。データセキュリティのベストプラクティスや暗号化技術に対する深い理解が必要だ。
セキュリティアナリストを目指す人材は、コンピュータサイエンスやITといったSTEM関連の学位を持つ傾向にある。この職務で成功を収めるには、セキュリティ分野で使用するプログラミング言語やシステムアーキテクチャの知識に加えて、AIモデル開発のためのフレームワーク(開発に必要な機能の集合体)やサイバーセキュリティプロトコルといった、特有の技術に精通している必要がある。分析的思考や戦略立案、ITを専門としない関係者とも友好的なコミュニケーションを取るスキルも求められる。テクノロジーとビジネスのスキルを示すことができれば、経営層として活躍することも可能だ。
米国労働省労働統計局(BLS:Bureau of Labor Statistics)が2024年4月に公開したデータによると、セキュリティアナリストの2023年給与の中央値は約12万ドルだった。
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