「PCが重い」を解消――パフォーマンスを上げる“裏メモリ”の正体PC動作を支える仮想メモリ【前編】

PCの動作が重くなったとき、「メモリ不足では」と思ったことはないだろうか。そんなときに力を発揮するのが「仮想メモリ」だ。PCの快適さを保つために欠かせないその仕組みとは

2025年07月20日 08時00分 公開

 PCを使っていて「動作が重い」と感じたことはないだろうか。その原因の一つが、搭載されたメモリ(RAM)の容量不足だ。標準的なPCには8GB以上のメモリが搭載されているものの、複数のアプリケーションを同時に開いたり、メモリを大量に消費するアプリケーションを使ったりすると、すぐに限界に達してしまうこともある。

 こうした状況を解消するためにあるのが、「仮想メモリ」という仕組みだ。ストレージの一部をメモリのように使うことで、見かけ上のメモリ容量を増やすこの技術は、快適にPCを使い続けるための重要な存在になっている。本稿では、仮想メモリの仕組みとメリットの他、ページングやセグメンテーションといった方式も解説する。PCのパフォーマンスを理解し、賢く使いこなすために、知っておきたい知識だ。

見かけのメモリを増やす“影のメモリ”の正体

 仮想メモリとは、ストレージ(記憶装置)の一部を仮想的に物理メモリとして利用するメモリ管理技術だ。これにより、実際の物理メモリが不足した場合でも、ストレージを一時的な補助記憶領域として活用できるため、メモリの使用効率が向上し、システム全体の安定性も高まる。こうした利点から、主要なOSには仮想メモリ機能が標準搭載されている。

 仮想メモリは、ハードウェアとソフトウェアの連携によって、メモリ上のデータをストレージに一時的に退避させる。これはスワップと呼ばれる。OSは「メモリアドレス」(メモリ内のデータを識別するための番号)を用いて、仮想メモリアドレス空間とスワップ領域(ストレージ上の一時的な保存場所)を対応付けることで、ストレージをあたかもメモリのように扱う。アクセス頻度の低いデータをHDDやSSDなどのストレージにスワップすることで、物理メモリの空き容量を確保でき、システム全体のパフォーマンス維持に役立つ。

 仮想メモリは、物理メモリの容量不足によるパフォーマンスの低下を防ぎ、複数のプログラムを同時に実行したり、大規模なプログラムを動かしたりする際に役立つ。ただし、仮想メモリは物理メモリに比べて読み書き速度が遅いため、過度に依存するとかえってパフォーマンスが低下する恐れがある。特に、OSが仮想メモリと物理メモリの間で頻繁にデータをスワップ(入れ替え)する状態になると、「スラッシング」と呼ばれる現象が発生し、システムの動作が極端に遅くなる。

 物理メモリが非常に高価だった時代に仮想メモリは登場した。当時は、コンピュータに搭載できる物理メモリの容量にも限界があり、増設は容易ではなかった。そこで、ストレージの一部を使って物理メモリをエミュレート(模倣)し、見かけ上のメモリ容量を拡張することで、より多くのデータやプログラムを扱えるようにした。これにより、物理メモリを追加購入するコストを抑えることが可能になった。

仮想メモリの仕組み

 仮想メモリは、ハードウェアとソフトウェアの両方を活用して機能する仕組みだ。プログラムが実行される際、読み書きするデータはまず物理メモリに格納される。物理メモリの空き容量が不足すると、仮想メモリを使ってデータを一時的にストレージに退避させることができる。この処理は「スワップアウト」と呼ばれ、プログラムの一部をストレージ側に移すことでメモリの空きを確保する。

 一方で、必要になったデータを再び物理メモリに戻す処理を「スワップイン」と呼ぶ。これらのプロセスを支えるのが、CPU(中央演算処理装置)に組み込まれたMMU(メモリ管理ユニット)だ。MMUは仮想メモリアドレスを物理メモリアドレスに変換する役割を担っており、プログラムは仮想メモリアドレスを通じてデータにアクセスしている。

 スワップアウトやスワップインには一定の時間がかかるため、仮想メモリへの依存が過度になると、PCのパフォーマンスは確実に低下する。仮想メモリは物理メモリよりもアクセス速度が遅いため、物理メモリの容量が大きいほど、全体の処理性能は高くなる傾向にある。

仮想メモリの方式

 一般的な仮想メモリの方式には、主に以下の2つがある。

ページング

 ページング方式では、メモリ領域を「ページ」と呼ばれる固定長の単位に分割して管理する。物理メモリの空き容量が不足した場合、使用頻度の低いページをスワップ領域(ストレージ上の一時保存場所)にスワップアウトし、必要に応じて再びスワップインする。この仕組みにより、OSやアプリケーションは、あたかも十分な物理メモリが存在するかのように動作できる。スワップ領域は、一般に物理メモリの1.5〜4倍程度に設定されることが多い。

 ページング方式では、「ページテーブル」と呼ばれるデータ構造を使用する。ページテーブルは、OSやアプリケーションが扱う仮想メモリアドレスと、実際の物理メモリアドレスとの対応関係を記録するものだ。各ページが物理メモリ上に存在するかどうかを示す情報は「エントリ」と呼ばれる。OSやアプリケーションが必要とするデータが物理メモリ上に存在しない場合、MMUは「ページフォールト」と呼ばれる割り込み処理を発生させ、OSに通知する。これを受けて、OSは該当するページをスワップインし、物理メモリ上に再配置する。この処理により、ページテーブルも更新される。

 ページング方式では、スワップアウトするページを選ぶために「ページ置換アルゴリズム」と呼ばれる仕組みが用いられる。代表的なアルゴリズムには、次のようなものがある。

  • FIFO(First In, First Out)
    • 先入れ先出し方式。最も古くからメモリ上に存在するページを優先的に置換する。
  • LRU(Least Recently Used)
    • 最も長時間アクセスされていないページを優先して置換する。実際の使用状況に基づく合理的な方式として広く利用されている。
  • OPT(Optimal Page Replacement)
    • 今後最も長時間アクセスされないと予測されるページを置換する方式。理論上は最も効率的とされるが、将来のアクセスを正確に予測するのは困難なため、実用よりも評価基準として使われることが多い。

セグメンテーション

 セグメンテーション方式では、メモリを可変長の「セグメント」(論理的な区画)に分割して管理する。アクセス頻度の低いセグメントは、必要に応じてスワップ領域にスワップアウトされる。

 セグメントごとの情報は「セグメントテーブル」と呼ばれるデータ構造に保持される。これは、指定したセグメントが物理メモリ上に存在するかどうかや、変更の有無などを追跡するために用いられる。

 なお、ページングとセグメンテーションは、どちらもメモリの分割方式だが、そのアプローチが異なる。両者を組み合わせることも可能で、この場合はメモリをまずセグメント単位に分割し、さらに各セグメントを複数のページに分割して管理する。このような構成では、仮想メモリアドレスはセグメント番号とページ番号の両方を含むことになる。


 次回は、仮想メモリの設定方法を中心に解説する。

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