「Ansible」「Terraform」連携強化へ Red Hat×HashiCorpにユーザーも注視IBM傘下で両社が協力

IBMによる買収を経て、Red HatとHashiCorpの構成管理ツールが新たなステージに進む。両社の幹部が明かした計画は、「Ansible」と「Terraform」を併用するユーザー企業から期待の声をもって迎えられている。

2025年08月01日 05時00分 公開
[Beth PariseauTechTarget]

 インフラ構成をコードとして管理する手法「Infrastructure as Code」(IaC)において、長年にわたり、Red Hatの「Ansible」とHashiCorpの「Terraform」が、構成管理ツールの2大巨頭として存在感を示してきた。両者はそれぞれ得意な分野が異なり、併用されることも珍しくなかったが、連携には課題もあった。

 2015年、Red HatがAnsibleを買収した。そして2019年、Red HatはIBMの傘下となった。2025年2月末、65億ドルを投じたIBMによるHashiCorpの買収が完了したことで、IBMの元で、AnsibleとTerraformの連携が進むことが期待される。2025年5月に「Red Hat Summit 2025」と同時開催されたイベント「AnsibleFest 2025」の基調講演で、Red HatのAnsible事業部門でバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーを務めるサティシュ・バラクリシュナン氏は、HashiCorpの共同創業者兼CTO(最高技術責任者)であるアーモン・ダドガー氏をステージに招き入れ、両製品の今後の連携について語った。本記事では、そこでの発言の内容と、ユーザー企業の反応を紹介する。

「Ansible」と「Terraform」の連携が深化する

 ダドガー氏は次のように語る。「インフラのプロビジョニング(立ち上げ)ツールとして誕生したTerraformは、今や高度な連携機能を備えた構成管理ツールとなった。今後の目標は、Ansibleの商用版『Red Hat Ansible Automation Platform』(以下、Ansible Automation)や、Ansible Automationの自動化機能『Event-Driven Ansible』とのより緊密で効果的な連携だ。現状では、インフラ構築後の運用段階において、ドリフト(定義からの逸脱)検出や、パッチ(修正プログラム)管理など、さまざまな点で連携が不十分だ。これは、AnsibleとTerraformの状態管理やインベントリ管理のアプローチが異なることに起因している」

 今回発表された計画は、こうした分断を解消するための一歩となる。次のような計画だ。

  • Terraformの商用版「Terraform Enterprise」に、IaCでリソースが作成された際にAnsible Automationのワークフローを呼び出す関数「事前プロビジョニングフック」を追加
  • Ansible Automationに、ワークフローのテンプレートがTerraform Enterpriseを呼び出す機能、およびシークレット(マシンの認証情報)管理ツール「HashiCorp Vault」のサポートを追加
    • これによりAnsible AutomationがHashiCorp Vaultの認証情報を利用できる
  • Terraform EnterpriseとAnsible Automationの連携を強化し、インフラの作成、変更、削除といったインフラ運用段階のサポートを強化
  • 両製品が公式にサポートしているクラウドサービスと連携するプラグインおよびモジュール(複数のリソースをまとめたもの)の共有

 オープンソース版Ansibleと、そのGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)およびAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)ツール「AWX」は、「Apache License」のバージョン2.0に基づき引き続き無料で利用可能だ。2023年にHashiCorpがTerraformを含むOSS(オープンソースソフトウェア)のライセンスを、より制限の多い「Business Source License」(BSL)に切り替えた際には、大きな反発の声が上がった。今回はこのような心配はなさそうだ。

 発言の中で、ダドガー氏は商用版に当たるAnsible AutomationとTerraform Enterpriseについてのみ言及している。本稿執筆時点では、オープンソース版での連携強化についてベンダーからのアナウンスはない。

ユーザー企業による期待

 AnsibleFest 2025の分科会で、決済大手Visaのディレクター、ベナジール・ベーグム氏は、現在のAnsibleとTerraformのプロバイダーの連携には改善の余地があると語った。

 「非常に古く、静的だ」とベーグム氏は語る。「1度の送信で扱えるテンプレートや認証情報は1つだけだ。VisaのチームはIBMやRed Hatと協力して、プロバイダーの強化に取り組んでいる。われわれの環境では、AnsibleでTerraformのAPIを呼び出すことで、Terraformにアクションを起こさせている。より動的な連携の実装を望んでいる」

 大手金融機関Wells Fargo & Company(Wells Fargoの名称で事業展開)もAnsible AutomationとTerraform Enterpriseを併用している。同社のプラットフォームイングレーションソフトウェアエンジニアリング部門のプリンシパルエンジニア、アンドレア・ファルッカ氏によると、パブリッククラウドではTerraform Enterprise、プライベートクラウドではAnsible Automationというように使い分けているという。

 「一時的なインフラを構築する際には、Terraformが最適だ」と、ファルッカ氏は語る。「AnsibleとTerraformの連携に期待するものは、異なるツールではなく、まるで1つのツールのように扱えることだ。プロバイダーやモジュールを開発する際に、複数のプレイブック(タスクを定義したファイル)を並べて、単一のインタフェースで操作するような形が理想だ」と語る。

Ansible Lightspeed

 AnsibleFest 2025では、Ansibleの担当者が、インフラ管理自動化のビジネスへの影響度を測定できる、Ansible Automationのカスタマイズ可能な自動化ダッシュボード機能を紹介した。また、約1年半前から一般提供されている生成AIアシスタント「Red Hat Ansible Lightspeed」(以下、Ansible Lightspeed)についても説明がなされた。

 Ansible Lightspeedを本番環境に導入しているユーザー企業の数は公表されていないが、導入予定の団体としてNavy Federal Credit Union(米国海軍信用組合)のプラットフォームエンジニアリングマネジャー、クレイグ・ミッチェル氏が米Informa TechTarget編集部の質問に答えた。

 「Ansibleのプレイブックとドキュメントを生成するためにAIコーディングツール『GitHub Copilot』を試したが、トレーニングデータがAnsibleに特化していないため、役に立たないことがすぐに分かった。PoC(概念実証)で非常にポジティブな結果が得られたので、今後3カ月以内のAnsible Lightspeedの導入を予定している。自然言語で指示できる点も高く評価できる。Ansible Automationを扱える従業員を増やすのにも役立つかもしれない」(ミッチェル氏)

翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(株式会社リーフレイン)

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