ネットワークは“つながる”だけでは十分ではない。複雑化するITインフラを支えるには、目に見えない領域での最適化が不可欠だ。ネットワークのパフォーマンスの観点から、信頼性向上につながるポイントを解説する。
ネットワークはいつも目立たない存在ではありつつも、ITインフラの基盤となる重要な要素だ。ネットワークに障害が発生すれば、業務の停止やサービスの遅延といった重大な影響を及ぼす恐れがある。ネットワークの「信頼性」を高めるには、どのような知識とノウハウを持っておけばいいのか。
ネットワークの信頼性を支えるプロトコルを解説した第1回「“止まらないネットワーク”に不可欠な『FHRP』『OSPF』『BGP』とは何か?」に続き、本稿ではネットワークの「パフォーマンス最適化」に着目する。企業ネットワークの複雑化が進む今、単に通信がつながっているだけでは十分とは言えない。高負荷時にも安定した応答性を維持し、障害時には即座に復旧することが求められる。
ネットワークのパフォーマンスを向上させる最適化戦略は、信頼性の確保にも寄与する。ネットワークのパフォーマンスを最適化するための主要な3つの手法は次の通り。
通常のOSPF(Open Shortest Path First)では、リンク障害を検知するまで最大で40秒かかることがある。ネットワーク管理者は、障害検出の高速化を図るためにHELLOパケット(隣接ルーターとの通信状態を確認するための監視パケット)の送信間隔を1秒程度まで短縮することが可能だが、その分ルーターのCPU負荷が大幅に増大してしまう。これは、OSPFのコントロールプレーン(制御機能)が頻繁にHELLOパケットを送受信し、隣接ルーターとの関係を管理しながらルートの再計算を繰り返さなければならないためだ。
これに対して、BFD(Bidirectional Forwarding Detection)は、ルーティングプロトコルと連携しながらも、CPUに過度な負荷をかけずに50ミリ秒レベルでの障害検出を実現する。BFDは主にデータプレーン(実際のデータ転送を担う機能)で動作し、障害検出の処理は専用のハードウェアにオフロードされるため、ルーターのCPUに余分な計算処理を強いることなく、迅速なリンク障害の検出が可能になる。
ルート要約(ルート集約とも呼ばれる)は、デバイスに割り当てられた複数のIPアドレスを、共通するプレフィックス(アドレス範囲)に統合し、ひとまとめの経路としてアドバタイズ(自身が保持している経路情報を他のルーターへ通知する処理)する技術だ。要約されたルート情報は、OSPFのエリア間や、異なるネットワーク間で経路情報を交換するプロトコルBGP(Border Gateway Protocol)のAS(自律システム)間、あるいはデータセンターのネットワーク層(レイヤー)間などで、他のネットワークセグメントにあるルーターへ通知される。
ルート要約の主な利点は、ルーティングテーブルのサイズを縮小し、ルーターの負荷を軽減できることにある。障害発生時のルート再計算においても、CPUの処理負荷を最小限に抑えやすくなる。これは、ルーターが扱う個別の経路情報が減ることで、更新処理そのものが軽量化されるためだ。
また、要約によってルートが単純化されることで、ネットワーク全体の安定性やパフォーマンスの最適化にもつながる。ただし注意点もある。ルート要約の設定を誤ると、ルーティングループ(経路の無限循環)が発生するリスクがある。これを防ぐために、BGPではAS_PATH属性(ルートが通過したAS番号のリスト)を保持することが重要になる。
例えば、AS番号「65001」が複数の経路を1つに要約して他のASに広告し、それを受け取ったAS「65002」が再び逆方向に広告しようとするケースを考える。この場合、BGPはAS_PATHに自身(65001)のAS番号が含まれていることを検知すると、ループ回避のためその経路を自動的に破棄する。
負荷分散は、ネットワークトラフィックを複数の経路や出入口装置(ルーターなど)に均等に振り分ける仕組みだ。これにより、1つの経路や装置にトラフィックが集中することを避け、ネットワークの帯域を有効活用できる。
この方式は、仮想ルーターによる冗長構成を実現するプロトコルVRRP(Virtual Router Redundancy Protocol)の構成のように、単一の出入口デバイスに依存し、障害時のみバックアップに切り替えるフェイルオーバー型の冗長構成とは異なる。通常時から複数経路を同時に利用して、全体の負荷を分散するのが特徴だ。
BGPで負荷分散をするには、BGPマルチパス機能を有効にする必要がある。この機能を使えば、同じメトリック(経路コスト)を持つ複数の経路を、ルーティングテーブルに同時に登録して利用することが可能になる。OSPFも同様で、複数のルートが同じコストであれば、それらを同時に使って負荷分散することができる。
次回はQoS(Quality of Service)の代表的な技術を解説する。
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