クラウドサービスからオンプレミスのインフラに回帰する動きは、単なる“揺り戻し”ではない。企業は新たなインフラ戦略の一環として、どのような観点からオンプレミス回帰を選択しているのか。
クラウドサービスからオンプレミスインフラへと、アプリケーションやデータを戻す「脱クラウド」(オンプレミス回帰)の動きが一部で見られる中、「クラウドは万能ではない」という認識もまた広がりつつある。その動きの本質を見極めるには、単にオンプレミスに移行する動きがあるという表層的な観測にとどまってはいけない。
脱クラウドが戦略的に選択されている背景を取り上げた第3回「『脱クラウド』『オンプレミス回帰』がブームではなく“戦略”として広がる理由」に続き、本稿は脱クラウドの動きと共にどのようなインフラ戦略が求められるようになっているのかを考える。
英国の公正取引委員会(CMA:Competition and Markets Authority)が2025年1月に更新した調査報告書は、英国のクラウドサービス市場の大部分のシェアが米国のハイパースケーラー、特にAmazon Web Services(AWS)とMicrosoftによって占有されており、行政、医療、教育といった公共部門のクラウドサービス調達の健全な競争が妨げられていると警告した。
報告書によると、米国の大手クラウドサービスは、英国の公共部門がマルチクラウドに移行したり、公正な条件で価格交渉したりするのを難しくしているという。CMAは、クラウドサービス間の互換性の義務付け、ソフトウェア製品とのバンドル(組み合わせて販売)の規制、そして新規参入を容易にする市場構造への変化といった改善策を提案した。
報告書は、英国政府が、公共部門を保護するために、より強力な監視や規制を実施するようになる可能性を浮き彫りにした。これは、たとえクラウドサービスの完全な国産化が非現実的だとしても、クラウドサービスの調達戦略において、デジタル主権やレジリエンス、リスク軽減といった要素がますます加味されるようになっている世界的な傾向を裏付けている。
ブースト氏は英国の公共部門のクラウドサービス調達戦略に批判的だ。同氏はデジタル主権とレジリエンスに対する懸念の高まりにもかかわらず、政府が米国のクラウドベンダーを依然として優遇していると指摘する。「英国政府は自国で生まれたイノベーションを後押しすることで模範を示すべきだ。重要な産業を海外の勢力に明け渡してはならない」と警鐘を鳴らす。
とはいえ、実際には全てが国内回帰することはないだろう。AIアプリケーション、機密データ、需要の予測が可能なワークロードは国内に回帰しているが、パブリッククラウドを全面的にやめてしまうケースはまれだ。
2025年のクラウド分野におけるトレンドはレジリエンスにある。ハイブリッドクラウド、デジタル主権、柔軟性の考慮は、技術と規制の今後の変化に耐え得るITインフラ構築に不可欠な要素となりつつある。
ロビンソン氏は今後の流れについて次のようにシンプルにまとめた。「誰もが完全な脱クラウドではなく、より賢くクラウドサービスを管理する方法を探している。オンプレミス回帰でも国内回帰でもなく、真のレジリエンスが次のトレンドだ」
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