IT業界の女性比率が伸び悩むのは、採用だけでなく職場文化やバイアスにも原因がある。多様な人材が公平に活躍できる環境をつくるには何が必要なのか。
IT業界に女性が集まりにくい要因は、教育や採用の段階だけにあるわけではない。第3回「IT系の職場から女性を遠ざける『IT系男子』の過酷な文化」では、女性が職場で男性優位の文化に直面し、結果的にキャリアの継続を断念する実態を紹介した。職場の文化的障壁や無意識のバイアスは、女性の離職や転職を招く要因の一つとなっている。では、この状況を変えるにはどうすればいいのか。本稿は、本来活躍できるはずの人材が、ジェンダーギャップを感じずに力を発揮できるようにするための糸口を探る。
Eコマース向けのフルフィルメントなどのサービスや技術を提供する企業Radialで、戦略および変革担当シニアバイスプレジデントを務めるショーナ・ボーエン氏。同氏が卒業した機械工学専攻のクラスでは、100人ほどいた学生の中で女性は同氏1人だけだったという。
ボーエン氏は、これまで概ね良好な職場経験を積んできたが、それでもジェンダーに基づく差別に直面したことが少なからずあったという。同氏が知る他の女性たちの中には、同じ職務に就く男性よりも低い賃金や差別、歓迎されない職場文化に悩まされた経験を持つ人もいる。「この10〜15年で、そうした壁がどれだけ改善されたのかは分からない」と同氏は語る。
ボーエン氏は、他の女性が同じ壁にぶつからないよう、全ての人が平等に成功のチャンスを得られる環境づくりに尽力している。そのために、職場の「公平性」と「平等性」を重視し、発言の少ないチームメンバーにも積極的に働き掛け、全員の貢献を引き出すよう努めている。
IT業界におけるジェンダーギャップを縮め、女性に対してより公平な賃金を実現しようと行動している企業は他にもある。例えば、ITサービス企業のNTT Data North America(以下、NTTデータ)は、多様な人材を引き付け、定着させるためにDEI(Diversity, Equity & Inclusion:多様性、公平性、包括性)プログラムへの投資を継続していると、ダイバーシティーおよびインクルージョンの最高責任者(Chief Diversity and Inclusion Officer)であるテリー・ハッチャー氏は語る。
ハッチャー氏によれば、NTTデータではDEIに関連する施策の中には成功例もある一方で、改善の余地があるものもあるという。同社の社内データによると、下層部では女性比率が40%を超えているが、中上層部ではその比率が下がっているのが現状だ。
この課題に対応するため、NTTデータでは多様な人材プールから採用することに加え、全社員が平等にキャリアの成功と昇進のチャンスを得られるよう、メンターシップ制度や支援プログラム、さらには「コンピテンシーフレームワーク」(能力評価基準)の見直しも進めているという。「当社では、リーダー層全体が多様な社員を支援できるようにしている」とハッチャー氏は語る。
とりわけ重視しているのは「無意識のバイアス」への対処だという。本人に差別的な意識がなくても、無意識のうちに他者を排除したり、不利益を与えたりするリスクがあるためだ。「管理職には、親しみや共通点を感じる相手に偏らず、チーム全体を理解し、さまざまな活動に積極的に関与してもらう必要がある」
NTTデータでは人材の定着を目的に、フレックスタイム制や週4日勤務制の導入にも取り組んでいる。2年以上職場を離れていた従業員向けの「職場復帰プログラム」も用意しており、キャリアアップを目指す社員のための育成プログラムも充実している。
ハッチャー氏はこう強調する。「ジェンダーギャップを縮めるためには、明確な意図を持った取り組みが欠かせない。努力し続けることが必要であり、本気で取り組まなければならない。この問題を見過ごしてはならない」
IT職における女性比率を高めるための方法は無数にある。その一つとして、企業が自社の人材ライフサイクル(採用から退職までの一連の人材管理プロセス)と、その中での意思決定プロセスを調査することが重要だと、人事調査コンサルティング企業McLean & Companyで、人事アドバイザリーサービス担当ディレクターを務めるエイドリアン・ゴウ氏は語る。調査によってバイアス(無意識の偏見)や障壁のあるプロセスを特定し、それを抑制・是正することで、より公正な職場環境を実現できる。
加えて、ジェンダーのバランスが取れた採用委員会の設置、氏名などを伏せて行う「ブラインド採用」、質問内容や評価基準を統一した「構造化面接」といった方法も、女性をIT職に引き付け、定着させるための効果的な手段になる可能性がある。「最も重要なのは、どこで公平性を欠く意思決定が起きているかを把握するために、採用慣行や評価指標の一貫性を追跡・分析することだ」と、ゴウ氏は強調する。
従来の採用手法に依存し、いつもと同じ媒体やネットワークに求人広告を出しているだけでは、結果も従来通りになってしまう。この点について、人材サービス企業Lamoreaux Searchの社長兼CEOで、ポッドキャスト「Diverse Tech Leaders」のホストを務めるクリステン・ラモロー氏は「企業は人材を探す場所を広げる必要がある」と指摘する。
「世界中はもちろん、国内のIT分野にも何千人もの女性がいる。そのような人材に積極的に接触し、活用しなければならない。『パイプライン(人材候補の供給経路)がない』というのは言い訳に過ぎない」(ラモロー氏)
その一例として、ラモロー氏は「SIM Women」を挙げる。同氏が設立したこの団体は、より大規模な業界団体であるSociety for Information Managementの女性メンバーによる、キャリア開発やリーダーシップ支援、メンター制度などの活動を推進している。
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