IT業界における多様性推進の施策はなかなか浸透していないが、成功を収めた企業には将来性に大きな期待ができるという。女性エンジニアの採用率や定着率を向上させるためには、どのような取り組みが必要なのか。
IT業界は、雇用を控えたり予算を削減したりする「技術の冬」の冬に入ると同時に、「DEI」(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン:多様性、公平性、包摂性)推進を控えるようになった――。そうした問題が、IT業界での女性活躍を支援するWomen in Tech Northと、IT業界への復職支援をするTech Returnersによる調査レポート「What Women in Tech Want」から見えてきた。
一方でレポートは、女性人材の確保と定着に成功している企業が、イノベーション創出や市場開拓で優位性を確保している点も指摘する。企業はどのようにしてDEI推進を“成長戦略の核”として位置付け、実効性のある取り組みを展開していけばよいのか。
Women in Tech NorthとTech Returnersは、採用に関する調査を重点的に実施した。その結果、企業はすでに多様なIT人材の育成に注力しているものの、改善の余地はまだ残っていることが浮かび上がってきた。調査対象者が採用において重要だと考える施策の例としては、以下が挙がった。
だが採用は最初のステップに過ぎない。従業員の定着には、社内の文化や包括性、帰属意識を育まなければならない。これには継続的な努力と、企業全体のコミットメントが必要だ。
DEIを推進する業界団体Tech Talent Charterは2023年、調査を通じて、現職を離れることを検討しているIT業界で働く女性の割合や、過去数年間に職を離れた人がどの程度IT業界から完全に去ったのかを明らかにした。こうした状況が続けば、IT業界の離職率は悪化する恐れがある。
Tech Returnersの共同創設者であるベッキー・テイラー氏は、企業のDEIに関する取り組みにおける現在位置と進むべき方向を明確にするためには、DEIロードマップが重要だと述べる。重要なマイルストーンや優先事項を設定することで、DEIに関する目標に向けた具体的な取り組みを実施可能になる。具体的な取り組み例としては以下がある。
Women in Tech NorthとTech Returnersの調査では、一定数の回答者が、女性は企業のポリシー策定に深く関与すべきだとの考えを示した。これによって女性が職場の全ての人を代表する形となり、職場がよりインクルーシブな状態になる。
共通の属性を持つ従業員同士のコミュニティーを優先事項だと考える調査対象者もいた。そうした従業員コミュニティーは、経験を共有し、相互支援を受け、同じような境遇の人とのネットワークを築く場として機能する可能性がある。
DEI関連の取り組みは順調なものばかりではない。Tech Talent Charterは2024年夏に活動を終了することを発表した。企業は、DEI関連の取り組みがもたらした進歩を巻き戻さないようにするため、多様性と包括性の実践に継続的に取り組むことが重要になっている。
Tech Returnersのマーケティング責任者であるエマ・マクレガー氏は次のように語る。「多様なチームは異なる視点をもたらし、より良い製品とサービスを生む。多様性は論理的な観点から重要なだけではなく、パフォーマンスと利益を向上させる、持続可能な発展を促す要素だ」
レポートは企業に対して、社内外の人に相談し、IT業界で女性が直面する障壁への理解を深めることを推奨する。そうした相談を通じて、具体的な問題点を把握して課題を共有することは、問題解決の近道になるという。
「この取り組みは女性だけではなく、全ての従業員にとって有益だ」とマクレガー氏は語る。女性の経験と、その経験に対する社会の理解の間にはギャップが存在する。従業員の理解がなければ、女性が必要としている支援の提供は困難だ。これはIT業界に限らず、働く女性が直面する多様な経験にも適応されるべきだ」と述べる。
採用を支援する外部組織との提携は、多様性のギャップを埋める有効な手段だ。特に復職者に関しては、社内のIT部門において、職位を問わず女性を配置するのに役立つ。
マクレガー氏は、「復職者プログラムは、中級から上級レベルのIT職における女性の存在感を強め、人数を増やす確実な方法だ」と話す。
Tech Returnersは、離職の主な理由は家庭だとみる。復職者は主に女性で、貴重な経験を職場に持ち帰ることになる。「離職中にスキルアップするような、モチベーションを持つ女性の職場復帰の支援は、そうした女性を昇進させるための鍵となる」とマクレガー氏は強調する。
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