新しい言語の導入にはコストがかかるが、「Rust」にはそれを上回る戦略的価値がある。費用削減から採用競争力強化まで、技術面にとどまらない恩恵とは何か。ITリーダーが押さえておくべき導入の判断基準を解説する。
将来を見据えたIT戦略において、プログラミング言語「Rust」への投資は、技術面だけではなく経営面でも大きなリターンを生む可能性がある。旧来のプログラミング言語に代わる現代的な選択肢として、その処理性能と安全性は開発者から熱烈な支持を集めている。
ただしプログラミング言語「C」「C++」の経験がない開発者にとって一定の学習ハードルがあるなど、課題があることも事実だ。しかしMicrosoftやGoogleをはじめ、さまざまな先進企業が代償を支払ってでもRustへの移行を進めている。それはなぜなのか。Rustへの移行が、長期的な運用コスト(OPEX)の削減や、激化するエンジニア採用競争における強力な武器になるからだ。
Rust導入がもたらす、開発効率だけではない「組織的な実利」を具体的に見ていこう。
現場の開発者はRustの技術的な利点に関心を持つが、ITリーダーはより大きな戦略的メリットに目を向ける必要がある。その具体例を以下に挙げる。
もちろんRustにも課題はあり、導入の障壁になり得る。そのメリットは、言語仕様の複雑さ、標準ライブラリ(プログラム部品群)の少なさという代償を伴う。Rustのコミュニティーは熱心だが、他の言語に比べると小規模であり、利用可能なライブラリや技術情報は限られる場合がある。開発チームに、他の言語を使用する場合よりも高い自走力が求められる可能性もある。
具体的な課題は以下の通りだ。
Rustには「所有権」「ライフタイム」「借用」といった難解な概念があり、習得に時間を要する。開発チームへのトレーニング投資は不可欠だ。
厳密な安全性チェックに加え、実行時の性能を最大化するための高度なコード最適化を実施するため、Rustはコンパイル時間が長くなる傾向がある。これは開発やテストのサイクルに影響を与える可能性がある。
Rustのライブラリは拡大中だが、「Python」や「JavaScript」といった他の主要言語に比べるとまだ少なく、成熟度も低い。
Rustは処理速度が重要なシステムには最適だが、迅速なプロトタイピングや、膨大なレガシーコードを持つアプリケーションの改修には向いていない場合がある。重要なのは要件に合う言語を選ぶことであり、Rustが常に最良の選択肢とは限らない。Rustが適している開発領域の例は以下の通りだ。
すでにCやC++といったプログラミング言語を扱った経験がある開発者は、Rustを学ぶ上で有利だ。共通の概念が幾つもあり、Rustはそれらをよりモダンかつ構造的に扱っているからだ。一方でソースコードに変数の型を明示する必要がない「動的型付け言語」や、ガベージコレクション(メモリの自動解放機能)にメモリ管理を任せる言語の知識は、一般的なプログラミングの基礎にはなるが、Rust特有の概念とは結び付きづらい。Rustを開発プロセスに組み込む際は、CやC++の概念をしっかりと理解している経験豊富な開発者を選ぶことから始めるとよい。
Rustの実践経験を積むのに役立つ書籍、オンラインチュートリアル、その他のプロジェクトは豊富に存在する。Rust公式サイトにあるオンライン実行環境も活用できる。まずは以下の資料を参照することから検討しよう。
知識を習得したら、実際にプロジェクトを構築して経験を積む。オープンソースソフトウェア(OSS)プロジェクトへの貢献を通じて実践力を高めるのも効果的だ。
Rustへの移行を成功させるには、将来のプロジェクトがRustに適しているかどうかを見極める必要がある。開発チームがすでにCやC++を使用しているならば、Rustを習得するメリットは計り知れない。ITリーダーは、チームのスキルアップに必要な学習コストを認識し、計画的に導入を進めるべきだ。
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