インターネット経由でソフトウェアを利用できるSaaSは便利な一方、社内での無秩序な契約が増える「サブスクリプションの乱立」が深刻な問題となっている。放置すれば企業を制御不能に陥れる脅威の実態とは。
事業部門からの利便性を求める声に押されて導入したクラウドサービスが、気付けばIT予算を食いつぶしている――。そうした実態は珍しくない。
サブスクリプション型の料金モデルは、企業に予測可能性と自由度をもたらすとうたわれていた。一定期間ごとの費用を予測し、いつでも手間をかけずにツールの利用を一時停止したり、変更したり、終了したりできるようになるというのがその理由だ。
一方で、生産性向上からセキュリティに至るまで、あらゆる領域でサブスクリプションモデルが普及したことで、CIO(最高情報責任者)にとってはサブスクリプション管理の複雑化という新たな問題が生じている。コンサルティング企業Boston Consulting Groupの調査によると、2019年から2024年にかけて外部サービスに対するIT予算は年間約6%増加した。これはSaaS(Software as a Service)への支出が拍車を掛けた形だ。
IT運用の中心がSaaSに移行するにつれ、企業向けソフトウェアやクラウドサービス、インフラに至るまで、サブスクリプション型の料金モデルは増え続けている。それに伴って社内のサブスクリプションの利用状況がますます複雑になれば、サブスクリプションプランの管理はIT部門にとっていっそう重要な課題になる。
サブスクリプションの肥大に伴って企業の支払いも増加の一途をたどり、費用の増大やツールの重複、不透明な料金モデルという課題を抱えることになった。同時に、ベンダーによる価格決定力や、他社ツールへの乗り換えを困難にする囲い込み(ベンダーロックイン)も強まっている。
問題は単なる「料金の増加」にとどまらない。一度業務に組み込まれたSaaSは、移行計画なしに利用をやめることが難しくなる。結果として、企業は強力な価格決定力を持つベンダーの“言いなり”にならざるを得ず、強制的なアップグレードや、従量課金による予期せぬ請求増といったリスクを丸抱えすることになる。
今日のソフトウェアやデジタルサービスは、サブスクリプションの料金モデルが標準となっている。企業が永久ライセンスや買い切り型の購入から、SaaSやPaaS(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)などのサービス型へと移行しているためだ。こうした「as a Service」市場は拡大を続けている。調査会社Grand View Researchによると、世界のサブスクリプション市場は2033年までに1兆5000億ドルを突破する見込みだ。
SaaS管理ツールベンダーToriiの創業者でCEOを務めるウリ・ハラマティ氏は、ベンダーが継続的なサービスへと移行したことで収益の予測が立ち、恒久的な価格決定力を得たと指摘する。
「販売時に一度だけ競争するのではなく、企業がそのSaaSを手放せなくなるのを見越して、後から徐々に課金額を増やしていく仕組みに変わった。毎年の値上げや追加料金は、もはや当たり前のことになっている」(ハラマティ氏)
ソフトウェアが一度業務に組み込まれ、ワークフローに定着すると、企業はその機能に依存するようになる。将来を見据えた移行計画なしにSaaSの利用を突然やめることは難しいため、結果的に強力な価格決定力と支配権をベンダーに与えることになる。
ベンダーは、複数のSaaSを1つにまとめるバンドル販売や、強制的なアップグレードを実施することで企業への支配力を強めると同時に、実質的に価格を引き上げている。追加料金を支払わない限り全機能を利用できないようにする機能制限(フィーチャーゲーティング)といった戦術も駆使している。
一部ベンダーが採用しているのが、システムの使用量や処理実績に基づいて料金が決まる従量課金型の料金体系だ。これによって、支払いサイクルごとに費用を予測することが困難になる。SaaS群の利用状況を厳密に監視していない企業にとっては、特に深刻な問題だ。
AI(人工知能)技術の活用によって、ベンダーはより動的な価格設定も可能になった。サブスクリプション管理ツールベンダーZuoraのマイケル・マンサード氏(サブスクリプション戦略プリンシパルディレクター)は、価格設定がいかに予測困難になっているかが焦点だと語る。
従来のSaaSは、エンドユーザー数に基づく固定の料金体系が主流であり、月ごとの変動も穏やかだったため予測しやすかった。しかしAI技術の普及に伴って、一部のベンダーがエンドユーザー数に基づく収益化から、作業量や成果に基づく仕組みへと移行し始めている。これによって、新しい価格指標や複合的な料金体系が急増しているという。
企業がSaaSを無秩序に導入すると、その企業のサブスクリプション戦略は乱雑で非効率なものになる。適切な監視体制がなければ、サブスクリプションの乱立は企業とその収益にリスクをもたらす。
ハラマティ氏によれば、サブスクリプションの乱立でCIOに影響を与えるリスクは主に以下の3つだ。
サブスクリプションの乱立は、企業全体に以下の予期しない問題を引き起こす可能性がある。
調達システムベンダーLevelpathのCEOであるアレックス・ヤクボビッチ氏は、「サブスクリプションの所有権がIT部門や財務部門などに分散していることがガバナンスを難しくしている」と指摘する。リーダー層は支出の増加には気付くものの、その詳細を追跡することは困難だ。
「SaaSの氾濫は必然的に混乱を生み出す。従業員が正式なプロセスを経ずにSaaSのライセンスを購入すれば、セキュリティやコンプライアンス(法令順守)のリスクも生じる」(ヤクボビッチ氏)
次回は、サブスクリプションの乱立を解消するためにCIOが取るべき対策を紹介する。
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