便利だったはずが“浪費の温床”に? 「サブスク乱立」が招くIT予算崩壊の危機見えない「サブスク乱立」をどう防ぐか【前編】

インターネット経由でソフトウェアを利用できるSaaSは便利な一方、社内での無秩序な契約が増える「サブスクリプションの乱立」が深刻な問題となっている。放置すれば企業を制御不能に陥れる脅威の実態とは。

2026年03月04日 12時00分 公開
[Alison RollerTechTarget]

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 事業部門からの利便性を求める声に押されて導入したクラウドサービスが、気付けばIT予算を食いつぶしている――。そうした実態は珍しくない。

 サブスクリプション型の料金モデルは、企業に予測可能性と自由度をもたらすとうたわれていた。一定期間ごとの費用を予測し、いつでも手間をかけずにツールの利用を一時停止したり、変更したり、終了したりできるようになるというのがその理由だ。

 一方で、生産性向上からセキュリティに至るまで、あらゆる領域でサブスクリプションモデルが普及したことで、CIO(最高情報責任者)にとってはサブスクリプション管理の複雑化という新たな問題が生じている。コンサルティング企業Boston Consulting Groupの調査によると、2019年から2024年にかけて外部サービスに対するIT予算は年間約6%増加した。これはSaaS(Software as a Service)への支出が拍車を掛けた形だ。

 IT運用の中心がSaaSに移行するにつれ、企業向けソフトウェアやクラウドサービス、インフラに至るまで、サブスクリプション型の料金モデルは増え続けている。それに伴って社内のサブスクリプションの利用状況がますます複雑になれば、サブスクリプションプランの管理はIT部門にとっていっそう重要な課題になる。

 サブスクリプションの肥大に伴って企業の支払いも増加の一途をたどり、費用の増大やツールの重複、不透明な料金モデルという課題を抱えることになった。同時に、ベンダーによる価格決定力や、他社ツールへの乗り換えを困難にする囲い込み(ベンダーロックイン)も強まっている。

 問題は単なる「料金の増加」にとどまらない。一度業務に組み込まれたSaaSは、移行計画なしに利用をやめることが難しくなる。結果として、企業は強力な価格決定力を持つベンダーの“言いなり”にならざるを得ず、強制的なアップグレードや、従量課金による予期せぬ請求増といったリスクを丸抱えすることになる。

なぜSaaSベンダーの「値上げ要求」を拒否できないのか

 今日のソフトウェアやデジタルサービスは、サブスクリプションの料金モデルが標準となっている。企業が永久ライセンスや買い切り型の購入から、SaaSやPaaS(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)などのサービス型へと移行しているためだ。こうした「as a Service」市場は拡大を続けている。調査会社Grand View Researchによると、世界のサブスクリプション市場は2033年までに1兆5000億ドルを突破する見込みだ。

 SaaS管理ツールベンダーToriiの創業者でCEOを務めるウリ・ハラマティ氏は、ベンダーが継続的なサービスへと移行したことで収益の予測が立ち、恒久的な価格決定力を得たと指摘する。

 「販売時に一度だけ競争するのではなく、企業がそのSaaSを手放せなくなるのを見越して、後から徐々に課金額を増やしていく仕組みに変わった。毎年の値上げや追加料金は、もはや当たり前のことになっている」(ハラマティ氏)

 ソフトウェアが一度業務に組み込まれ、ワークフローに定着すると、企業はその機能に依存するようになる。将来を見据えた移行計画なしにSaaSの利用を突然やめることは難しいため、結果的に強力な価格決定力と支配権をベンダーに与えることになる。

 ベンダーは、複数のSaaSを1つにまとめるバンドル販売や、強制的なアップグレードを実施することで企業への支配力を強めると同時に、実質的に価格を引き上げている。追加料金を支払わない限り全機能を利用できないようにする機能制限(フィーチャーゲーティング)といった戦術も駆使している。

 一部ベンダーが採用しているのが、システムの使用量や処理実績に基づいて料金が決まる従量課金型の料金体系だ。これによって、支払いサイクルごとに費用を予測することが困難になる。SaaS群の利用状況を厳密に監視していない企業にとっては、特に深刻な問題だ。

 AI(人工知能)技術の活用によって、ベンダーはより動的な価格設定も可能になった。サブスクリプション管理ツールベンダーZuoraのマイケル・マンサード氏(サブスクリプション戦略プリンシパルディレクター)は、価格設定がいかに予測困難になっているかが焦点だと語る。

 従来のSaaSは、エンドユーザー数に基づく固定の料金体系が主流であり、月ごとの変動も穏やかだったため予測しやすかった。しかしAI技術の普及に伴って、一部のベンダーがエンドユーザー数に基づく収益化から、作業量や成果に基づく仕組みへと移行し始めている。これによって、新しい価格指標や複合的な料金体系が急増しているという。

サブスクリプションの乱立に潜むリスク

 企業がSaaSを無秩序に導入すると、その企業のサブスクリプション戦略は乱雑で非効率なものになる。適切な監視体制がなければ、サブスクリプションの乱立は企業とその収益にリスクをもたらす。

 ハラマティ氏によれば、サブスクリプションの乱立でCIOに影響を与えるリスクは主に以下の3つだ。

  1. 契約更新が重なり、使われていないライセンスがひそかに残ることで費用が予測不能になること
  2. 1回の認証で複数のSaaSを利用できるSSO(シングルサインオン)や、アクセス権の定期見直しといったセキュリティの枠外で稼働するアプリケーションが増え、安全性が低下すること
  3. IT部門が承認していないシステムまで管理するよう求められ、運用が複雑化すること

 サブスクリプションの乱立は、企業全体に以下の予期しない問題を引き起こす可能性がある。

  • 予測不能な費用
    • 機能制限や従量課金などベンダーの施策によって費用の予測が難しくなり、企業が気付かないうちに予算が膨らむ恐れがある。
  • SaaSの重複
    • 契約数が増えるほど、同じ機能を提供するSaaSが重複する確率が高まる。これは費用を増加させるだけではなく、部門間で異なるSaaSを使用することによる情報の分断や業務連携の支障も引き起こす。
  • 未使用のサービス
    • 契約したまま放置され、無駄な費用が発生し続けている「ゾンビサブスクリプション」は、IT部門の監視を擦り抜け、気付かれないうちに積み重なっていく。
    • ハラマティ氏は、IT部門が異常に気付いたときにはすでに高額なサービスに業務が完全に依存してしまっており、すぐ元に戻すのは困難だと指摘する。
  • システム構成上の制約
    • システム構成の根幹を成す中核ツールを提供するベンダーは、企業の将来的な意思決定を制限し、適応力を低下させる可能性がある。移行計画なしに代替ツールに切り替えることは運用に悪影響を及ぼすため、企業はベンダーが提供する限られた機能にしがみつく羽目になる。
  • 交渉力の低下
    • サブスクリプションの乱立は管理の混乱を招き、更新時の交渉を難しくする。特に更新期限にシビアな中核サービスにおいては、ベンダーによる値上げを許す要因となる。

 調達システムベンダーLevelpathのCEOであるアレックス・ヤクボビッチ氏は、「サブスクリプションの所有権がIT部門や財務部門などに分散していることがガバナンスを難しくしている」と指摘する。リーダー層は支出の増加には気付くものの、その詳細を追跡することは困難だ。

 「SaaSの氾濫は必然的に混乱を生み出す。従業員が正式なプロセスを経ずにSaaSのライセンスを購入すれば、セキュリティやコンプライアンス(法令順守)のリスクも生じる」(ヤクボビッチ氏)


 次回は、サブスクリプションの乱立を解消するためにCIOが取るべき対策を紹介する。

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