「情シスSlack」発起人なーねこ氏に聞いた 情シスが“何でも屋”から抜け出す方法情シスキャリアをアップデートする【第4回】

“何でも屋”と呼ばれがちな情報システム部門。一方、「情シスSlack」を設立したなーねこ氏は、何でも屋はむしろチャンスと捉えている。ただし、本当に”何でもかんでも”ではなく、2つの要素が大切だと話す。

2026年03月31日 05時00分 公開
[成澤綾子TechTargetジャパン]

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 企業全体のシステムに携わる情報システム部門(以下、情シス)は、幅広い業務をカバーする必要がある。同部門の部員は、多様なスキルや知見を獲得できるが、その結果として、社内の“何でも屋”にもなりやすい――。

長谷川氏 長谷川氏

 こう嘆く人がいる一方、「何でも屋になることは、情シスとしてレベルアップしたい人にとって必ずしも悪手ではない」と語るのは、情シスやコーポレートIT、情報セキュリティに関わる1万人以上が参加する「情シスSlack」の立ち上げメンバーで、「なーねこ」の愛称で知られる長谷川 真氏だ。なぜそのように考えるのか。何でも屋から成果を出すまでの道のりは?

エンジニアから情シスへ 孤軍奮闘を打破したきっかけは

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 Web系ベンチャー企業のエンジニアとしてキャリアをスタートさせた長谷川氏は、マネジメントや社内調整の能力を評価され、20代後半の若さで管理職を務めた。その後、エンジニア部門長、営業部門のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進、人事部門の立ち上げなどを通じてキャリアを積み上げていく。

 本格的に情シスとしてのキャリアが始まったのは2019年頃。営業部門の業務効率化を実現する独自の社内システムの構築、採用管理ツールや評価制度の導入などの実績を買われ、転職先のスタートアップ企業でCTO(最高技術責任者)補佐と情シス部門を兼務することになった。

 エンジニアとしての知見を生かし、所属する部門内でシステムを導入・管理した経験はあったものの、情シス担当者として全社のシステムに携わるのは初めてだったという。

 「組織をより良くすること」をミッションに、領域を問わず「組織に必要だが、まだ整っていない場所」に飛び込み、仕組みを作ってきた長谷川氏。しかし、情シス部門の広範かつ重要な業務について、1人で一から学び、求められる成果を生み出すには限界がある。

 そこで長谷川氏は、「外部の知見を取り入れてキャッチアップする」というエンジニアの文化を情シスにも持ち込もうと、X(旧Twitter)で仲間を募り、交流を始めた。

“外部視点”は組織課題の解決とキャリア形成のインフラ

 業務範囲は広いのに、世間には業務に忙殺される孤独な情シスがあふれている。社内にナレッジはそれほどなく、相談相手は不在という人もいる。

 「情シスは優しい方が多くて、分からないことをXに投稿すると教えてくれたりするんです。でも、私は情シスとして提供できる情報を持っていないので、一方的に教えてもらうばかりになってしまって」。こう長谷川氏は語る。そこで同氏は、情報を提供する側、される側両方にとって有意義な場を提供したいという思いから、勉強会を開催することにした。勉強会から派生し、誕生したのが情シスSlackだ。

 勉強会やコミュニティなど「外部とのつながりは、単なる情報交換の場にとどまらない」と長谷川氏は言う。

 社外で得た情報を基に勤務先の課題を解決し、社内での評価を獲得する。他社の状況や組織の在り方を知ることで勤務先を俯瞰(ふかん)する視点が生まれ、情シスとしての現在地、これから必要になるスキルなど、キャリアを主体的に考える手掛かりを得ることができる。

チャンスを拾い、スキルを身に付ける手段としての“何でも屋”

 何でも屋になりやすいと言われる情シス。中には、「スキルアップや評価につながる業務に集中できる機会を逃している」と感じる人もいる。

 何でも屋であることのデメリットも確かにある。社内で情シス部門に飛んできたボールをスルーしたくなるときもあるかもしれない。そのような状況を長谷川氏は、「『落ちているボール』を拾うことも重要」と話す。

 特に成長段階のスタートアップをはじめとした小規模な企業では、誰が担当すべきか明確ではない課題が発生しがちだ。その際、ITに詳しく各部門とコミュニケーションを取りやすい情シスに白羽の矢が立ちやすい。

 「本来の業務から外れている」と考えるのをいったん止めてみる。率先して課題を拾い上げ、会社が売り上げを作ることに集中できる環境を提供できれば、情シスの社内価値は高まる。組織としての課題解決や目的達成につながる手段であれば、何でも屋として振る舞うことは、必ずしも悪手ではないというのが長谷川氏の考えだ。

 当然、何でも屋に終始していては、企業への貢献や個人の成長は難しくなる。範囲外の業務に忙殺されないための仕組み作り、企業規模に応じて責任の所在を明確にする業務設計といった線引きが必要だ。

 ヘルプデスクなど定型化した業務のアウトソーシングを推進し、より抽象度の高い課題や価値貢献につながる業務に集中できる環境を構築することも、情シス組織が取り組むべき優先事項だ。

視点を変え、視座を上げ、周囲を巻き込む

 目の前の業務に追われ、受け身になりがちな情シスの業務から一歩踏み出し、自律的なパフォーマンスを発揮することが情シスとしての評価やキャリアアップにつながっていく。その一歩を構成するのは“経営視点”と“巻き込み力”だと長谷川氏は言う。

 自分の勤務先は誰から得たお金で成り立っているのか。どのように稼いでいるのか。利益を生み出し、企業を成長させるために、経営層は何を考えているか。長谷川氏は、「企業で高く評価されるのは、経営層と同じ視点に立って状況を把握し、同じ方向を向いて動ける人」だと話す。

 自社のビジネスモデルを理解すれば、導入すべきITアーキテクチャや優先順位が分かる。はやっているからそのサービスや製品を導入するのではなく、自社のビジネスに必要だから選ぶという判断基準こそが、評価される情シスの条件だ。

 もう1つの構成要素である“巻き込み力”も重要だ。「いいアイデアを思いついた」「これをやってみたい」とひらめきで一方的に周囲の協力を求めるのではなく、同僚や上司、経営層の理解を得るための材料を用意し、継続的な協力者を増やすためのコミュニケーション能力だ。

 「課題解決に向けて当事者意識を持ち、地道な下準備をして背景を丁寧に説明し、納得した上で協力したいと周囲に思ってもらうまでのプロセスこそが、本来の巻き込み力だと考えています。協力者の負荷を下げ、よい問いを立て、説明と解決策をセットで提示することは、相手が状況を理解しやすくなり、協力を得やすくするための重要な準備でもあります」(長谷川氏)

プロフェッショナルではなくジェネラリストとして成果を出す

 情シスの業務には、ベンダーや社内の各部署などさまざまなステークホルダーが存在する。扱うサービスも多岐にわたるため、課題の解決や導入の検討において、トレンドのキャッチアップと技術的な知見が必要となる。

 自身を「技術のプロフェッショナルではなくジェネラリスト」と評する長谷川氏は、スタートアップ特有のスピード感に対応し、モダンな環境を構築するためには1人で勉強しても追いつかないと判断し、積極的に外部のアドバイザーを招き入れた。

 「私よりスキルが優れている人はたくさんいます。役職や役割にこだわらず、課題解決のために個々の能力を発揮できる環境作りに注力しています」(長谷川氏)

 目の前の業務や環境に対する不満も、経営的な視点や中長期的なキャリアの視点を持てば見えなかった意義が見えてくることもある。自分の業務が企業の成長にどのように貢献しているか、それが自分の評価にどうつながっていくかを考えながら、時には外部に協力を求め、時には率先して何でも屋になる姿勢が、情シスとしての価値拡大を実現する助けになる。

連載:情シスキャリアをアップデートする

情報システム部員は、日々の運用・問い合わせ・トラブル対応といった"目の前の業務"に追われがちだ。その中でも、評価され、次の役割を任されている人もいる。そのような人は、何をしてきたのか? 逆に何を「やらない」と決めてきたのか? この視点から、評価される情シスになるための、業務の取捨選択や判断軸を整理する。


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