「費用か速度か」の二者択一を終わらせる ネットワーク運用の“正解”性能低下は「妥協」ではない

ネットワーク運用における通信の安定性と費用削減は、本当に両立不可能なのか。「将来への備え」と位置付けた過剰な設備が、経営の足かせになっている。データの裏付けに基づくネットワーク運用の新常識を解説する。

2026年04月06日 05時00分 公開
[John BurkeTechTarget]

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 企業ネットワークは事業を支える命綱だが、その維持にかかる費用が経営を圧迫しているのも事実だ。ライセンス料や保守費用に加え、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)技術の活用に伴う爆発的なデータの増加によって、ネットワーク予算はますます増大している。

 ネットワークはあらゆるITサービスを底辺で支える「縁の下の力持ち」であり、普段はその存在が意識されることはまれだ。そのため、性能向上や効率化への投資判断が後回しにされがちだ。その結果、非効率な構成や古い契約が放置され、気付いたときには経営を圧迫する深刻な重荷へと変貌している。

 ただし支出の抑制は、応答速度や安定性といった通信品質の低下を意味するものではない。これまでの「将来への備え」と称した過剰な設備投資を見直し、データに基づいた運用へと移行すれば、「費用か速度か」という二者択一を終わらせることは可能だ。

無駄なネットワーク費用を生む3大要因

 IT部門が無意識のうちにネットワーク関連の支出を増やしてしまう要因は、主に以下の3点だ。

要因1.規模設定の適正化

 利用状況に合わせたネットワーク規模の適正化は、デバイスが接続される末端(エッジ)から拠点間を結ぶWAN、クラウドサービスへの接続まで、システム全体で取り組むべき課題だ。インフラ運用の現場では、数年先を見越して高性能な機器を導入する「将来への備え」をすることが慣例になっている。しかし、この慣例がインフラの進化を妨げ、結果として支出を増大させている。

 数年間の使用を前提に機器を購入すると、必要以上の機能を抱え込むことになりやすい。これは無駄な初期投資を招くだけではなく、機器の陳腐化を早め、インフラを迅速に刷新する際の足かせにもなる。

要因2.技術的負債の蓄積

 ネットワークにおける技術的負債の問題は、「メンテナンスの後回し」と「老朽機器の使い過ぎ」という形で顕在化する。

  • 作業の先送り
    • OSやファームウェアの更新、設定の整理などを放置すると、システムのダウンタイム(停止時間)の増加や復旧時間の長期化、セキュリティリスクの増大につながる。
  • 機器の無理な延命
    • サポート期限が切れたハードウェアを稼働させ続けると、メーカー外の保守費用が割高になる。古い機器は故障しやすく電力効率も悪い傾向にあるため、稼働させるだけで管理の手間と維持費がかさむ。

要因3.手作業への依存

 人の手による管理に頼っていることも、人材の浪費を招く一因だ。手作業による運用は時間がかかる上にミスを誘発しやすい。ネットワーク専門職の給与や障害発生時の損失額も無視できない。一方で、自動化ツールの導入ハードルは下がっている。人材確保が困難な今、運用の自動化を徹底し、スキル不足と高額な人件費の両面に対処すべきだ。

通信品質を維持したまま支出を抑える戦略

 企業のネットワーク責任者は、複数の角度から無駄な出費を抑えなければならない。

戦略1.適切なサイジング

 ネットワークの設計や刷新において、予備の能力を持たせるのはシステムの回復力(レジリエンス)を高める目的に限定すべきだ。過剰なプロビジョニング(割り当て)を解決するために、リーダーは現場のネットワークエンジニアに対し、「最大負荷に40%上乗せする」といった根拠の薄い古い慣習を捨てるよう促す必要がある。昨今は、実際の通信データに基づいた設計手法が普及している。

 このアプローチによって、データセンター内のエッジやスパイン(基幹)の接続費用を大幅に削減できる可能性がある。ソフトウェアで通信経路を制御する「SD-WAN」(ソフトウェア定義WAN)や、複数のクラウドサービスに効率的に中継できる「クラウドエクスチェンジ」などのサービスを活用すれば、拠点間通信の支出を大きく減らせることにも期待できる。

戦略2.技術的負債の解消

 まずは最も古い世代の機器の交換に注力しよう。保守切れの機器から順に始め、新しい機器を導入した瞬間から、正確な資産管理を行う仕組みを整えることが重要だ。

 最新の可視化ツールや管理システムは、障害対処の手間やセキュリティリスクを減らし、導入費用を上回る節約効果を期待できる。信頼性が低い旧世代の機器を排除すれば、短期的には設備投資(CAPEX)が増えるものの、それを補って余りあるほどの継続的な運用経費(OPEX)を削減できる可能性がある。

戦略3.自動化による効率化

 特定のツールを選定してそれを標準に定め、業務のあらゆる面で活用するのが定石だ。最も時間を浪費している作業を特定し、それを自動化することが費用を節約するための鍵になる。これは、自社開発のツールを使う場合でも、サードパーティー製ツールを使う場合でも、設定をソースコードとして管理する「IaC」(Infrastructure as Code)を取り入れる場合でも同様だ。

 ただし、「最も手間のかかる作業」から着手するのが必ずしも正解だとは限らない。1カ月かかる複雑な自動化に挑むよりも、1週間で解決できる単純な作業を複数自動化する方が、結果として担当者の時間をより多く確保できる場合がある。

 ネットワークチームは、自動化を成功させるために、以下の手法も検討したい。

  • 各拠点の通信機能を仮想化して集約し、管理を簡素化する
  • OSを自由に選べる汎用(はんよう)的な「ホワイトボックススイッチ」を採用し、ソフトウェアによる一括管理(SDN:ソフトウェア定義ネットワーク)を実現する
  • 経路管理や動的な通信路容量(帯域幅)の増減といった機能を、外部プログラムから利用できるAPIを備えた通信事業者やクラウドサービスを採用する

可視化と監視による費用の最適化

 目に見えないものは管理できない。ネットワークチームは、まずインフラや担当者の作業時間を詳細に把握する必要がある。この作業には、需要を大幅に超えている過剰な容量や、異常に時間がかかっている障害対処の特定を支援する分析ツールを利用できる。インフラ、ITサービス、担当者の作業時間など、ネットワークとその運用を可能な限り可視化することが重要だ。具体的には、ネットワーク管理ツール、SD-WAN、クラウド費用分析ツールなどが選択肢になる。

 IT部門はこれらのツールを使用して、以下の状況を確認できる。

  • 需要を超えた過剰な契約容量
  • 予算に影響を与えるネットワークサービスの料金変動
  • 平均を上回るトラブルシューティングなどの作業時間
  • 性能や信頼性が低下している領域
  • サポート期限が切れた機器

 過去のデータに基づいて将来の負荷増大を予測し、機器の故障による想定外のサービス品質低下を未然に防ぐことも可能になる。

現代的なネットワーク支出管理の在り方

 ネットワークの維持に費やす資金と時間は、本来、ビジネスの価値を高めるための改善に充てるべきものだ。規模の適正化、作業の自動化、技術的負債の解消を推進することは、運用の手間を減らし、新しいITサービスを導入する際のハードルを低くする。

 これを実現するには、長期的な節約を見据えた次世代ツールや機器への短期的かつ集中的な投資が欠かせない。同時に、ネットワークを運用する専門家が自動化スキルを磨き、変化し続けるニーズに合わせてシステムを継続的に調整できるよう、人材への投資を続けることも重要だ。

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