「AIで代替」は建前? Oracle“3万人削減”から読み解くリストラの真実優秀なエンジニアを襲う「AIリストラ」

好業績をうたうOracleで、推計3万人に及ぶ解雇が進行している。同社は「AIツールによる業務代替」を推し進めると主張するが、専門家はその裏にある“焦り”を指摘する。AI技術に対する幻想を打ち砕く事実とは。

2026年04月13日 05時00分 公開
[Cliff SaranTechTarget]

 「AI(人工知能)ツールを導入すれば、人員を削減できる」という論調がある。最先端を行く大手ITベンダーの動向は、その“AI幻想”を後押ししているように見える。

 Oracleが推計で最大3万人の従業員を削減するというニュースは、同社が5530億ドルの受注残を抱え、好調をアピールしている最中に飛び込んできた。同社の経営層は「AIツールを使えば、より少人数での開発が可能になる」と主張しており、表向きは「AIツールが人間の仕事を代替した最新事例」のように映る。

 しかし、リストラされた従業員の声や専門家の分析を読み解くと、事態はそう単純ではない。優秀なエンジニアが「無駄」として切り捨てられる裏には、AIツール活用とは別の、より泥臭い“財務的な理由”が見え隠れしている。

「AIリストラ」の裏で切られるキーマンたち

 ビジネス向けSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)「LinkedIn」において、Oracleのクラウドサービス「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)のAI技術の運用リーダーを務めるマイケル・シェパード氏は、直近の人員削減で解雇されたという同僚数人のメッセージを再投稿した。

 「極めて優秀な同僚も解雇された。解雇の対象は、高度な専門職や中間管理職、特に巨額のストックオプション(自社株を購入できる権利)を持つ従業員をアルゴリズムで選別しているようだ」。Oracleのセキュリティアラートマネジャーによるある投稿は、この状況をこう要約する。権利確定前に解雇すれば、対象者の未確定の権利を丸ごと失効させることができるため、企業は将来の多額な人件費を削減できるというわけだ。

 ある元従業員は、今回のレイオフを「前例がない」と表現した。この人物は、Oracleの製品やサービスがさまざまなセキュリティ基準や法令に準拠していることを保証するチームを管理していた。対象となる基準には、クレジットカード業界のデータセキュリティ基準「PCI DSS」、米国医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令「HIPAA」、PA-DSS(決済アプリケーションのデータセキュリティ基準)および欧州連合(EU)における個人情報保護のための規則「GDPR」(一般データ保護規則)などがある。

 Oracleの元プリンシパルスタッフエンジニアは「今日(レイオフが実施された2026年3月31日)解雇された友人が何人かいる。極めて優秀で、仕事も堅実なトップパフォーマーたちだ。彼らはただ波に飲まれただけだ」と投稿した。

 OCIのファイルストレージサービスの創設エンジニアを名乗る別の人物は、Oracleでの在職中、「極度の緊張下で無数のオンコールシフト(システム障害に備えた緊急対処の待機当番)をこなし、数々の問題を解決してきた」と語った。

 こうしたメッセージをLinkedInに投稿した人の中には、サービスオペレーションエンジニア、ソフトウェア開発アーキテクト、ソフトウェア開発マネジャーなどの職務に就いていた人々がいた。

 これらのLinkedInの投稿は、巨大IT企業における失職のほんの一部を示しているに過ぎない。とはいえ、製品開発、セキュリティおよび規制コンプライアンスに密接に関与する上級職にまで余波が及んでいる現状を浮き彫りにしている。

人員削減の理由は本当にAIなのか

 2026年3月、2026年度第3四半期の業績発表会で、OracleはOCIの収益が49億ドルに達し、前年同期(2024年12月〜2025年2月)比84%増加したと報告した。当時、同社の共同CEOであるマイク・シシリア氏は、「AIツールによってソフトウェアの開発を高速化できる」と語った。

 「AIコーディングツールを使用することによって、より少ない人数で完成度の高いシステムを迅速に提供できるようになった。AIツールを使用して新しいSaaS(Software as a Service)を開発しており、既存のアプリケーションスイートにAIエージェントを標準機能として組み込んでいる」(シシリア氏)

 シシリア氏のAI技術の役割に対する見解は、Oracleが2026年3月に開催したイベント「Oracle AI World Tour London」に登壇した、同社アプリケーション開発担当エグゼクティブバイスプレジデントのスティーブ・ミランダ氏の発言にも反映されていた。ミランダ氏はERP(統合基幹業務システム)における人間の役割について議論した際、AIツールが特定の業務を代替できる可能性を示唆した。同氏はイベントで、「ERPを運用するために事業を営んでいる企業など存在しない。われわれがERPの運用にかかる手間や費用を削減するほど、企業は本来の事業に資金や人材を投資できるようになる」と述べた。

 Oracleの経営陣は、これまで人間が担ってきた役割をAIツールで自動化する意欲を明確に示している。一方で調査会社Forrester ResearchのプリンシパルアナリストであるJP・ガウンダー氏は、Oracleの人員削減の決定は、株価の改善に重点を置いていると考える。

 「AIツールが従業員の代わりになるというのなら、AIツールを頼って人員を削減する企業には、職を失った従業員の業務をこなせる、効果が実証されてすでに現場で稼働しているAIシステムがあるはずだ」とガウンダー氏は指摘する。つまり、レイオフの前日に人間が実施していた業務を、翌日にはAIツールがそのまま引き継いでいる状態でなければおかしいということだ。

 同時に、ガウンダー氏は「現実にはそのようなケースはまれだ」とも話す。「Oracleのような大手ITベンダーでさえ、多様な業務を全てこなせるほど成熟したAIツールは持ち合わせていない。要するにOracleには、人員削減を急ぐ財務的な事情があるのだろう」(同氏)

 今回の事態は、OracleのAI戦略を実行する能力について、金融市場がより慎重になっていることの表れである可能性がある。特に、同社が2026年2月、負債と自己資本の資金調達を組み合わせて2026年中に500億ドルを調達する計画を発表したことを考慮すると、その見方は強まる。

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