AIで自社開発か、既製品購入か【中編】
ERPを「AIで自社開発」した企業の末路……結局市販製品が“優位”なのか?
AIツールを利用すれば、自社の要望に完全に適合したERP/SCMシステムのモジュールを手軽に作成できる。同時に、システム連携の不備など複数の問題を招も恐れがある。AIツールで自社開発する利点、欠点を比較する。
AI技術の急速な進化は、ソフトウェア開発の現場を大きく変えつつある。AIコーディングアシスタントやAIエージェントの普及によって、従来は膨大な時間と費用を要したシステム開発のハードルが下がり、企業が独自の業務要件に合わせてソフトウェアを自社開発することが現実的な選択肢になってきた。
企業の基幹業務を支え、高度な一元管理が求められるERP(企業資源計画)やSCM(サプライチェーン管理)の領域において、この「AI前提の自社開発」は本当に最適な解になるのか。本稿は、複雑な業務プロセスとデータの連携が不可欠なERP/SCMシステムに焦点を当てます。AI主導の開発がもたらす俊敏性やメリットを解説すると同時に、企業が直面するセキュリティ、ガバナンス、保守の限界を取り上げる。市販製品を購入する場合と比較し、企業が選択すべき最適解の指針を示す。
ERP/SCMシステムを自社開発するか、購入するかの分かれ道
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連載:AIで自社開発か、既製品購入か
AI活用で考えるべきポイント
ERP/SCMシステムは、企業が主要な業務プロセスを一元化し、業務を効率化し、費用を削減し、ビジネスの中断により効果的に対処するために不可欠な存在だ。
自社開発にAI技術が適しているケース
AI技術を利用することで、企業はERP/SCMシステム向けの独自のモジュールやインタフェースを構築できるようになる。これは、標準のシステムでは特定のビジネス上の要望を満たせない場合に特に有効だ。AI技術はERP/SCMシステム内における自動化やワークフローの作成を簡略化し、手作業による開発の手間や運用経費を削減する。高度な需要予測ツールや、高度な在庫最適化、異常検知、自動レポート作成といった機能の連携も容易にする。
AI技術がサプライチェーンの計画策定や事業中断にどう役立つかを示す一例が、Lenovoの事例だ。2026年5月に発表されたノースカロライナ州立大学(North Carolina State University)のサプライチェーン研究機関は、2017~2024年において、180の市場にまたがる同社のグローバルサプライチェーン部門の業務効率化の効果を分析した。そのうち、同社が社内向けに構築したAI駆動のサプライチェーンシステム「iChain」は、社内データと外部からの情報を活用して、リスクの検出、計画策定、意思決定の高度化を支援するものだ。同社のグローバルサプライチェーン担当シニアバイスプレジデントであるジャック・フィードラー氏は、同社がAI技術を使って地政学的な出来事を監視し、空域封鎖などの物流の混乱を予測することで、「担当チームがより早期に緩和策を立案できるようになった」と語っている。
市販ソフトウェアを選択すべきケース
AI技術はERP/SCMシステムの開発に革新をもたらしているが、同時に幾つかの限界も抱えている。
使い勝手の良いAIツールを利用したとしても、社内システムを自社で構築するには、インフラ、サイバーセキュリティ、ガバナンス、ソースコードの保守といった多岐にわたる分野で、高度かつ高額な専門知識が要求される。汎用(はんよう)的なAIモデルは、社内のソースコードやドキュメント、システムの文脈といった確かな情報とのひも付け(グラウンディング)をしない限り、企業の独自の設定やモジュール間の相互作用、マスターデータの階層構造を把握できないことも問題だ。こうした視点の欠落は、システムの信頼性を損なう要因になり得る。データの破損を招いたり、複数のシステムをまたいだ意思決定を妨げたりする恐れもある。
AIツールが生成したERP/SCMシステムの構造には、セキュリティ上の脆弱性やロジックの矛盾、ガバナンスの欠如が潜んでいる可能性がある。人による厳格な監視と安全な開発管理体制がなければ、AI生成コードは本番環境に権限設定の不備、インジェクション攻撃のリスク、ソースコードに直書き(ハードコーディング)された認証情報などの脆弱性をもたらしかねない。AIツールが古い仕様のコードや誤ったコードを出力し、信頼できるシステムを長期的に維持しづらくする危険性もある。
商用のERP/SCM製品に投資することで、企業はこれらの問題を回避できる。
信頼できるベンダーが提供する、成熟した企業向けのERP/SCM製品群には、業界特有の要件に役立つ機能を搭載している。これらの製品は導入にかかる時間とリスクを軽減する。中核的なプロセスや機能を1つのシステムに集約することで、データの分断を防ぎ、ワークフローの連携を改善する。大半のベンダーはシステムの監視や継続的な品質確認、セキュリティパッチの提供といった形で継続的な支援をするため、企業はインフラの保守運用にかかる人的・金銭的コストを削減できる。
主要なERPシステムには、「SAP Cloud ERP」「Oracle Fusion Cloud ERP」「Microsoft Dynamics 365 Finance」などがある。SCMシステムやサプライチェーン計画ツールの選択肢としては、「SAP Integrated Business Planning」「Oracle Fusion Cloud Supply Chain & Manufacturing」「Microsoft Dynamics 365 Supply Chain Management」「Blue Yonder」などが挙げられる。
検討すべき要素
市販の製品は、企業の独自の業務ワークフローに完全に適合しなかったり、レガシーシステムとうまく連携できなかったりする場合がある。そのため、企業は独自に開発した機能要素を構築、更新、管理する必要に迫られる場合がある。これらに対処できる人材の獲得は困難であり、結果として運用経費の増加につながる可能性がある点には注意が必要だ。
ワークフローやモジュールが適切に保守されず、中核システムとうまく連携できていない場合、企業の将来的なシステム改修コスト(技術的負債)が増大する恐れがあることも課題だ。不十分なシステム連携は、特にデータのアクセス権限やツールの利用実態に対する社内の管理体制が不十分な場合、セキュリティやコンプライアンス上の問題を引き起こし、データの消失や法令違反のリスクを高める要因になり得る。
次回は、CX(顧客体験)ツールの自社開発と既製品購入のメリットおよびデメリットを解説する。
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