キーワードでひもとくバックアップ最新事情【第4回】
“仮想テープライブラリ”──実はディスクだってご存じでした?
バックアップの手法として「仮想テープライブラリ」という言葉をよく耳にするようになったが、その正確な意味を知る人は案外少ないようだ。テープライブラリを仮想化するとは、一体どういうことなのだろうか?
テープからディスクへの移行ニーズ
本連載のテーマであるバックアップは、今日のITにおいて最も問題が生じやすい分野の1つである。その原因としては、ITで管理する情報の量が加速度的に増加していること、また内部統制対応などのために情報を長期間にわたって保存するケースが増えてきていることが挙げられる。加えて、顧客記録など個人情報の保護に対する要求も年々高まっている。こうした状況の中、多くの企業が現在のバックアップ手法ではやがて対処できなくなると考え始めているようだ。
本連載の第1回で取り上げたように、バックアップのメディアにはテープとディスクの選択肢があり、それぞれにメリットとデメリットがある。そして昨今では、前述のような状況を踏まえ、テープバックアップが抱えるリスクを避けるためにディスクバックアップに移行しようと考えている企業も多い。今回のキーワード「仮想テープライブラリ」は、そうしたニーズに応えるために登場したのである。
仮想テープライブラリとは何か?
仮想テープライブラリ(Virtual Tape Library:VTL)は、今となっては特に目新しいキーワードではないが、最近何かと話題の「仮想」という言葉が使われていることもあり、ここであらためて整理してみたい。
仮想テープライブラリとは、ディスク装置上でテープドライブを疑似的(仮想的)に実行させることで、システムに対して、あたかもテープドライブが接続されているかのように見せかける仕組みのことである。例えば、世の中にはWindowsマシン上でMacを動かすようなソフトウェアがあるが、物理的に存在しないものをあるものと見せかけるという点では、仮想テープライブラリと同じである。
ディスク装置は一般的に、テープメディア単体よりも容量が大きい。そのため、システムに対してはディスク装置を単体のテープドライブとしてではなく、「大規模なテープライブラリ」として見せかけるのが一般的である。
では、なぜディスク装置としてではなく、わざわざ仮想的にテープ装置に見せかけることが必要なのか? それは、導入のしやすさを最優先した結果である。
システム運用管理の現場担当者としては、運用実績のある使い慣れたテープバックアップのシステムを、リスクを冒してまでディスクバックアップに変更したくないというのが本音だろう。バックアップシステムをテープからディスクに変更すれば、当然のことながらバックアップサーバから見ると異なる媒体が接続されたものとして認識される。そうなると、バックアップのソフトウェアが新しいディスク装置に対応していなかったり、あるいは追加のライセンスを購入しなければならないようなケースが起こり得る。
このような事態に陥ることなく、テープからディスクにスムーズに移行できるようにと考えられたのが、仮想テープライブラリである。仮想テープライブラリは、それまで行っていたテープバックアップでの運用をそのまま続行できるので、既存の使い慣れたシステムを変更することなくディスクバックアップに移行できる。データの入出力はテープフォーマットで行うので、バックアップのスケジューリングや世代管理はテープと同じように扱うことができる。また、短い期間で導入可能なことも大きなメリットである。
仮想テープライブラリの実現方法
仮想テープライブラリの仕組みを実現する方法には、大きく分けて3つのパターンがある。
一体型
あらかじめストレージと、仮想テープライブラリのエンジン/ソフトウェアとが組み合わされた形である。例えば、EMCジャパンの仮想テープライブラリ装置「EMC Disk Library 4000シリーズ」は、ディスクアレイの部分にEMC CLARiXというストレージを採用し、なおかつ仮想テープライブラリのエンジンとソフトウェアも実装している。
ソフトウェア
仮想テープライブラリのソフトウェアとストレージ製品を個別に購入して導入するというケースもある。ファルコンストア・ジャパンが提供する「ファルコンストアVTLシリーズ」は、ソフトウェアとして販売されている。指定のIAサーバにインストールし、これにストレージ機器を接続することで仮想テープライブラリを実現する。
バックアップソフトウェアに実装
バックアップソフトウェアに仮想テープライブラリの機能を持たせたものもある。代表的なものとしては、バックボーン・ソフトウエアの「NetVault Backup」があり、仮想テープライブラリ機能を使用することで、HDDの中に仮想的にテープライブラリを作成し、その中にバックアップを行うことが可能となる。
仮想テープライブラリ導入のメリット
仮想テープライブラリを導入することによって得られるメリットは、大きく分けて3つある。それは、「高性能」「高信頼性」「自動化」である。
高性能/自動化
データをリストアする際に、テープの場合は必要なデータにたどり着くまでに時間がかかり、また複数のテープにまたがると交換時間も必要になってしまう。しかし、仮想テープライブラリであれば実体はディスクなので、ランダムアクセスに強く、欲しいデータにすぐたどり着くことができる。テープの交換も仮想的に行うだけなので、極めて短時間で済む。
高信頼性
大規模なテープオートメーションなどでのテープ交換で起こり得る機械的な故障が減り、ヘッドクリーニングなどのメンテナンスも気にする必要がなくなる。また、テープでメディアエラーが発生すると通常は異常終了となり、別のテープにデータの続きが取ってあっても、リストアはエラーを起こしたメディアから行うしかない。その点、仮想テープライブラリであれば通常はRAIDによって守られているので、ディスクが壊れてもバックアップ/リストアを正常終了できる確率は高い。
また、仮想テープライブラリは1台を論理的に分割でき、複数のテープライブラリのように見せることができる。仮想的にテープドライブ数を増やすのも簡単だ。「仮想」とは何かと便利なものである。
仮想テープライブラリによるリモートコピー
仮想テープライブラリといえば、リモートコピー(レプリケーション)も利点の1つだ。ネットワーク経由で、データのコピーを遠隔地にある仮想テープライブラリに作成するのだ。これは言い換えると、エミュレートしたテープを遠隔地に保管することだといえる。
テープバックアップと比較すると、テープを業者に運んでもらう必要がなく、紛失や破損のリスクがなくなるとともに、運用の手間も大幅に省くことができる。
仮想テープライブラリに関する最新技術
ここまで、仮想テープライブラリの利点を挙げてきたが、ご存じの通りディスクはテープより導入コストが高いという欠点がある。しかし、最近ではコストを下げるための技術も登場してきている。仮想テープライブラリに関する最新技術を幾つか簡単に紹介しよう。
大容量SATAドライブ
ディスクバックアップ装置でも、比較的コストが安価な大容量SATA(Serial ATA)ドライブを採用することが増えてきた。SATAドライブは、比較的大きいブロックサイズのシーケンシャル(連続)I/O環境に適している。ディスクへのバックアップ運用では、比較的大きいブロックサイズのシーケンシャルデータが多いため、SATAドライブはうってつけである。
また、シーケンシャルI/Oの場合はドライブの回転速度による影響が少ないため、低回転で安価なタイプのSATAドライブでも十分実用に耐え得る。もちろん、回転速度が低ければ消費電力も節約できるため、ランニングコストの面でもメリットがある。
RAID 6
RAID 6をバックアップ専用ディスク装置に採用するベンダーが増えている。RAID 6はパリティデータを2重に持つため、もし2本のディスクドライブが同時に故障しても復旧が可能であり、信頼性が高いことが特徴だ。パリティデータを2つ生成して書き込むため、I/O性能は落ちるものの、シーケンシャルI/Oであれば影響はそれほど大きくない。実際のところ、バックアップデータの書き込み速度にはさほど性能を求められないケースが多いため、RAID 6はバックアップ専用ディスク装置に適しているといえる。
MAID/回転停止
バックアップ専用ディスク装置で最近注目を集めている技術に、「MAID(Massive Arrays of Inactive Disks Technology)」がある。MAIDとは、アクセスがないディスクドライブの電源を自動的に切ることで、無駄な電力を使わないようにする技術である。テープドライブもアクセスがないときは電力を使わないが、それと同じ発想である。
データ重複排除
バックアップするデータの中身を注意深く見てみると、意外と同じもの、もしくは似通ったものが多いことに気付くだろう。また、定期的にフルバックアップを取る場合、バックアップデータの内容は前回取ったのと同じものが大半であろう。このような同じデータを何度もバックアップすることの無駄を省く技術が「データ重複排除」(データ重複除外)である。この技術を採用することでバックアップデータの量を大幅に縮小することが可能となり、結果として導入時のディスクドライブの数が減り、運用時の消費電力も削減できる。
このデータ重複排除技術にはさまざまなタイプがあり、実現手法や運用方法などに興味深い点も多いので、次回であらためて詳しく取り上げる予定である。
このように、以前と比べて仮想テープライブラリは格段に導入しやすくなってきている。ここで紹介した新技術もある程度こなれてきたので、性能面や運用面での優位点はもちろんのこと、容量当たりの単価や消費電力においてもテープバックアップと比較検討する価値がありそうだ。
<筆者紹介>
羽鳥正明
EMCジャパン株式会社 マーケティング本部 プロダクト・マーケティング・マネジャー
同社にてバックアップ・リカバリ関連製品のプロダクト・マーケティングを担当。
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この記事の著者
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