2012年12月12日 08時00分 UPDATE
特集/連載

ITを利用して次世代型医療の実現を目指す 【市場動向】医療イノベーション5カ年戦略の実現を支える医療IT

政府が進める各種政策は、医療のIT化に強い影響力がある。現在の政策や実証事業の内容を基に今後の医療ITを考える。

[翁長 潤,TechTargetジャパン]

 2009年8月の政権交代から3年4カ月、与党・民主党は医療分野でさまざまな施策を実施してきた。2020年までの成長戦略を示した「日本再生戦略」(2012年7月発表)の中で、3つの重点分野の1つに「ライフ成長」を掲げて各種政策を実施している。本稿では、12月1日に開催された「地域医療福祉情報連携協議会」シンポジウムにおいて医療政策のキーパーソンと総務省、厚生労働省の政策統括官が講演した内容を踏まえ、医療政策と医療のIT化を考える。

医療イノベーション5カ年戦略を推進

photo 参議院議員の鈴木氏

 政府は2010年11月、内閣官房に「医療イノベーション推進室」を設置した。医療イノベーション推進室は、松本洋一郎氏(東京大学教授)が室長を務め、岡野光夫氏(東京女子医大副学長)と田中耕一氏(島津製作所フェロー)が室長代行を担当する。2009年9月から文部科学副大臣を2年間務め、同推進室の立ち上げに従事した参議院議員の鈴木 寛氏は「医療イノベーション推進室は、厚生労働省や文部科学省、総務省、経済産業省などの関係省庁を横断した医療政策の司令塔の役割を担う。産学官の人材が集まった“オールジャパン体制”で臨んでいる」と説明する。

 医療イノベーション推進室は2012年6月に「医療イノベーション5カ年戦略」を策定。医療イノベーションでは「医薬品や医療機器、再生医療などを始めとした最先端の医療技術の実用化」「国際競争力の高い関連産業の育成」とともに、その成果を国民の医療・健康水準の向上に反映させることを目指している。同推進室は国家戦略室や内閣府と連携して「日本再生戦略」「医療イノベーション5カ年戦略」に基づき、各省庁の類似施策の重複を排除したり、関連予算の調整を実施している。総務省は情報通信技術の活用推進、文部科学省は大学を中心とする基礎研究/臨床研究の橋渡し、厚生労働省は治験/臨床研究や医療現場との連携、経済産業省は研究成果の産業化や産業界との連携などの役割を基本とする。

 鈴木氏は「これまで医療分野は社会のコストセンターと捉えられてきた。しかし、現在は新規雇用や国際競争力を創出する成長分野だ」と語る。医療イノベーション推進室では、以下の6分野での具体的な施策を進めている。

医療イノベーション推進室が調整する府省庁横断的な施策
分野 関連府省庁(略称) 概要
医薬品 文科省、厚労省、経産省 創薬関連の研究開発予算の効率的、一体的な執行確保
創薬支援ネットワークの整備
臨床研究・治験環境の整備
審査の迅速化・質の向上・安全対策の強化
医療機器 文科省、厚労省、経産省 医工連携推進による医療機器の実用化
審査の迅速化・質の向上・安全対策の強化
再生医療 文科省、厚労省、経産省 再生医療の迅速な実現に向けた、基礎から臨床段階まで切れ目のない一貫した支援と再生医療関連産業の基盤整備
審査の迅速化・質の向上・安全対策の強化
個別化医療 総務省、文科省、厚労省、経産省、環境省 東北メディカル・メガバンクを中心とするコホート研究/バイオバンクによる個別化医療の実現に向けた取り組みを推進
医療周辺サービス(ロボットなどの機器・システムの活用を含む) 総務省、文科省、厚労省、経産省 高齢者/障害者や介護現場のニーズに応えるロボット技術の研究開発・実用化を促進
革新的医薬品/医療機器開発に関わる中小・ベンチャー企業の育成
医療/介護と連携した健康関連サービス産業の成長促進と雇用の創出
医療の国際化促進 総務省、外務省、厚労省、経産省 高水準の日本式医療をアジアや中東などに展開

 鈴木氏は「日本の医療の強みは、世界最高レベルの医療サービスの質。きめ細かさ、ホスピタリティ、丁寧な“安心・癒しの医療”を提供できる。しかし、革新的な技術が実用レベルにつながりにくく、先進医療の分野で後れを取っている。また医薬品で1兆2000億円、医療機器で6000億円の輸入超過という状況にある。医療イノベーションでは、輸出を増やすことで均衡を図りたい」と語る。

 特に医療IT関連では「個別化医療」に注力し、コホート研究やバイオバンクの研究を支える医療情報連携基盤の強化を進めている。その具体的な施策が「東北メディカル・メガバンク計画」だ。東北大学および岩手医科大学が中心となり、東日本大震災で被災した住民の健康/診療情報、ゲノム情報などを2016年度までに15万人規模で収集し、次世代医療技術の開発などにつなげる取り組みだ。

photophoto 東北メディカル・メガバンク計画(左)、個別化医療・個別化予防(右)のイメージ(日本再生戦略の公式Webサイトより)《クリックで拡大》

 鈴木氏は「東北地方は調査対象となる3世代の住民が比較的近隣で暮らしていることが多いため、情報を収集しやすい。そのプラットフォームとしてPHR(Personal Health Record)の構築が重要。ITを活用して次世代型医療の実現を目指す」と説明する。現在、被災地の住民を対象とする健康調査を実施して診療情報やゲノム情報を集約し、個別化予防・個別化治療を実施するインフラを整備している。

 また、医療イノベーション5カ年戦略では、厚生労働省の医薬基礎研究所を本部とするネットワークを構築し、国が医薬品の研究開発費を支援する「創薬支援ネットワーク」、ARO(Academic Research Organization)機能を併せ持つ臨床研究中核病院の整備などを進めている。

 鈴木氏は、今後の国会では「薬事法の抜本改正案」の提出を見込んでいる。医薬品と医療機器の審査を最適なプロセスに改善する内容だ。特に、医療機器の特性を踏まえた「PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)」の審査・運用の改善を法改正によって実現するという。医療イノベーション実現の課題は、「患者の個人情報や機微情報を適切に取り扱うための関連法の整備。また、医師不足が続く中でどう人材を割いていくかも問題」(鈴木氏)。現在、政府はこうした課題解決に向け、関連法の整備を検討するWGの設置や医療分野の人材育成の強化などを進めている。

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