総点検: SMBのためのBI活用【番外編(後編)】
“何でもExcel分析”から脱却できるBIツールの選び方
中堅・中小企業が求める「セルフサービスBI」や「誰でもBI」を実現するには、Microsoft Excelのみでは十分とはいえない。では、何が必要なのか? 具体例を基に説明する。
前編「“何でもExcel分析”から脱却すべき理由」では、一般の従業員が自らデータ分析をする「セルフサービスBI(ビジネスインテリジェンス)」や「誰でもBI」の実現を望む中堅・中小企業が多い一方で、中堅・中小企業がデータ分析によく活用する「Microsoft Excel」(以下、Excel)のみでは、セルフサービスBIや誰でもBIを実現しにくい理由を整理した。
中堅・中小企業でセルフサービスBIや誰でもBIを進めるには、どうすればよいのか? その解決策を解説していこう。
連載「総点検: SMBのためのBI活用」
「使い勝手のよいユーザーインタフェース」が本当に意味するもの
前編では、ERPを導入している年商5億円以上500億円未満の中堅・中小企業に対して尋ねた「BI活用に際して解消したい課題」(複数回答可)のうち、
- 集計/分析の対象となるデータの所在が分からない
- 集計/分析すべきテーマそのものが設定できない
の2つの課題を挙げる回答者が比較的多かったことを説明した。中堅・中小企業がセルフサービスBIや誰でもBIを進めるための条件は、この2つの課題を裏返すことで見えてくる(表1)。
| 課題 | 解決策 |
|---|---|
| 集計/分析の対象となるデータの所在が分からない | どのようなデータがどこにあるか?を見つけてくれる仕組みが必要 |
| 集計/分析すべきテーマそのものが設定できない | 指標や軸を設定しなくても何らかの知見を与えてくれる仕組みが必要 |
前編では、中堅・中小企業がBI活用で最も重視する要素としてユーザーインタフェースの使い勝手のよさであることを述べた。ここでの「使い勝手」とは、単にグラフやチャートがウィザード形式で簡単に作成できるという表面的な使い勝手だけではなく、表1の解決策で紹介した仕組みも込められていると捉えるべきだろう。
実際に表1で紹介したような仕組みを実現することは可能なのだろうか? 具体的な製品/サービス例を交えながら、それぞれ見ていくことにする。
「どのようなデータがどこにあるか」を見つけてくれる仕組み
Excelを含む中堅・中小企業向けBI製品/サービスの多くは、「まずデータソースを指定し、次にテーブルを指定し、対象となるデータをグラフやチャートで視覚化する」といったステップを踏む。ここには「ユーザーが分析したいと考えるデータの所在をユーザー自身が知っている」という暗黙の了解がある。
だが前編で示したように、中堅・中小企業ではそもそも「どこにどのようなデータがあるかわからない」ことが課題となっている。この課題を解決するには、ユーザーが「売上高」「店舗別」「商品別」といった分析対象に関連するキーワードを指定すると、それらを含むデータの所在を教えてくれるような仕組みがあることが前提となる。
企業内に散在するさまざまなデータソースを、キーワードを基に検索する仕組みは「エンタープライズサーチ」と呼ばれる。エンタープライズサーチは、BIとは全く別のIT分野として認識されており、中堅・中小企業における導入例も限られている。だがエンタープライズサーチが実現する仕組みこそが、中堅・中小企業におけるBI活用の前段階である、「どこにどのようなデータがあるかを探す」手段として求められているのである。
既にこうした取り組みを始めているBIベンダーも存在する。国内ではアシストなどが提供するBIツール群「WebFOCUS」の開発元である米Information Buildersは、その1社だ。Information Buildersは、「WebFOCUS Magnify」というエンタープライズサーチ製品も提供しており、両製品はデータ連携が可能だ(参考:Enterprise Search: WebFOCUS Magnify<Information Builders>)。例えば、まずはWebFOCUS Magnifyで「売上高」というキーワードを含むデータソースやテーブルがどこにあるかを検索し、そこで見つかった結果を対象としてWebFOCUSのBIツールによる分析をする、といった具合だ。
BIツールとエンタープライズサーチを両方とも導入できる中堅・中小企業は少ないだろう。ただし、既存のBIツールに比較的簡易なエンタープライズサーチ機能が加わった製品が登場すれば、中堅・中小企業におけるBI活用に大きな変化をもたらすはずだ(図1)。
指標や軸を設定しなくても何らかの知見を与えてくれる仕組み
中堅・中小企業向けを含む大半のBIツールは、指標や軸を指定することで視覚効果に優れたグラフやチャートを作成できる。だが既に見たように、中堅・中小企業では「どんな指標や軸を指定すればよいか」という最初の1歩を踏み出せないことが大きな課題となっている。これを解消するには、ユーザー側が何もしなくても「どの指標や軸が重要なのか」「次にどんな点に着目すればよいか」を示唆する仕組みが求められる。
こうした仕組みについても、既に盛り込み始めているBIツールが存在する。「ボタンユーザーインタフェース」という仕組みを持つエヌジェーケーの「DataNature Smart」がその一例だ(参考:製品ラインナップ<エヌジェーケー>)。ボタンユーザーインタフェースは、分析対象となるデータ群の属性を自動的にピックアップし、ボタン状に配置してくれる(図2)。ユーザーが集計対象としたい属性のボタンを押せば、それらをグラフやチャートとして表示する。
ここで重要なのは、ボタンの大きさ自体がデータ件数などといった「属性量」を反映している点だ。つまり、ボタンとして表示された属性の一覧を見れば、重要な属性(量や件数が多い属性)はどれなのかを確認できる。まずどの属性を指標や軸とすべきかを検討するヒントを与えてくれるわけだ。
次に、クリックテック・ジャパンの「QlikView」における例を見てみよう(参考:QlikView<クリックテック・ジャパン>)。QlikViewは、互いに関連するデータ属性を縦横無尽にたどることができる「連想技術」が最大の特徴だ(図3)。例えば、車の販売において、車色が「ブラック」である車種の販売状況を分析したいとしよう。ここで「ブラック」を選択すると、「地域」や「販売店一覧」などの他の属性の中で「ブラック」と関連のある(「ブラック」の車種を販売した実績のある)データと、関連のないデータを区分けした状態で表示してくれる。車色という最初の軸を指定した後、次にどの属性に注目し、実際に重要なデータはどれなのかを教えてくれる。
「BIツールの使い勝手」というと、グラフやチャートの作成のみに注目が集まりがちだ。だが中堅・中小企業にとって重要なのは、上記のような「指標や軸の指定をサポートする仕組み」であるといえる。
実はExcel自身もこうしたニーズを踏まえた進化を続けている。最新の「Excel 2013」では、アドオン導入や「Office 365」との連携などにより、「Power BI for Office 365」と総称される一連のBI関連機能を利用できる。キーワードを基に社内のデータベースだけでなく、インターネットに公開された数表データなどを取り込んで分析対象にできる「Power Query」、分析結果を地図上に視覚的に配置してくれる(例えば、店舗ごとの売り上げ数値を地図上にプロットすることで、地域別の傾向が直感的に把握できる)「Power Map」などが含まれる。これらも上記に挙げたBI活用における課題の解消を目指した取り組みだといえるだろう。
繰り返すが、中堅・中小企業が「Excelからの次の1歩」を踏み出すためには、
- 集計/分析の対象となるデータの所在が分からない
- 集計/分析すべきテーマそのものが設定できない
といった課題をクリアする必要がある。幸いなことに、上記の例に挙げたようにこうした課題を解消する仕組みが既に提供され始めている。中堅・中小企業に固有の課題に焦点を当てて、それを解消しようとするベンダー各社の取り組みは今後も増えていくだろう。
「何種類のグラフやチャートを作成できるか」といった見た目に訴える機能も重要だ。だが中堅・中小企業がデータ分析に関する取り組みを成功させるためには、BIツールの選定時に、上記に挙げたような課題の解決に有効な仕組みを備えているかどうかをしっかり見極めることが大切だ。本稿がその一助となれば幸いである。
岩上由高(いわかみ ゆたか)
ノークリサーチ シニアアナリスト
早稲田大学大学院理工学研究科数理科学専攻卒業後、ジャストシステム、ソニーグローバルソリューションズ、ベンチャー企業数社でIT製品およびビジネスの企画や開発、マネジメントに長年携わる。ノークリサーチでは多方面で培った経験を生かし、中堅・中小企業のIT活用全般にわたるリサーチやコンサル、執筆・講演など幅広い分野を担当。
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