総点検: SMBのためのBI活用【第4回】
【製品動向】クラウドとオープンソースで「中堅・中小向けBI」はどう変わる?
企業システムにおけるクラウドやオープンソースの普及は、中堅・中小企業向けのビジネスインテリジェンス(BI)製品を取り巻く状況に変化をもたらしつつある。最新動向を追った。
中堅・中小企業におけるビジネスインテリジェンス(BI)活用の現状と今後をテーマとする本連載。最終回となる第4回は、中堅・中小企業におけるBIとクラウドとの関わりやオープンソースBIの動向について見ていくことにしよう。
連載「総点検: SMBのためのBI活用」
クラウド環境でのBI活用における3つの道筋
現段階では、クラウド環境でBIを活用するケースはまだ少ない。だが今後に向けて注目すべき動きも幾つか見られる。こうした動きを整理すると、クラウド環境におけるBI活用は、以下の3つの道筋に整理することができる。
- 道筋1:各社員がクライアントPCで集計/分析をする際のリソースを提供する
- 道筋2:ERPをプライベートクラウドへ移行する際の付加価値とする
- 道筋3:クラウドサービスとして顧客関係管理(CRM)などと組み合わせる
まず、以下のグラフを見ていただきたい(図1)。これは、年商500億円未満の中堅・中小企業に、「導入済みまたは導入予定の基幹業務のクラウドサービス(複数回答可)」を尋ねた結果である。ここでの基幹業務とは、会計や人事・給与、販売・購買、生産およびそれらを元とする帳票やBIといった広い範囲を指す。
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中堅・中小企業においても、基幹業務に関連したシステムには個別のカスタマイズが加わることも少なくない。そのため、SaaSを中心としたクラウド活用が適用しづらい側面もある。「基幹業務の分野ではクラウドを活用しない」という回答割合が約8割に達していることからも分かるように、BIの主な活用対象である基幹業務システム自体のクラウド移行がまだ十分に進んでいない状況といえる。
だが、こうした中でも注目しておくべき動きがある。
富士通:クライアントPCとクラウドを合わせたセルフサービスBIを促進
1つ目は、2位に挙がった富士通の「SAP BusinessObjects BI OnDemand」である。これは、SAPジャパンが提供する同名のBIサービスを富士通が自社のデータセンターから提供するものだ。クライアントPCからデータをアップロードし、従業員が集計/分析できる。連載第1回「【導入効果】未来予測に進む『BI』、中堅・中小企業のメリットは?」で紹介した「セルフサービスBI」に必要なメモリやCPUといったシステムリソースをクラウドで提供する例といえるだろう。
富士通の法人向けクライアントPC「LIFEBOOK」などが搭載する「SAP Crystal Reports」の試用版には、SAP BusinessObjects BI OnDemandとの連携機能が付加されている。このように、クライアントPC販売とクラウドサービスを組み合わせた形でセルフサービスBIを促進するといった取り組みは、有効なアプローチの1つだ。これが上述した道筋1に相当する。
電通国際情報サービス:「SAP ERP」とBIをクラウドで利用可能に
道筋2に関連するのは、3位に挙がった電通国際情報サービス(ISID)の「BusinessACXEL for SAP ERP」である(参考:「SAP ERPは月額料金で利用」が当たり前になるか)。SAP ERPをクラウドで利用可能にするサービスであり、年商300億円以上500億円未満の中堅上位企業だけでなく、年商100億円以上300億円未満の中堅中位企業での導入も見られる。
BusinessACXEL for SAP ERPの特徴の1つは、ISIDのBI製品「BusinessSPECTRE」をオプションのクラウドサービスとして利用できる点だ。連載第2回「【市場動向】中堅・中小企業が支持するBI製品はどれだ?」の冒頭に挙げたBI製品/サービスの導入社数シェアにおいて、BusinessSPECTREは6位に位置している。つまり、実績のあるERPとBIの両方の製品をクラウドで活用できるわけだ。
BusinessACXEL for SAP ERPは、ハードウェアやソフトウェアは月額課金だが、カスタマイズやアドオンを加えた独自環境も構築できる。SAP ERPの運用管理コストを下げるために、クラウドへの移行を検討している中堅企業にマッチするサービスといえるだろう。
BIは、データ量によっては大量のメモリやCPUを消費する。こうしたBIをクラウドで実行することができれば、ERPにおけるコスト削減に加え、BIにおけるシステムの過剰投資も回避できる。このように「ERPをプライベートクラウドへ移行する際の付加価値」として、クラウド環境でBIを利用するケースも検討しておくべきだ。
ウイングアーク:クラウドでCRMとBIを連係
最後の道筋3は、クラウドという観点では一番分かりやすいかもしれない。以下のグラフは、年商500億円未満の中堅・中小企業に対し、「導入済みのCRM製品/サービスのうち最も主要なもの」を尋ねた結果である(図2)。
セールスフォース・ドットコムのクラウドCRMである「Salesforce CRM」「Sales Cloud」「Service Cloud」が、大塚商会「SMILEシリーズ」やNIコンサルティング「顧客創造日報シリーズ」と同率で首位となっている。
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CRMは、クラウド活用が早期に進んだ分野の1つであり、さまざまな周辺製品/サービスが登場している。当然、クラウドに蓄積されたCRMのデータをクラウドで集計/分析したいというニーズが増加することが予想される。
ウイングアークが、同社のグループ企業であるバリオセキュア・ネットワークスを通じて提供する「MotionBoard for Salesforce」は、こうした流れを受けた取り組みの1つだ。連載第3回「【製品動向】分析や可視化をもっと手軽に、『中堅・中小向けBI製品』」で取り上げた「MotionBoard」をセールスフォース・ドットコムのクラウドサービスと連係させて、クラウド環境で利用することができる。
このように、クラウド活用が早期に進んだCRMなどの分野では、BI側もクラウドサービス化し、それらを連携させるアプローチが進むと予想される。
注視が必要なオープンソースBI
中堅・中小企業を顧客とする販社やシステムインテグレーター(SIer)の中には、「高度な機能は必要ないが、自社が開発、運用するシステムにも集計/分析の仕組みが求められている」というケースもあるだろう。その場合に有効なのが、オープンソースBI製品の活用だ。冒頭の導入社数グラフでは、「独自開発システム(オープンソースベース)」に相当する。全体に占める割合は1.5%とまだごくわずかだが、品質とコストを両立させて必要十分な機能を提供するという観点では、今後の動きを注視しておく必要がある。
オープンソースBI製品の代表例としては、「Pentaho BI Suite Enterprise Edition」「Jaspersoft Business Intelligence Suite」が挙げられる。いずれも有償サポートを提供する国内代理店も存在し、中小規模SIerによる取り組みが盛んになってきている。
全4回にわたり、中堅・中小企業におけるBI活用の現状と今後をさまざまな角度から見てきた。一貫していえることは、「中堅・中小企業においてもBI活用は新たなステージへと進みつつあり、それに応えるさまざまな製品や技術が既に登場し、実際に導入されている」ということだ。
「ITによって蓄積されたさまざまなデータを業績改善に生かす」という取り組みは過去にもあったが、成功する例は決して多くなかった。その最たる要因の1つは、データの共有や解釈といった前段階で多大なコストや時間を要していたことにある。連載第1回で紹介したリアルタイムBIやセルフサービスBIは、こうした障壁を下げ、試行錯誤の機会を与える要素だといえる。本連載が、新たなBI活用に取り組む中堅・中小企業にとって、何らかの参考となれば幸いである。
岩上由高(いわかみ ゆたか)
ノークリサーチ シニアアナリスト
早稲田大学大学院理工学研究科数理科学専攻卒業後、ジャストシステム、ソニーグローバルソリューションズ、ベンチャー企業数社でIT製品およびビジネスの企画や開発、マネジメントに長年携わる。ノークリサーチでは多方面で培った経験を生かし、中堅・中小企業のIT活用全般にわたるリサーチやコンサル、執筆・講演など幅広い分野を担当。
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