MR約1700人の価値を向上させた情報化戦略
iPadがまるで“コンシェルジュ” 中外製薬のMR活動を支える情報ダッシュボード
中外製薬は、MR(医薬情報担当者)向けにモバイル型情報ダッシュボードを開発・導入した。本稿では、その背景やツールの詳細、今後の可能性について紹介する。
医薬品大手の中外製薬では、社外での活動が中心となる営業部員であるMR(医薬情報担当者)向けにデータ抽出・加工ツール(BIツール)をベースとしたモバイル型情報ダッシュボードを開発・導入した。その背景には、営業効率の向上や業界の変化などの課題があった。2014年3月に開催された「日経産業新聞フォーラム2014」で講演した、中外製薬 営業本部 営業業務部 推進グループ 中野陽介氏の話を基に紹介する。
MR約1700人の情報武装化を進める中外製薬
中外製薬は、1943年に設立された老舗の医薬品会社(前身となる中外新薬商會は1925年に創業)。2002年10月にはスイスの医薬品大手であるF. Hoffmann-La Rocheと経営統合し、グローバル企業の1社として現在に至っている。2013年12月期の連結売上高は約4200億円、従業員数は2013年12月31日時点で約6900人(連結)となっている。同社はバイオと抗体技術を強みとし、医療用医薬品の開発に取り組んでいる。近年では、がんや骨・関節、腎の3領域に重点を置く。
製薬会社の営業職として活躍するのがMRである。MRには大きく2つの役割がある。医薬品の適正使用のための情報を提供・収集・伝達する社会的役割と、自社医薬品の普及に努める企業の営業パーソンとしての役割だ。中外製薬では、約1700人のMRが所属しており、医療機関や医療品卸(取引店)への情報提供・連携を行っている。
中野氏は、同社MRの特徴について「外勤時間が長く、移動時間や待機時間なども多いため、外勤中の時間を有効活用することがMRの営業効率を上げるためのカギとなっている」と話す。
また、医療機関に訪問する前には、「面談時にはどの資料を使うか」や「前回の面談時は何を話したか」「直近の実績状況はどうか」といったことを調べ、医師や医療関係者との面談に向けて準備を行うという。
社外での活動が中心となる同社MRにとって重要なのがモバイルツールである。「MRはモバイルツールに対する依存度が高い。営業活動を効率化するには、モバイルツールをいかに使いやすくするかがポイントだ」(中野氏)
モバイル環境の見直しが求められる業界の変化
中外製薬では、MR向けのモバイルツールとして既にノートPCと「iPad」を支給していた。だが、ノートPCについては、情報量は多いが利便性に欠け、情報の集約方法に課題があった。一方のiPadについては、利便性は高いがセキュリティの観点から必要な情報を網羅できない状況だったという。こうした現状を分析する中で、情報量と利便性を両立したモバイルツールの必要性が高まっていった。
また、MRに対する医療機関の訪問規制が営業課題となっていた。医師との面談にアポイント制を導入する医療機関が急増しており、昨今、MRの面談機会が減少していた。この課題を解決するためには、これまで以上に綿密に訪問の目的や計画を練り上げ、医師のニーズを的確に把握する質の高い面談がMRに求められる。こうしたMRの営業活動を取り巻く変化に対応する上でも、IT環境の見直しが迫られていた。
そこで行われたのがiPadの位置付けの見直しである。中外製薬では、MRが顧客に面談する際に、情報を迅速かつ適切に伝えるための「情報提供支援ツール」として、iPadを2012年に導入。情報資材の閲覧アプリ、メール/予定表/営業日報の入力アプリ、個人学習の支援アプリなどがインストールされていた。
MR目線で情報ダッシュボードを開発
検討を重ねた結果、2013年以降は情報提供の支援に加え、「MR活動の価値向上に寄与するツール」としてiPadを活用すべく、情報ダッシュボードの開発に着手した。開発プロジェクトにはMR経験者が招集され、「MR活動を支える基盤として、MR目線で情報ダッシュボードを作っていくことにこだわった」(中野氏)という。
「この情報ダッシュボードでは、日常の活動報告やデータ入力がMRにとってメリットがあると実感でき、MRが自ら使いたくなるようなものを開発したかった。また、顧客訪問の直前でも瞬時に確認できることにもこだわった」
中外製薬は過去に、自社医薬品の市販後臨床データベースと米MicroStrategyのBIツールを組み合わせ、医薬品の安全性・有効性をビジュアル化する情報アプリを開発した。これが好評だったこともあり、情報ダッシュボードの開発に際しても、同社BIツールを導入することがすぐに決まった、と中野氏は話す。
「MRこんしぇる」はMRにとってのコンシェルジュ
2013年4月に利用開始された情報ダッシュボード「MRこんしぇる」は、外出先からMRが自分の計画・実績、取引店の計画・実績、医師・施設の情報など、営業活動に必要な情報をiPadから網羅的に確認できるシステムだ。
従来は散在していた情報を集約することで、MRの訪問準備を効率化し、訪問直前に知りたい情報を閲覧できるようにし、MRに新しい気付きを提供している。また、他のMRと活動メモや訪問結果を情報共有することで、ナレッジの活用にもつながっている。
MRこんしぇるは、MRの動線に合わせた画面設計がなされており、マニュアルレスで直感的な操作が可能という。
トップ画面からは、訪問予定や自分の実績、アラート、ニュースなどを確認できるようになっている。右上のメニューボタンからいろいろな切り口で情報を掘り下げていくことが可能である。
例えば、訪問先をタッチすると訪問先情報が表示され、月別の実績や施設情報、日次売上データを俯瞰できる。「それぞれの情報は、単に1カ所に集約しているだけでなく、MRが見たい動線でつなぐことにこだわって作られている。これがMRこんしぇるの最大の特徴」(中野氏)
MR育成ツールとしての可能性
今後については、価値の高いMRを育成していくためのツールとして使っていく計画だと中野氏は話す。
「情報の活用方法については個人レベルで大きな差がある。ベテランのマネジャー層が情報の分析方法やデータの生かし方を教える指導ツールとして利用したり、若手MRの育成ツールとして利用していきたい」
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