決算報告作業の劇的な効率化を目指した中外製薬のBI活用BI導入事例:Dr.Sum EA

基幹システムの全面刷新に伴いERPパッケージとBIツールを導入した中外製薬。しかしその標準機能が、決算をはじめとする各種報告書や分析リポート作成業務すべてを効率化したわけではなかった。

2009年02月23日 08時00分 公開
[吉田育代]

ERP導入後も財務経理部門で効率化されなかった作業

 2005年、中外製薬はBPR(Business Process Re-engineering)を行う目的で基幹システムの全面刷新を行い、会計/生産/販売など主要部門にERP製品「SAP R/3」をビックバン方式で導入した。そして、2007年には人事システムも「SAP ERP 6.0」で稼働開始した。

 それと同時に、主に財務経理部および各機能の予算統括部門でのデータ活用を想定し、BI(Business Intelligence)ツール「SAPビジネスインフォメーションウェアハウス」(以下、SAP BW)を導入した。

 中外製薬はスイスに本拠地を置くロシュ・グループの最重要メンバーであり、国内では中外グループの中核会社である。同社にとってもロシュ・グループにとっても決算早期化への強い要請があるため、月初第3営業日で中外グループ連結ベースの月次決算を取りまとめ(連結会計システム「DIVA」で行われている)、ロシュへ財務実績を報告する必要がある(ロシュ・グループ標準の連結システム「Cartesis Magnitude」経由)。

 つまり、財務経理部門がデータにアクセスしてまとめ上げる時間は3日間しかない。連結ベースの売り上げデータは第1営業日に報告し、第3営業日までには貸借対照表や損益計算書と付属報告書を作り上げなければならないのである。しかも同社の場合、ロシュ・グループの会計基準(国際会計基準に準拠)での財務報告だけでなく、日本の上場会社であることから日本の会計基準での財務報告作成と、2つの会計基準による財務報告を同時に作成する必要があった。これら2つの会計基準では、固定資産の減価償却方法や引当金の計上基準が異なるといった損益に影響する差異があり、財務諸表そのものはSAPやDIVAシステムで同時かつ自動的に作成できる仕組みを実装していたが、付属情報や報告項目、形式など異なる点も多かった。

 SAP R/3からの決算仕訳データ作成のためのデータ収集など、非常に時間のかかる作業を限られた時間で行う必要があった。検索条件を設定し、表示されるまでに30分、画面からデータをロードし、そのデータ加工に30分。設定条件を間違えるとそれだけで約1時間はロスしてしまう。決算作業は複数の担当者が流れ作業で行うため、ある工程で遅滞が発生すれば、後工程すべてが影響を受ける。データ取得のためのレスポンス向上は財務経理部門にとって重要なビジネスニーズだった。

 一方、ERP導入後、四半期ベースでの売り上げや営業利益の予測の精密化、ビジネス環境の変化に対する機動的な予算コントロールがますます重要なビジネス上の課題となってきた。このためには常に直近の実績情報を把握し多角的に分析を行うことで、さまざまな打ち手を考えていく必要があると思われた。四半期ベースでのローリング予算管理を高い精度で行っていくためにも、予算を含めたデータベースの充実と共有化が必要であったが、この面でもSAP R/3やSAP BWのデータベースのみでは機能・対応スピードは不十分であった。結果として、担当者が自席PCのMicrosoft Office Excel(以下、Excel)にデータを抽出して加工するなどで対応しており、内部統制上の要件も考慮した利用しやすいデータベースが求められていたのである。

 同社にはSAP BWのほかにも、営業システムの情報提供ツールとして導入したBIツール「Business Objects」があり、ホスト時代からの利用実績に続き、ERP導入後も総勘定元帳など一部の財務データはそこに蓄積されていた。しかし蓄積されたデータは十分に大量で、担当者の思い通りに検索するというわけにはいかなかった。作業負荷の軽減と経理/予算情報の一元化・共有化のために、既存のBIツールに代わる何かが必要だったのである。

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