製品選定に6カ月をかけ、自社のニーズにマッチするERPを徹底研究ERP導入事例:SuperStream

ERPは投資額や人的リソースへの負荷が大きいことから、導入プロジェクトは正しく慎重に進める必要がある。ここでは、既に成功を収めている企業担当者に、ERPの導入を成功へ導くための秘訣を聞いた。

2007年12月14日 14時16分 公開
[谷川耕一]

 企業がERPのアプリケーションパッケージを導入するきっかけは、さまざまである。「コンプライアンス対応に備えたい」「メインフレームのリプレース時期を迎えた」「ビジネスが成長して旧システムでは対応しきれなくなった」。あるいは最近なら、企業統合を機にシステムの一新を行うことも考えられるだろう。

 アプリケーションパッケージの新規導入は投資額が大きく、場合によってはビジネスプロセスに変更が生じるなど、企業は大きな負担と変化を強いられることがある。そのため、導入プロジェクトを任された担当者は成功させるために多大な苦労をするはめになる。プロジェクトを成功に導くヒントは、一体どこにあるのだろうか。常に頼りになるのは先人の知恵だ。そこで今回は、既にパッケージ製品を導入し成功を収めている企業担当者に導入プロジェクト成功のための秘訣を聞いた。

人海戦術による過酷な業務環境を新システムで改善

 東洋鋼鈑は、1934年に日本では民営企業初となるぶりきメーカーとして発足して以来、缶用材料のリーディングカンパニーとして活動を続けている。昨今は従来製品市場の成長鈍化もあって機能材料ビジネスにも注力しており、新たに化成品事業を立ち上げた。

 新分野への進出に迅速に対応するためには、ITを活用したさらなる効率化が求められていた。しかし当時の東洋鋼鈑には、複数の関連会社が複数の工場を稼働させる企業ならではの苦労が立ちはだかっていた。

 「本社人事に異動になった際、毎月21日は何が何でも出社してくるよう先輩社員にきつく言われました。21日は、徹夜してでも給与計算をやり遂げるのが当たり前という日だったのです」。そう語ってくれたのは、東洋鋼鈑の鈴木 誠氏だ。

東洋鋼鈑株式会社 管理本部 人事グループ主事で給与センター長の鈴木 誠氏

 同氏は、今から5年ほど前に旧システムで行われていた給与計算業務での苦労を次のように語る。「当時の勤怠管理は紙ベースで行われ、人事部門は給与計算日に各職場から管理表を集めて内容を確認するのですが、報告書の束が厚さ10センチほどありました。それを専任のキーパンチャーが一気に入力して人海戦術で読み上げチェックを行い、逐一確認するという流れです。当時の工場は勤怠管理項目数が非常に多かった上、さまざまな特殊手当も存在するなど作業は非常に困難なものでした」

 給与システムはあっても、人事情報管理機能まで備えていなかったのも作業負荷を増した。異動があるたびに紙の名簿を修正し、新たな情報を給与システムに入れ直す必要があったのだ。そのため、「全社規模で部門ごとの人件費を把握したいという要望があっても、すぐには対応できませんでした」と鈴木氏は当時を振り返る。

個人に依存した状況から脱皮するためにパッケージ製品を選択

 この状況を改善すべく、鈴木氏は自らシステムの構築に乗り出したという。それまで開発経験はなかったことから、独学でMicrosoft AccessやMicrosoft Visual Basicを学び開発を進めた。試行錯誤の末、幾つもの便利なツールが生まれ、やがては本格的なリレーショナルデータベースであるMicrosoft SQL Serverを用いたシステムへと拡大していく。

 「実務を十分に知った人間が構築しているので、現場に合わせた使い勝手を実現でき、結果的には評判のいいものに成長しました」(鈴木氏)

 とはいえ、この仕組みにもやがて限界がくる。連結会計の導入で東洋鋼鈑本体だけでなく関連会社のシステム統合が必要になったこと、鈴木氏が管理職となり、いつまでも現場のシステム構築に多くの時間を割くわけにはいかなくなったからだ。このときから、自らの負担を軽減するためにもパッケージ製品の導入を検討し始めたという。

 最初に着手したのは勤怠管理システムで、そこで採用されたのはアマノの「TimePro-Get 就業」だ。導入を決める際には3製品で比較検討を行った。不採用となった製品もある程度定型化されていたり、小規模であれば利用に耐え得るものだった。しかし、東洋鋼鈑のように本社以外にも複数の工場があり、その独自で複雑な勤務体系を実現するには向いていなかったという。これに対しアマノのTimePro-Get 就業は、さまざまな利用形態において実績が豊富だったのが決め手になったという。

 「交代勤務やさまざまな特殊手当など、工場の勤怠管理はかなり難しいものです。われわれが導入する際も、アマノさんのSEの方々がかなり詳細に工場でヒアリングを実施し、その結果複雑な勤怠管理の仕組みがパッケージ製品でも実現できました」(鈴木氏)

100点満点のパッケージ製品は存在しない

 鈴木氏が独自に人事システムの開発を始めた1999年ごろ、実はパッケージ製品の導入も一度は検討したという。しかしながら、当時はパッケージ製品の導入に社内から疑問の声が上がっていた。その理由の1つは、当時検討されていたSAP/R3の数億円規模にも上るライセンス料および開発導入コストの問題だ。人事業務を行っている社員数は本社と工場を合わせても20人程度しかいない。その状況下で数億円ものパッケージ製品を導入しても人件費削減効果は期待できず、コスト回収には長い年月が必要とされた。だとすれば、システムにお金を掛けるよりも、むしろ人海戦術で対処した方がROIの面で優れているという判断に至ったのだ。

 さらに理解を得られなかった理由がもう1つあった。当時のパッケージ製品には柔軟性がなく、業務をパッケージに合わせて変更する必要があったことだ。経営者層からは、「業務をパッケージ製品に合わせろとは何事だ」という厳しい声も上がったという。

 とはいえ時がたち、2004年の秋にはこの考えにも変化が生じた。鈴木氏は、アマノの勤怠管理パッケージを導入した過程で、ほかにも幾つかのパッケージ製品に触れていた。それらを検証するうちに、パッケージ製品の進化に気が付いたのだ。

 「パッケージ製品も進化していることが分かったので、これらでわれわれの業務をシステム化できそうだと感じました。しかし一方で、複雑でばらばらな関連会社の仕組みを考えると、オープン系システムで安定した運用ができるのかといった不安があったのも事実です」(鈴木氏)

 鈴木氏は、この不安を解消するために徹底的にパッケージ製品を調査することにした。7社から6つの製品の提案(2社は同じ製品を提案)を受け、評価、検証を行い細かく比較を行ったのだ。それまで鈴木氏にはERPパッケージの導入経験はなかったため、あえてじっくりとこの過程に時間をかけ、製品選定にはおよそ6カ月を費やしたという。

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