チェーンストア企業の売上拡大を担うのは店舗である。しかし、本部で立案された戦略は確実に全店舗で実施されているだろうか。ユーザー企業への調査を基にチェーンストア企業が抱える課題を洗い出す。
チェーンストア企業における本部から店舗への指示や連絡の量は、好景気のときよりも不景気のときの方が増加する傾向にある。また、急激な市場環境の変化に対応しなければならない昨今、経営戦略も日々変化が要求される。
経営戦略の変化に連動してオペレーション戦略も変化し、その変化は本部スタッフで共有された後に各店舗へ伝えられる。そこに含まれる多くの戦略は、本部で完結するものであったり、店舗で実施しなければならないものだったりと、さまざまだ。多くのチェーンストア企業では、以下のような会話が日常的に行われているのではないだろうか。
その後、担当者が各店舗にリマインドメールや実行確認のメールを送信する。
その後、担当者が各店舗にリマインドメールや変更徹底メールを送信する。
その後、担当者が各店舗に事前電話もしくは事前告知メールを送信する。
本部内にてルールを設定し、ルール徹底メールを送信する。
店舗からメールやFAXで実施完了報告をさせ、本部で集計する。
店舗からメールやFAXで状況報告をさせ、本部で集計する。
本部から店舗に情報を伝達する過程には、本部と店舗の物理的な距離や1対多の関係、店舗スタッフの雇用形態が多様である、といったさまざまな条件や形態がある。本部内であれば物理的な距離もないため実施を徹底しやすいが、店舗での実施は本部からのタイムリーなフォローが難しく、徹底しづらいのが現実だ。しかし、物理的な距離や1対多の関係といった条件や形態を変えることはできない。従って、いかにコミュニケーションを工夫するかが大きなテーマとなる。
「本部店舗間コミュニケーション」に関して、チェーンストア企業はどのような課題を抱えているのだろうか。ネクスウェイが約300社に対して行った調査を基に、課題を洗い出してみよう。主に調査した内容は以下4点である。
本部から店舗に配信している情報は、「キャンペーン情報」「商品情報」「品質管理情報」「人事情報」「慶弔連絡」など、多岐にわたる。内容や量は業種によって差が出るというよりも、各社の経営方針によって差が出ているようだ。
また、本部の「どの部署」から発信されているか、ということも大きなポイントとなっている。「どの部署が、どのような情報を、どのようなタイミングで配信しているか」を本部内で横断的に把握している企業は非常に少なく、結果として店舗に負荷を掛けている。
例えば、本部の一担当者が「自分の部署からの情報配信は月間で100通」と把握しており、「100通なら店舗負荷は少ないだろう」と想定していても、実際には店舗は本部の複数部署からの情報を受信している。このように、本部の一担当者の想定負荷と現実の店舗の負荷には大きな乖離(かいり)があるのが実態だ。
また、情報の量だけではなく、「質」に関しても問題が見受けられる。例えば、同じ「商品情報」であっても、本部側の送信者によって伝え方が異なるケースが多い。ある人は締め切りをタイトルに入れる、ある人は締め切りを文中の最下部に入れる、これだけでも全店舗が同じように認識することは難しい。さらに、実際の作業の徹底、締め切り厳守度に大きな差が生じる。本部から店舗へ発信される情報は、種類、量、伝え方が各社・各人によって異なり、それに起因して店舗には負荷が生じているのだ。
活用ツールとしては、約80%の企業はPCをベースにしたコミュニケーションが主であり、残り20%はFAXというのが実態だ。かつてはほとんどの企業のコミュニケーション手段はFAXや電話がメインであったが、1990年代後半からIT化が加速し、各社PCをベースにした電子メールやグループウェアでのコミュニケーションに移り変わっていった。
IT化により利便性が向上した点は多くあるが、本質的な課題の解決には至っていない。例えば、FAXコミュニケーションには以下のような課題があった。
FAXが電子メールやグループウェアに移行したことでそれらの課題が丸ごと解決したかというと、多くは未解決と言わざるを得ない。むしろ本部側の利便性が向上したことが、情報量を増やす要因にもなっているのだ。
店舗での情報受信後の処理を見てみると、印刷する、フォルダ分けをして保存する、作業内容を忘れないようにメモを掲示する、カレンダーにスケジュールを転記する、といった処理が発生している。
この処理は各社大きな違いはないが、店舗、店長によって処理の仕方が大きく異なる。A店では受信したメールをしっかりとフォルダ分けしているが、B店ではまったくしていない。C店では作業内容をメモし掲示しているが、D店では店長の手帳に残している……といったように、おおむね処理の内容は同じだが、同じ企業内の店舗であっても作業のやり方や濃淡がまったく異なるのだ。さらに、これらをすべて人手で処理しているため、当然だが抜けや漏れ、間違いなどが発生している。
本質的な業務と情報のバランスに関しては、前述1、2の通り、情報量の増加に比例して、店舗で情報処理を行う時間が増加している。つまり、接客や陳列といった店舗の本質的な業務を遂行する時間が削られている。一方で、本質的な業務を削らずに、かつ情報処理をしっかりと行う店舗は残業時間が肥大化する傾向にあるようだ。
また、店舗の状況を把握できていない本部担当者が多いため、忙しい日や忙しい時間帯に情報を発信し、店舗にリアクションを求めることも多い。ベテラン店長ならそれをいったん無視して本質業務を遂行できるが、新任店長はまじめに情報処理を優先してしまい、本末転倒な状態が各所で発生している。店舗数を増やすということは、当然店長も増やさなければならない。その結果新任店長が増加するため、この問題の影響は意外と気付かないところで肥大化している。
上記調査を基に、本部と店舗が抱えている課題をまとめてみよう。
これらの課題に起因して、本部で立案した戦略や変化対応のための施策を店舗に伝えてはいるものの、実際には店舗で実行に至らないということが現実に起きているのだ。
本部店舗間のコミュニケーションの目指すべき姿を筆者は以下のように考えている。
これらを実現・継続運用していくことが、経営戦略を支えるための本部店舗間コミュニケーションにとって重要である。言葉で表現すると非常に簡単に見えるが、多くの企業の話を聞いていると、実際には実現できていないようだ。時間は有限であり、なおかつ本質的な業務をこなした上での実現となると、ひと工夫もふた工夫も必要となる。
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