事例で学ぶBI活用のアイデア【第4回】
グローバルBIの課題「時差」と「運用負荷」を克服した機械製造業事例
BIを特定の部門だけでなく、全社やグループ企業全体の情報基盤にしようと考える企業が増えてきている。グローバルのグループ企業にBIを展開したある製造業のシステム構築の工夫を紹介する。
BIの全社利用、グループ利用が増えてきたわけ
最近ではビジネスインテリジェンス(BI)システムの構築範囲(スコープ)が、部門から全社、そしてグループ企業へと広がってきているようだ。もともとBIシステムの導入は「小さく始めて大きく展開する」手法が比較的成功率が高いといわれており、全社あるいはグループの情報活用基盤としての展開が増えてきている。これには幾つか理由がある。
従来は部門や業務といったセグメント単位でのBIシステムの導入が比較的多かったが、企業競争力のさらなる強化のために、部門最適から全社最適、企業グループでの最適化が求められるようになってきた。また、IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)の導入に伴い、グループ企業全体での会計システムの見直しや、より詳細なレベルでの会計データ連携の必要性が求められるようになってきた(※)。
※IFRS適用についてはスケジュールの見直しが行われており、これについてはややトーンダウンの動きもあるようだ。
一方で、東日本大震災後、事業継続計画(BCP)におけるシステムの在り方として、グループ全体でのシステム統制やデータ統合の話題も挙がっており、今後この動きが加速する可能性は大きいのではないだろうか。そして、企業グループというスコープでBIシステムを考えた場合に、多くの企業ではその中に海外のローカル企業や現地法人が含まれることも少なくないだろう。
グローバルで使える販売管理分析システムを
事例企業プロファイル
業種
- 機械製造・販売業
企業規模・業種内容の参考データ
- 世界各国に販売拠点を展開
- グループ連結従業員数:約1万5000人
今回紹介するのは、産業機械の製造をはじめとする幅広い分野でビジネスを展開している企業グループの事例だ。さまざまな地域で精密な機械設備を扱う同社では、部品の1つひとつに至るまできめ細かく把握・管理する必要がある。
同社では、アフターサービスの確立から、プレサービスへの拡大を目標に掲げ、そのための仕事・組織・システムの改革と、具体的な仕組み作りに取り組んでいる。その仕組みは、ビジネス情報を集約してグループ内に提示する「ポータル」と、裏側で動く部品共有のための基幹系システムと管理系システムで構成される。
このうち、グローバルで補修部品の調達と供給を支えるシステムは、2007年の半ばに全面刷新プロジェクトがスタートした。そのシステムが立ち上がる一方で、集約したデータに基づき、緊急オーダー完納率や受注回答納期順守率など、世界中の部品サービス状況や実績を1画面で瞬時に把握できる仕組みが必要となった。
そこで同社は、「的確で素早い部品政策の立案・決定と行動」「効果のレビューと改善」というPDCAサイクルを回す役割を担う、6カ国にまたがるグローバルな販売管理分析システムの開発に取り掛かることとなった。
ここでは最初に、一般的なデータウェアハウス(DWH)/データマートの構築手法である「目的別のデータマート構築」という実装方法が採用された。目的別データマートとは、一般的に要約データ(サマリーデータ)と呼ばれる。目的に応じて検索・集計されたデータで、複数の集計軸がサイコロのように3次元的に表現されるため、キューブと呼ばれることもある(実際には3次元以上の組み合わせとなるため、一般的には多次元キューブと表現される)。特に、データ件数が多い場合の集計は処理時間がかかるため、あらかじめ想定される分析軸に応じた事前集計や専用のインデックスを作成しておくことで性能を確保する。
従来、目的別に準備したデータマートを作成しておき、それをBIツールで分析するというのが一般的だったが、性能確保の一方で犠牲になることも多い。
データマート作成、画面開発に膨大な工数
分析システムの開発が遅れる
この企業でも販売管理分析システムの開発中に「開発工数が掛かり過ぎる」という問題が出てきた。当時導入したBIツールでは、処理スピードを出すためには事前に仕様を固めて専用のデータマートを作っておく必要があった。このため、後から寄せられる「別の角度で分析したい」という要望への対応が困難になった。また、データマート作成だけでなく、分析ごとの画面開発などで予想以上の開発工数と作業負荷が増えることとなった。
そこで、同社では(目的別の専用データマートを構築する必要のない)新たなBIツールを検討、既に導入していたBIツールと比較した結果、それまでの開発資産をリセットしてでも導入すべきと判断し、新たなBIツールの採用を決定した。
新たなBIツールの採用に当たっては、「専用データマート不要で高速集計が可能」「ユーザー側で切り口を変えて自由にドリルダウンできる」「ノンプログラミングでグラフを使ったWebインタフェースの開発が可能」といった機能を重視している。
データマート不要、生産性は従来の10倍に
新しいツールでは集計したい情報やグラフを自由に設定できるので、以前の分析ツールでは10画面必要だったものを1画面で対応することができ、開発工数は飛躍的に向上した。
また、新システムには月100万件に上る在庫データが蓄積される。対象となる部品の在庫データや受注データには、部品コード、取引先コード、地域コードなど約10種類の分析軸が付与され、通貨などの為替データに関しては、シンプルに通貨(ドル、円、ユーロ)ごとのテーブルを追加することで対処している。
時差を考慮した更新ルール
同社が新システム開発に際して留意したのは、グローバル対応だ。データの更新中は保全のためにロックが掛かるので、時差がある利用環境でデータ更新を行うには、タイミングを見極める必要がある。そのため、全ての現地法人が勤務時間外もしくは休み時間に更新できるように、それぞれの地域ごとに更新時間を決め、グローバル対応を可能にしている。
販売管理分析システムは2010年5月にサービスインし、ユーザーからのリクエストによる画面の手直しなどを経て、2010年10月に本格的に運用を開始している。今後は他の海外現地法人のデータ追加や、データの持たせ方、ビューの組み方の工夫を図っていくという。
グローバル対応と運用負荷削減を両立するBI活用のアイデア
この事例で重要なポイントは2つある。
1つはグローバル対応のための工夫だ。基幹系システムと比較して、情報系システムは利用時間帯が広く、しかも時差があるため日々の運用管理が難しい。これをうまく運用で回避している。
2つ目は、全社展開、あるいは企業グループ展開を前提とした場合の分析システムの構築方法だ。一般的な目的別のデータマートによる構築では、データマートの乱立と開発工数、運用工数が膨大になってしまう可能性がある。
BIツールの適用範囲が比較的小規模な場合には、そのデータマートの数も大したことはない。しかし、部門から全社、あるいは企業グループで広範囲にデータ活用を行うことが前提となると、それぞれ利用する人の役割も異なるため、分析対象となるデータの範囲や粒度、分析軸など、非常に細分化されたデータマートが数多く必要となる。
しかも、これは構築時に限ったことではない。日々の業務システムのデータ更新のデータマートへの反映、組織や製品体系の変更に伴うデータの洗い替え、業務システムの再構築時の対応など、運用工数が膨大になってしまう可能性を秘めている。
また、さらに重要なことは、現場での分析要件がどんどん変わっていくということだ。データ分析システム構築の方法論はさまざまあるが、今回のような多次元設計やキューブ構築が不要で汎用的なデータマート構築が可能なツールや、最近では豊富なシステムリソースを利用した新しいソリューションも登場している。導入前に事例検証やユーザー訪問などにより、構築の裏側についても十分に検討してほしい。
小島 薫
ウイングアーク テクノロジーズ株式会社 営業本部 製品戦略部 部長
1stホールディングス株式会社 代表取締役社長付
石川県出身 1959年生まれ。製造業でのシステム構築、経営企画などに従事した後に、独立系パッケージベンダーに入社。汎用機からオープンシステムまでの基幹系データベースを中心に、データウェアハウス(DWH)、XML関連のサポート、プリセールス、コンサルティング、マーケティングを経験。2005年にウイングアーク テクノロジーズに入社し、技術部門、マーケティング部門、製品戦略部門の部門長を経て、現在は国内外を含め製品戦略に携わる。
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