「モバイルファースト」時代に覚悟すべき4つのことアプリ開発にもたらす変化

モバイル向けアプリケーションを先に開発し、その後にPC向けのアプリケーションを開発する企業が増えている。モバイルファースト時代の新常識とは?

2013年05月17日 08時00分 公開
[Jennifer Lent,TechTarget]

 「モバイルアプリケーションの開発は、従来のアプリケーション開発とは全く勝手が異なる。ソフトウェアのアップデートのペースが速くなり、開発者とテスターの人員比率が同じになる。アプリケーションのセキュリティにも真剣に取り組む必要がある」

 優先度の高いモバイル開発プロジェクトと、従来のWebアプリケーションやデスクトップアプリケーションの開発プロジェクトとの違いについて、モバイル分野の専門家に質問したところ、このような見解が示された。

 米モバイルソフトウェアメーカーのiFactrでCTO(最高技術責任者)を務めるネイサン・クレベンジャー氏は「優れたITマネジャーは、モバイル開発がWeb開発やデスクトップ開発と全く異なることを認識している」と話す。

 クレベンジャー氏は、モバイルアプリがエンタープライズアプリケーションの基盤になっている(その逆ではない)企業と共同で仕事をしているという。「彼らはモバイルアプリを先に開発し、それからデスクトップ上でも動作するようアプリケーションを拡張している」と同氏は語る。

 米調査会社Vokeのアナリスト、テレサ・ラノウイッツ氏によると、モバイルアプリはぜいたく品ではなく必需品だという。「企業は最初にモバイルプロジェクトに取り組んでいる。それ以外のことはその次に考えるのだ」と同氏は話す。ビジネスに対する重要性という点で、モバイルプロジェクトが他の開発プロジェクトよりも優先されるというのは、アプリケーションのライフサイクルが大きく変化することを意味する。本稿では、企業の開発チームがモバイル開発に取り組む際に生じる以下の4つの大きな変化について専門家が解説する。

  • 開発ライフサイクルの短縮
  • ソフトウェアアップデートのペースが加速
  • 開発者とテスターの比率が同じになる
  • アプリケーションセキュリティを懸念増大

短いリリースサイクルが求められるモバイル分野

 米IBMでエンタープライズモバイル部門のディレクターを務めるマイケル・ギルフィックス氏によると、Webプロジェクトのリリースサイクルは9〜12カ月だという。「これに対し、モバイルプロジェクトは3〜6カ月で完了する」と同氏は話す。

 独立ソフトウェアコンサルタントのハワード・ダイナー氏によると、2カ月くらいが普通だという。「コンセプトから現金化まで60日しかないという場合もある」とダイナー氏は話す。同氏によると、モバイルプロジェクトではアジャイル開発方式が不可欠だという。開発期間が短く、従来のように開発とテスト作業の間を行ったり来たりする余裕がないからだ。

モバイルプロジェクトのソフトウェアアップデートは頻繁

 IBMのギルフィックス氏によると、エンタープライズモバイルアプリケーションではソフトウェアアップデートのペースも速くなるという。「モバイルの場合、頻繁にリリースするようになる」と同氏は話す。リリースが頻繁になる最大の理由は、モバイル端末が絶えず変化することにある。新しい端末だけではなく、iOSやAndroidなどのモバイルOSの新バージョンが次々と登場するからだ。

 頻繁なアップデートが必要になる理由はそれだけではない。米AppGluの創業者であるアダム・フィンガーマンCEOによると、モバイル端末上で動作する製品カタログの内容を新鮮なものにしておく必要があるからだという。「外回りの販売スタッフは、古い情報が入ったバインダーを持ち運びするのをやめ、iPadを使って製品や価格に関する最新の情報を得るようになった。こういったデータの最新版を販売スタッフに提供するためには、モバイルアプリも頻繁にアップデートする必要がある」と同氏は話す。

開発者とテスターの比率が1:1に

 モバイルアプリ管理ソフトウェアを販売している米MobileIronの戦略担当副社長オージャス・リージ氏によると、従来の開発プロジェクト、例えばWindowsアプリケーションを開発する場合などでは、3人の開発者に対して1人のテスターというのが一般的な比率だという。モバイルアプリのライフサイクル管理では、この比率が大幅に変化する。「モバイルでは1:1になる」と同氏は話す。

 プロジェクトで開発者1人に対して1人のテスターが必要になるのは、モバイルアプリのテストが複雑だというのが主な理由だ。「品質保証担当者は、各種の端末とモバイルOSおよび各OSの各バージョンに加え、モバイルユーザーの場所によって大きく異なる接続条件を考慮に入れなければならない」とリージ氏は指摘する。

 iFactrのクレベンジャー氏も、開発者とテスターの比率が1:1になるという見方をしている。「経営陣がこの変化を認めなければ、テストサイクルが長くなる。品質保証部門がすごく忙しくなる一方で、開発者が暇をもてあそぶという状況になるからだ」と同氏は説明する。

ソフトウェアチームはセキュリティに真剣になる

 Vokeのラノウイッツ氏によると、エンタープライズモバイルアプリケーションでは、セキュリティに関する新たな懸念が生じるという。例えば、盗難や紛失の可能性が高い端末上で機密性の高い企業データを保護する必要がある。このため、アプリケーションのセキュリティが緊急を要する課題となってきた。ラノウイッツ氏自身は、この変化を歓迎している。「Webアプリケーションを開発するソフトウェアチームは、セキュリティを本気で考えたことがない」と同氏は話す。

 「10年前から、誰がアプリケーションセキュリティに責任を持つのかについて議論されており、この問題は大きく前進した。ここにきて、モバイルアプリがセキュリティテストの必要性を喚起している。モバイルアプリでも、ようやく企業と同等のセキュリティが導入されることになりそうだ。これは歓迎すべきことだ」(同氏)

ITmedia マーケティング新着記事

news112.jpg

「インクルーシブマーケティング」実践のポイントは? ネオマーケティングが支援サービスを提供
ネオマーケティングは、インクルーシブマーケティングの実践に向けたサービスを開始した...

news135.jpg

Xが新規アカウントに課金するとユーザーはどれほど影響を受ける? そしてそれは本当にbot対策になるのか?
Xが新規利用者を対象に、課金制を導入する方針を表明した。botの排除が目的だというが、...

news095.jpg

Googleの次世代AIモデル「Gemini 1.5」を統合 コカ・コーラやロレアルにも信頼される「WPP Open」とは?
世界最大級の広告会社であるWPPはGoogle Cloudと協業を開始した。キャンペーンの最適化、...