急成長を見せ、競争が激化するモバイルアプリ開発市場。従来言われていた“開発スピード”と“品質”とのトレードオフだけに注力すると、危険なワナにはまることになる。
モバイルアプリケーション開発の需要がかつてなく高まっている。
2012年には全世界のスマートフォンの出荷台数が18億台を超え、米調査会社Gartnerによると、Webアクセスで最もよく使われるデバイスとしてPCを追い抜く見込みだという。モバイルアプリケーションは登場して間もない技術であるが、コンシューマーの期待レベルは高い。人々は優れたユーザーエクスペリエンスを漠然と望んでいるのではない。今すぐそれを必要としているのだ。優れたエクスペリエンスを提供できない製品はすぐにユーザーから見放されるという調査もある。こういった「ITのコンシューマー化」現象は、従業員と幹部がこういった高い期待を職場に持ち込んだことを意味する。
モバイル戦略とアプリケーション開発を手掛ける米Solstice Mobileの創業者であるJ・シュワン社長は、最近のインタビューで「業務効率と社内の流動性を改善するには、モバイルチャネルにまつわるビジネス問題をどう解決するかを最初に考える必要がある」と語った。
われわれは、携帯端末およびモバイルアプリケーション開発に詳しい3人の専門家に、「競争の激しいモバイル分野では、欠陥のない製品を開発するよりも、市場に製品を素早く投入する方が重要なのか」という難問を投げ掛けた。彼らの回答を通じて分かったのは、「開発文化を変えることが重要である」「HTLM5が状況を一変させる可能性を秘めている」「テストをおろそかにしてはならない」ということだ。3人の意見が一致したことが1つある。「簡単な答えはない」ということだ(関連記事:HTML5はスマートデバイス用アプリ開発に使えるか?)。
「開発者の多くは、技術だけに目を向け、開発文化を変革する必要性を見過ごしている。このため、優れた技術を開発しても、ユーザーが使いたいと思うような高品質のアプリケーションを作れないのだ。その結果、星印が3つしかないために誰もダウンロードしないようなアプリケーションに時間と金を注ぎ込むのがばからしくなってしまうのだ」と話すのは、米調査会社Forrester Researchのアナリスト、ジェフリー・ハモンド氏だ。
冒頭の質問に対する同氏の短い答えは「ノー」だ。「特にモバイル開発分野では、開発スピードのために品質を犠牲にしてはならない」と同氏は語る。
その理由は、コンシューマー向けのアプリケーションの場合、3つ以下の星印しか評価をもらえないようなものを開発すれば、その製品はすぐに忘れ去られてしまうからだ。アプリストアに70万本ものアプリケーションが並んでいるという状況が意味することを考えてみよう。人々に認知され、そして実際にエンドコンシューマーの端末にインストールされる50本ないし60本のアプリケーションの1つになるまでには猛烈な競争をくぐり抜けなければならないということだ。月並みのユーザーエクスペリエンスであれば、すぐにそのリストから引きずり降ろされ、品質に問題があれば、あっという間に星印3つ以下の評価に陥落してしまうのだ。
このため、アプリケーションをリリースする際には、きちんと動作することを可能な限り確認する必要がある。米Appleのアプリストアや米Microsoftのアプリケーションストアでは、アプリケーションが承認されるまでの間、しばらく待ち時間がある。その時間も利用すべきだ。もし欠陥のあるアプリケーションをリリースした場合、それで問題が起きるのが20人のユーザーのうち1人であったとしても、欠陥を修正するのに数日から1週間ほどかかるだろう。その間、不満を抱くユーザーが低い評価を付けるために、アプリケーションの評価はどんどん下がってしまう。
だからといって、迅速に開発してはいけないということではない。開発スピードも重要だ。この問題を説明するとき、私がいつも引き合いに出すのがソフトウェアの「鉄のトライアングル」だ。
鉄のトライアングルとは、以下の項目を頂点とする三角形を指す。
短期のスケジュールで開発しなければならず、資金に制約があり、品質も必要とされるのであれば、機能面でトレードオフを迫られる。多くの開発企業は高品質のソリューションを短期間で市場に投入するために、最小限の機能で妥協せざるを得なくなるのだ。そこで私のアドバイスは「品質面で手抜きをせずに、顧客と何らかのつながりを作り出すのに最も必要な機能だけにフォーカスする」ということだ。いったん顧客を捕まえれば、準備が整った段階でいつでも新機能を追加したり、アプリケーションをアップデートしたりできるのだ。
もう1つ付け加えたいのは、Webの世界とITの世界のどちらにいるかによって「スピードのわな」か「品質のわな」のいずれかに陥る危険性があるということだ。
スピードと品質のどちらを重視するかという判断は、開発者のバックグラウンドによっても異なる。Web分野出身の開発者の場合は、スピードを重視し、品質をそれほど考慮しない傾向がある。開発者とユーザーが直接つながっているため、Webサイトを素早くアップデートできるからだ。Webサイトで新リリースを公開するだけでいいのだ。このため、このグループはスピードに目を奪われ、「品質のわな」を見逃す恐れがあるのだ。
一方、従来のIT分野出身の開発者の場合は、状況がほぼ逆になる。彼らは長い時間をかけてアプリケーションをテストした上でリリースするというパターンに慣れている。リリースが1年に2回だけというのも珍しくない。iOSのアップデートやAndroidの新バージョンが出るたびに新リリースを提供する必要性を感じていないのである。だから彼らは「スピードのわな」に陥るのだ。後編では、開発スピードと品質の両方の要求に応える最新技術を紹介しよう。
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