ハイブリッドクラウドの運用で欠かせない製品、それはオンプレミスや他クラウドとの統合管理ツールだ。マルチクラウドに対応した管理ツールの中から、主要な製品を一覧表にまとめた。
クラウド利用が普及するにつれ、複数のクラウドベンダーを並行して利用するケースも増えてきた。今回はIaaS(Infrastructure as a Service)を含めた複数のITインフラを同時に利用する場合に必要となる管理ツール、マルチクラウド管理ツールに焦点を当てて紹介する。
主要マルチクラウド管理ツールと、サポートしているクラウドサービスの対応表をPDFで提供しています。「ハイブリッドクラウド管理ツール主要12製品の対応クラウド 一覧表」からダウンロードしていただけます。
クラウド以前のシステムでは、「サーバをいかに落とさないか」が運用の重要な鍵となっていた。そのために、FT(フォールトトレラント)サーバを利用したり、HA(高可用性)構成を組んだりと個々のサーバで可用性を高めようとしていた。
しかし、クラウドの登場によって、安価なリソースを必要なときに必要な分、利用するポリシーに沿って運用するようになり、個々のインスタンス(仮想サーバ)単位での可用性は期待できず、役割を提供するインスタンス群で管理するように変わった。クラウドでは、「サーバがどの単位なら落ちても大丈夫か」が可用性を高める鍵となる。
また、性能に関しても個々のサーバをピーク時のリソースで設計する「スケールアップ型」ではなく、性能が必要なときは、全体のスループットなどを評価して群の中のインスタンスを増やす「スケールアウト型」が効率的である。
以上から、性能や障害の監視も動的に監視点を増やしたり減らしたりすることや、システム全体を俯瞰して判断するルール決めがクラウドの運用では肝要となる。
とはいえ、全てのシステムが群単位での管理に適しているわけではない。また、システムの特性以外にもマルチクラウド管理ツールが求められる背景にはさまざまな点がある。今回は以下4つのポイントで、クラウド管理ツールに求められる背景を説明する。
システムには、群管理が向いているものと個々のサーバ単位で最適化した方がよいものがある。
例えば、WebサービスのフロントエンドやHadoopなど分散型で動くものは群管理が向いているが、RDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)のように整合性や即時性を重視する場合、分散するよりも高機能なサーバや特殊なハードウェアに集約する方が費用対効果が高い場合もある。このように、異なる特性のワークロードを一括して管理したいケースではマルチクラウド管理ツールが有効だ。
クラウドの利用は日に日に進んで行き、巨大なクラウド事業者(プロバイダー)も多数存在している。そのような中、システムが特定のクラウド事業者に依存してしまうとどうか。そのクラウド事業者の価格や約款、機能の開発方針などにシステムの永続性が脅かされる恐れがある。
また、特定のクラウド事業者から提供される新しい機能は便利かもしれないが、刷新または移行するたびに自社のサービス運用へ取り込んでいくのも、コストとしてはばかにならない。
特定のクラウド事業者に縛られず、そのギャップを埋め、クラウドサービスを抽象化して使いたいケースにもマルチクラウド管理ツールが求められる。
群管理を目指す場合、スケールアウトやスケールイン、クラウド基盤の障害によってリソースを縮退したり、代替運転に切り替えたりするたびに人手を介していては、クラウドのメリットを享受できない。インスタンスの設定情報や構築作業をプログラムであらかじめ定義し、状態に応じて適用する必要がある。つまり、運用の自動化だ。このような自動化とインフラ環境の管理を一括で行うケースにもマルチクラウド管理ツールは用いられる。
クラウドの良いところは、WebやAPIを通じて気軽に環境を管理できることだ。しかし、システムの中には、個人情報などデータの性質により共有領域に置くことが難しいケースもある。
また、暗号化して格納したとしても、極力そのような環境を管理できる人を減らしたい。複数のクラウド環境を使っていればなおさらで、横断的にクラウドへの管理権限を役割やプロジェクトに応じて施す必要がある。このように、クラウド横断でガバナンスやセキュリティを高めたいケースでも有用だ。
上記のようなマルチクラウド環境を効率的に管理するためにはどうすべきか。その方法を探りながら管理ツールの利用イメージを説明する。
例えば、アプリケーションをアップデートする場合や物理環境を移動する場合の運用はどうしているか。仮想化の世界であれば、マシンイメージのスナップショットを取ってアップデートやマシンイメージを移動(マイグレーション)して対応していた。
では、ハイブリッドクラウドの世界ではどうか。上述の通り、クラウドの肝は群管理だ。スナップショットを取れるとしても、事業者をまたいで作業するのは煩雑である上、数あるインスタンスを1つひとつ行うのは現実的ではない。また、インスタンスを事業者間で移行するとなるとイメージのダウンロード、イメージの変換、アップロード、設定情報の変更と非常に非効率である。
では、大量のインスタンスを複数の事業者にまたがって管理していくにはどうしたらよいか。答えは、いつでも、どこでも、何度でも、自身が動かしたいアプリケーションが動作できる環境を作れるようにしておくことだ。そのために必要なのが構成管理ツールだ。
構成管理ツールを使えば、インストールの手順や設定情報などを一括管理し、インスタンスの追加や変更に応じて適切な設定を自動で適用することが可能となる。大量のインスタンスを同時にアップデートすることもできる。また、移行する場合も削除したり、新規で移行先に最適な環境を瞬時に構築することができる。
構成管理ツールは、オープンソースの「Chef」や「Puppet」「Ansible」など多く存在する。こういったツールとマルチクラウド管理ツールを組み合わせて使うのが一般的だ。マルチクラウド管理ツールには、このような構成管理ツールが含まれている場合も多くある。
現在、マルチクラウドに対応した管理ツールは数多く存在している。主だったものを一覧にまとめた。画面の都合により、拡大版は以下からダウンロードしていただきたい(会員限定/無料)。
主要マルチクラウド管理ツールと、サポートしているクラウドサービスの対応表をPDFで提供しています。「ハイブリッドクラウド管理ツール主要12製品の対応クラウド 一覧表」からダウンロードしていただけます。
日立製作所の「JP1」など古くから運用の現場で使われているおなじみのツールから米Microsoft「System Center 2012 R2」、米VMware「VMware vRealize Suite」、米Red Hat「Red Hat CloudForms」などの仮想化に強いメーカー、米Scalr「Scalr」、NTTデータ「Hinemos」のようなオープンソースで提供されているものなどさまざまだ。米RightScaleの「RightScale」のようにSaaSで提供されるものもあり、利用方法でも違いが出てくる。
多種多様なツールの中からどれを選択すべきか。選定する基準はいろいろあるが、今回は以下3つの分類に絞って説明する。
当然のことだが、自身が組み合わせたい、または現在利用中のクラウドが対応していることが大前提だ。老舗のRightScaleや新興勢力の米CLIQR TECHNOLOGIES「CliQr」などは、対応しているクラウド多い。
その逆の発想として、ツールを基準にクラウドを選択することも1つの手だ。多くのツールがサポートしているクラウド環境を自社のポートフォリオに加えることは、システムの継続性につながる。例えば、「OpenStack」や「Amazon Web Services」(AWS)、「Microsoft Azure」(Azure)のようなクラウドは対応しているツールも多い。
ここまで書いてきた通り、クラウドネイティブなシステムは従来のシステムとは運用が少し異なる。クラウドのメリットを最大限に享受したい場合、構成管理ツールを使って極力自動化していくことが重要だ。
その場合、自身が今後使っていく構成管理ツールと相性が良いマルチクラウド管理ツールを選択すべきである。例えば、オープンソースのScalrは、Chefと統合しやすい。
一方、クラウド利用は限定的で、当面は大量のインスタンス利用は予定していない、または、既になじみのある運用管理ツールを中心に考えたい場合は、JP1やSystem Centerなど、ハードウェアメーカーや仮想化に強い企業のツールが有力な選択肢となる。
個々のシステムの特性や将来のクラウド活用方法を検討し、自社に最適なクラウド環境とそのツールの組み合わせを決めることが重要だ。
特に気を付けたいのは、仮想化とクラウドは必ずしも同じ運用になるとは限らないことだ。クラウドの最大のメリットはスピードである。クラウドでは、自動化を極力進めて運用効率を上げていくこと、変化するシステムに素早く追随することに重点を置くべきである。このことからも、マルチクラウド管理ツールを構成管理ツールとともに活用していくことは、クラウドとの付き合い方で大切なことである。
外資系ソフトメーカーでコンサルタントを経て、2008年、仮想化プラットフォームの開発、販売を行うAXLBIT(アクセルビット)株式会社を創業。2011年にデータセンター・クラウドを中心としたITインフラの研究開発を専門に行う組織「ビットアイル総合研究所」の立ち上げに参画。現在は、同研究所の所長として技術調査、研究、開発に携わる。
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