成功事例に学ぶ「タブレット」「電子黒板」予算取りのコツ【第1回】
福生市教育委員会は1人1台の「iPad」導入をどのように実現したのか(1/2 ページ)
「1人1台タブレット」と口で言うのは簡単だが、実現には相応の財源が必要になる。2017年9月に「iPad」の貸与による1人1台環境を始める福生市教育委員会の川越孝洋教育長に、実現までの取り組みを聞いた。
授業のIT化の主役ともいえるタブレットや電子黒板。その導入には当然ながら相応のコストがかかる。タブレットや電子黒板の導入予算を確保するには、どのような工夫が必要になるのか。実際に導入までこぎ着けた教育機関の成功例を基に、予算確保のこつを伝授する。
今回取り上げるのは、東京都の福生市教育委員会だ。福生市は2017年9月に、市内の小学校全7校の3年生と教員向けに1人1台のタブレットを貸与する。貸与機器はAppleの「iPad」450台。無線LANに加えて3G/LTE回線での通信が可能な「Wi-Fi + Cellular」(以下、セルラーモデル)だ。これに凸版印刷が開発したデジタル教材を搭載することを検討している。タブレット導入により、学習意欲の向上や個人の実態に応じた個別学習の実現、家庭学習状況の見える化による指導の充実を目指す。
福生市教育委員会は、どのような工夫でタブレットの導入予算獲得につなげたのか。タブレット導入施策を進めている、福生市教育委員会の川越孝洋教育長に話を聞いた。
「家庭学習の強化」がタブレット導入のきっかけに
なぜ福生市教育委員会はタブレット導入を決断したのか。川越氏が最大の理由として挙げるのが、学習者の学力向上だ。特に課題として注目していたのは、学習内容の定着だった。授業で学習者に学習内容の理解度を聞くと「分かった」と答えるものの、次の日にその単元の問題に取り組んでもらうと、解答できないことが少なくなかったという。授業で学習内容を理解できても、定着しなければ学力向上にはつながらない。
学力向上というと「教員の授業力」「教員の資質・能力」が焦点となりがちだ。とはいえ教員は普段から自負心を持って、学習者にとっての分かりやすさに配慮し、工夫しながら教育活動を進めている。「勉強しなければいけない」と謙虚な姿勢で授業の改善に取り組む若手の教員もいる。授業で「学習内容を理解している」と答える学習者が少なくないことは、こうした教員の努力の結果だといってよい。
学習内容の定着が進まないのは、教員の授業力だけの問題ではなく、家庭学習が不足しているのではないか――川越氏はこうした仮説を立てた。実際、教員にヒアリングすると「家庭学習が問題だ」という声が少なくなかったという。学習者にアンケートを取ってみても、他市と比べて家庭学習が少ない傾向にあることを把握できた。
家庭学習の改善に学校が取り組むのは簡単なことではない。「保護者にどう働きかけるのか」「宿題を点検するのにどの程度の労力をかけるか」「そもそも、どのようにして家庭で学習ができるようにするのか」。こうした課題に1つ1つ対処していかなければ、家庭学習を促進できないからだ。そこで状況を打破する手段として福生市教育委員会が目を付けたのが、タブレットだった。
タブレットを先駆的に導入している自治体では、決まった答えがない問題に対して自ら考え解決していく「Project Based Learning(PBL、問題解決型学習)」や、学習者同士が教え合い学び合う「協働学習」に活用する事例が目立つ。同氏はそのことを把握していたが、こうした使い方ではなく「家庭学習の見えないところの見える化をするのに、タブレットが活用できる可能性がある」と考えた。
福生市のタブレット導入は「他市がやっているから」という安易な理由からではなく、問題をしっかり認識するところに基礎があることがよく分かる。
実証研究がもたらしたもの
タブレットの本格導入に先立って福生市教育委員会が取り組んだのは、産官学共同での実証研究だ。同委員会は2015年度からの2年間、凸版印刷や慶應義塾大学総合政策学部の中室牧子准教授と共同で、タブレット活用の効果を検証する実証実験を進めた。タブレットを学校の授業内だけでなく、家庭学習にも活用するのが肝だ。学習者に1人1台のタブレットを貸与。学習者は学校で活用しているタブレットを家庭に持ち帰り、学習支援システムを使って家庭学習に取り組んでもらった。
実証研究を通して、意思決定者や関係者に目に見える形でメリットを示すことができたことが、本格的なタブレット導入につなげる上で重要な要素となった。特に川越氏が「意味があった」と振り返るのは、実証研究の期間中、タブレットを使った授業を福生市の議員に見てもらったことだ。議員が自らの目で学校の取り組みを見て、学校からの報告も受けた結果、「試行的な期間が生きた」と評価をしてくれたという。
保護者には「先進的な教育を市がやってくれている」という期待感が芽生え、学習者もタブレットを家庭に持ち帰ることができることを喜んだ。実証研究を通じて「教員が育ったことも大きい」と川越氏は言う。タブレット活用のノウハウ蓄積もさることながら、教員からベンダー側へ「こういう使い方がありますよ」といったアドバイスをすることもあった。
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