2015年に京都大学合格者81人を輩出するなど、関西トップクラスの進学校として知られる西大和学園。同校は2014年度から高校1年生全員に「iPad」を導入した。その理由とは。
関西のトップ進学校といえば、灘(神戸市東灘区)や洛南(京都市南区)、東大寺学園(奈良県奈良市)などを挙げる人が多いだろう。だが関西圏では名実ともに、これらのトップ進学校と同クラスに入る学校がある。それが私立中高一貫校の西大和学園(奈良県河合町)だ。
西大和学園は1986年の創立以来、わずか30年で進学実績中堅校からトップクラスの進学校へと躍進。最難関進学校の一角として、国内および海外から生徒を集めている。2015年には、京都大学の合格者数81人、東京大学は28人と、最難関とされる両大学の合格者を計109人輩出。特に京都大学の合格者数に関しては、週刊誌が企画する高校別合格者ランキングで単独ナンバーワンの座を獲得するなど躍進を続けている。
そんな西大和学園では2014年9月より、高等学校1年生330人全員を対象に「iPad Retinaディスプレイモデル Wi-Fi 16GB」を導入した。ITを学力向上に生かすとともに、学校生活における学習外の活動時間の創出などに活用している。
この10年、西大和学園は最難関進学校としての実力を確固たるものへ築き上げるとともに、生徒のキャリア教育にも重点を置いた教育カリキュラムの見直しに挑んできた。大学合格だけを目的にせず、将来のキャリアビジョンを描ける生徒の育成がその骨子だ。
西大和学園がiPadを導入した目的や理由とは何か。学習面でどのように活用しているのか。現場で陣頭指揮を執る同校中等部高2学年部長の宮北純宏教諭に話を聞いた。
西大和学園のiPad導入の経緯を紹介する前に、まずは同校の背景について少し触れておこう。
1986年に男女共学の私立高校として創立した西大和学園は、その2年後の1988年に中学校も開校し中高一貫校になった。創立当時は偏差値50前後と中堅校のレベルだった同校はその後、進学指導に力を入れ、創立12年目の1998年には、東大・京大の高校別合格者数ランキング(『サンデー毎日』調べ)でベスト20にランクインするようになった。その後も着実に順位を上げ、2005年度以降は開成(東京都荒川区)、灘、筑波大駒場(東京都世田谷区)などと並び、同ランキングでおおむね5位以内をキープするなど、全国でも有数の難関進学校として知られる。
西大和学園が短期間でトップ進学校へと様変わりした背景には、大学入学を目標とした徹底的な受験教育があった。だが、ゆとり教育が開始された2000年あたりから入学する生徒のタイプも変わるようになり、「受験勉強だけでなく、他のことも学びたい」と考える生徒が増え始めたという。同校はこのころから、受験勉強に重点を置くと同時に、多様な学びや生徒の興味・関心に沿った体験ができるプログラムを取り入れるようになった。
2002年には文部科学省から、先進的な理数系教育に取り組む「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の指定校に選出された。その後、生きる力を育むキャリア教育プログラムの導入や課題解決学習型の卒業研究などを相次ぎ実施。2014年には同じく文科省から、国際的に活躍できる人材育成を図る「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」に指定されるなど、さまざまな教育プログラムを進めてきた。
「生徒はもともと教員の言うことを吸収する力は持っていたが、生徒たち同士で学び合うスタイルが育っていなかった。生徒の自主的な行動を促すには、教員による教え込みだけでは限界があると感じており、何かを変えないといけないという危機感があった」。宮北教諭はこう話し、教育プログラムに取り組む意義を強調する。
大学合格実績に重きを置くだけでなく、生徒のキャリアビジョンを育むプログラムを導入する。それにより、大学入学をゴールではなく通過点として捉え、自分たちが将来何をしたいのかを考え、自分で夢をつかみに行こうとする生徒が増えたという。
そんな校風が育ってきた2014年、西大和学園はiPad導入に踏み切った。
iPad導入の直接的なきっかけになったのは、現高校2年生が中学3年のときに開いた話し合いだったと宮北教諭は説明する(写真2)。その話し合いの席で教員は、「学校がより良くなるためにはどうすればいいか。生徒からも提案してほしい」と生徒に投げかけた。生徒からの提案は大まかに分けて7テーマあり、その中の1つが「SNSを活用した学習効率向上のシステム導入」だったという。宮北教諭はこの要望を実現する第一歩として、タブレット導入の具体化へと動き始めた。
実のところ、宮北教諭自身はその前からタブレット導入を模索していた。同教諭は、西大和学園が米国に設置する日本人学校であり、先行してITを活用していたNishiyamato Academy of California(西大和学園ロサンゼルス校)への赴任経験を持つ。その中で同教諭は、学習習熟度や育った環境も異なる在米日本人の生徒が、ITを活用して個人に応じた学習をする様子を見てきた。以来、タブレットなどのITを活用した学習を、日本の西大和学園にも導入できないかどうか考えるようになったという。
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