2015年06月24日 12時00分 公開
特集/連載

東大・京大合格者100人以上、西大和学園はなぜ「iPad」を選んだのか生徒と進める西大和学園のIT活用【前編】(2/2 ページ)

[神谷加代]
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わずか5カ月でiPad導入、選定の決め手は「使い勝手」

 「SNSを活用した学習効率向上のシステム導入」という生徒からの提案をきっかけに実現へと走りだした、西大和学園のiPad導入。2014年3月末の生徒提案から2014年8月末のiPad配布まで、わずか5カ月。実に短期間の“スピード導入”だったことが分かる(表)。

表 iPadが生徒に手渡されるまでのスケジュール
時期 実施内容
2014年3月末 ・学年部長会議で宮北教諭がiPad導入を提案
2014年5月末 ・学年内の意見がまとまる
2014年6月 ・管理職からiPad導入の許可、ガイドライン完成
2014年7月 ・生徒説明会、保護者会説明
・業者に発注
・無線LAN工事(写真3)
・「iCT運用委員会」設立
2014年8月末 新学期スタート直前に生徒へiPad配布
写真 写真3 校内には無線LANアクセスポイントを51台設置《クリックで拡大》

 学校のタブレット導入では一般的に、1クラス分に約40台を試験導入したり、生徒よりも先に教員へ端末を配布したりと準備期間を長めに設けることが多い。一方、西大和学園は準備期間を設けず、提案から導入まで一気に進めた。その理由について宮北教諭は、「教員に先回りして渡すことよりも、自主的な生徒の活動を早期に実現させるために、教員と生徒の『共創』を促していきたいと考えた」と語る。

 iPadを選択した理由について宮北教諭は「使いやすく、動きがスムーズであったこと」を挙げる。当初はコスト安を重視してAndroidタブレットも考慮していたが、直感的な操作性はiPadが優れていると判断して、最終的にiPad Retinaディスプレイモデル Wi-Fi 16GBを採用した。

iPadで学びの幅を拡大、反転授業にも活用

 2014年9月のiPad導入から1年もたたないこともあり、西大和学園の現場は試行錯誤の連続であるのは言うまでもない。現時点では、iPad導入のきっかけとなった生徒からの提案の“本丸”である、SNS活用も実現できていない。

 宮北教諭は、SNS活用を当面のゴールに置きつつも、まずはiPadが学習用途のツールであることを校内に幅広く浸透させることが大切だと判断。授業の進度よりも進んだ内容を学習する「先取り学習」の環境を整えるなど、iPadを活用して学びの幅を拡大することに注力している。

 受験勉強だけでなく多様な学びを求める生徒のニーズにも応えるべく、生徒同士の学び合いにiPadを利用している。「協働学習」(生徒同士が教え合い、学び合う学習方法)や「反転授業」(授業と家庭学習の役割を一部逆転させる授業方法)を取り入れたり、プレゼンテーションや議論の機会を増やしたり、授業中に十分な思考時間を確保したりするのにiPadを生かしているという。

シンプルな活用でも効率化には効果

 さらに、iPadなどのITを使った効率化により、学校生活における新たな時間の創出にも取り組む。生徒への連絡に使うプリントを電子化するなどで、印刷や配布といった作業を無くし、作業時間の短縮や効率向上を実現。捻出した時間を新たな教育活動に生かそうと模索しているという。ここでいう「教育活動」は一般的な学習に限らない。教員や生徒が自主的な活動に取り組める時間を増やしていきたいというのが、宮北教諭の考えだ。

 西大和学園のIT活用で、iPadと並んで中心的な要素になっているのは、教育機関向けオンラインサービス群「Google Apps for Education」である(写真4)。同サービス群にあるクラス向けコミュニケーションサービス「Classroom」を主に活用。必要な情報に関するWebサイトのURL共有やセミナー案内など毎日の連絡事項から、教員によっては授業の内容を配信したり、生徒からの質問をClassroomの専用ページで受け付ける。

写真 写真4 現代文の授業の様子。Google Apps for Educationに含まれるアンケート作成ツール「Google フォーム」を使い、教員が出す問題にグループで取り組む。西大和学園は全教室に電子黒板を完備済みだ《クリックで拡大》

 「これぐらいの活用でも、かなりの効率化につながっている」と宮北教諭は話す。iPadなどのタブレット活用授業といえば、たくさんのアプリケーションを活用したり、使うアプリの種類に焦点が当てられてしまいがちだ。西大和学園の事例からは、効率化という点に焦点を当てれば、利用するアプリを絞り込んだシンプルなIT活用も効果的であることが分かる。

生徒が先生にiPad研修? 生徒主導の「iCT運用委員会」

 西大和学園のiPad活用で最も特徴的なことは、生徒によるIT活用推進グループの「iCT運用委員会」を導入初年度から組織していることだ。正式な委員会として認められているわけではないものの、iCT運用委員会のメンバーが中心となり、使用規定の策定や啓発活動を通してiPadの活用を広げている。

 iCT運用委員会では、「生徒はiPadのアプリを自由にダウンロードすることはできない」「ただし、iCT運用委員会が学習目的で活用できるアプリと許可をすればダウンロードが認められる」といった使用規定を定めた。宮北教諭は「教員がテクノロジーで生徒を管理するのでなく、一人一人の規範意識を高めてより自由な運用を目指したい」と話し、生徒の自主性を見守りながら活用を広げていく考えだ。

 興味深いのは、教員向けのiPad研修会をiCT運用委員会が企画、運営していることである。ITの得意な教員が他の教員に教えるだけでなく、生徒を巻き込んだ方が上手くいくと考えてのことだ。宮北教諭は「良い授業とは何か、生徒たちが受けたい授業とは何かを、生徒が教員へiPadの活用方法を教えるときに一緒に考えていきたい」と語る。

有名トップ進学校のiPadの導入、今後の課題は何か?

 宮北教諭は、今後の課題について「運用面において組織化できていないところがある。今後はITを用いた学習環境の整備や改善に向けて、どう組織化し運用していけるかが課題だ」と話す。進学校としては、学力向上の成果が得られなければITの活用をやめるという選択肢もある。だが西大和学園には、こうした短絡的な考えはないという。「生徒に多様な学びを提供しつつ、ITを最大限に生かして情報リテラシーを高め、次代を担うグローバルリーダーを輩出させたい」(同教諭)というのが、同校の目指す方向性だ。

 教育関係者の話からは、全国的にも有名なトップ進学校において、タブレット導入に向けた動きがあるという。こうした状況の中、先陣を切った西大和学園の取り組みは、他校からの注目を集めるのは間違いない。学びたいモチベーションの高い生徒が集まるトップ進学校。彼らが望む、ITを活用した学びの形とは何か、西大和学園の挑戦は今後も続く。


 後編では、西大和学園のiCT運用委員会のメンバーが考える「今、学校でどのように学びたいのか」について耳を傾ける。

執筆者紹介

神谷加代(かみや かよ)

写真

フリーランスライター/ブロガー。結婚を機にサンフランシスコに移住し、日本語の絵本を扱ったECサイトを運営。その後、10年の在米生活を経て帰国し、主婦ブロガーとして「家庭×教育IT」に関する話題をメインにした「主婦もゆく iPad一人歩記」を執筆。家庭や教育におけるITの在り方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ITの分野を中心にライター業、子ども向けプログラミング教室の講師として活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』。


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