“脱Excel”か“活Excel”か
業務に不可欠なのに誰も管理していない「野良Excelツール」を、どうやって管理する?
誰が作ったのかよく知らないまま使っているMicrosoft Excelのツールが、あなたの職場にもあるかもしれません。誰が管理しているかも不明な「野良Excel」を使い続けるリスクと、適切に管理するためのヒントを紹介します。
「企業が管理すべき対象」から外れたExcelツール
企業にとって必要不可欠な他社との差別化要素や各種情報、資産を適切に管理することは、企業活動において避けては通れません。例えばCoca-Cola社は、自社製コーラのレシピの特許をあえて取得していません。企業の競争力の源泉であるレシピをあえて非公開にし、数人の役員のみで厳重に管理することで、レシピ情報の漏えいを防いでいます。
企業が取得した顧客情報は営業活動やマーケティング活動をする上で適切に管理すべきものである一方、もし漏えいしたら、企業の信用を大きく損なわせる事態につながりかねません。個人情報保護法に基づいて厳重に管理することが求められています。
社内の情報システムであれば、勤怠管理システムや、受発注システムなど、企業活動の維持に必要不可欠な基盤システムならば担当者をアサインして、定期的なメンテナンスや障害対応などの対処方法を明確にした上で運用し、管理するのが一般的です。
しかし企業内には、業務に必要不可欠であるにもかかわらず、製作者も分からずメンテナンス担当者も不明な「Microsoft Excel」(以下、Excel)のツールが存在することがあります。
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“野良Excel”はメンテナンス担当者に負担を強いる
このような「誰にも管理されていないExcelツール」(以下「野良Excel」と呼称します)は、普段は管理されていないことすら誰も気付かないまま使われているものです。ところが業務内容が変わったり、何らかの理由でExcelツールが壊れてしまったりするなどの理由で、Excelツールの改修が必要になると、誰にも管理されていないがために「誰が改修するか」が問題として浮上します。
簡単な関数のみで製作されたExcelツールであれば、周囲にいる関数に詳しい人に依頼して改修を依頼することで、事なきを得るかもしれません。しかし、マクロ言語のVBA(Visual Basic for Applications)を利用して複雑な処理をしているツールの場合は、改修できる人も限られてしまいます。何とか改修できる人を探し出したとしても、改修する側は、誰も詳細を分かっていないなかでExcelツールの仕様をヒアリングし、VBAのコードを確認し、理解することから始めなければなりません。しかも業務に必要不可欠なツールであるが故に、改修時間に余裕のないケースがほとんどでしょう。
このような状況になってしまうため、改修に当たる人(以下、改修者)は、本来の業務ではない「Excelツール改修」に本来の業務を行うべき時間を奪われることになります。Excelツールを期限までに無事、改修することができれば、依頼側(以下、依頼者)は自分たちの業務遂行に支障が起きなかったことを感謝するでしょう。しかし依頼者が、Excelツールの放置状態を改善してくれることは、ほぼありません。むしろ改修者が見つかったことで、「今後も同様の事態が起こったら、また改修してもらおう」と安心してしまいます。
Excelツールの作成を防ぐことは難しい
一方で、「開発した後に誰も管理していないExcelツール」の発生を根本的に防ぐことも、極めて困難です。なぜなら、
- 政府が「働き方改革」を推進する以前から、企業内には「業務を楽にしたい、効率化したい」というニーズが存在している
- そのニーズを実現するExcelは、業務で使用するPCのほとんどにインストールされている
- Excelを業務に使用するために誰かに許可を申請する必要はない
という状況があるからです。後は、VBAを使ってExcelでツールを作成するスキルがある人が部署内に在籍してさえいれば、業務効率化のためにExcelツールが際限なく作成されていくことになります。その後ツールの作成者が、異動や退職などで部署を離れてしまった場合、後任を育成し、引き継ぎをしていなければ、そのExcelツールは部署内の誰も改修や改良ができない野良Excelツールになってしまいます。
だからといって、社内ルールでExcelツールの製作を禁止することも非現実的でしょう。現場の効率化を否定することになり、モチベーションの低下を招くことは想像に難くありません。しかも、Excelが使用可能なPCを日常的に業務で利用している状況で、VBAでExcelツールを作ることのみ禁止するのは非合理的だと受け取られてしまうでしょう。
野良Excelを管理するには
だからといって、Excelツールに問題が発生するたびに大騒ぎして、改修するような状況も決して望ましくはありません。業務上必要不可欠なExcelツールを組織の中で可視化し、把握しておく仕組みを構築するに越したことはありません。では、どうすれば、企業内で増え続けるExcelツールを可視化し、把握することができるのでしょうか。
組織が把握していないExcelツールに何か問題が発生したときに、改修せざるを得なくなることが、この問題の本質です。だとすれば「把握しているExcelツール以外は、問題が発生しても改修しない」と明言できる仕組みを構築してしまうことが解決策となります。
具体的にはこういう方法が考えられます。まず情報システム部門などから「業務上必要不可欠なExcelツールがある場合は、申告するように」と通告します。ただし、これだけだと申告側に何もメリットがありません。そのため申告があったExcelツールについては「問題が発生した場合、情報システム部門が業務の空き時間を利用し、Excelツールを改修/改良する」ことにします。こうすることで申告側は、もしもの時に大騒ぎすることなく、Excelツールの改修の依頼先を確保できます。一方で、申告を受ける側(情報システム部門など)にとっても、あらかじめ申告されたExcelツールの仕様を事前に確認できるため、問題が発生したときの改修も比較的スムーズになります。申告されていないExcelツールについては、申告がなかったことを理由に改修を断ることも可能になります。
このように、改修者と依頼者の双方にメリットがある仕組みにすることで、企業内に点在する野良Excelを全てではありませんが、適切に管理できるようになるでしょう。ただし、こうした仕組みは定期的に社内に告知しなければ、なかなか仕組みの存在が認知されません。例えば常に申告を受け付けるのではなく、受付枠をあらかじめ決めた上で定期的に申告を受け付ける方法など、ルールの認知を拡大させる仕組みも併せて実施すると、なおよいでしょう。
このコラムについて
ほとんどの企業が使っている表計算ソフト「Microsoft Excel」。便利なツールですが、本来の目的を超えて“使いこなし過ぎる”ことが、かえって業務効率を低下させてしまったり、業務の属人化につながってしまったりする場面があるのではないでしょうか。
このコラムでは、日常業務でよく見掛けるExcelの活用例を紹介しながら「こんな場面は脱Excelを考えた方がよい」「こういうExcelの活用法はお薦め」といった知見を紹介します。
村山 聡(むらやま・さとし)
1971年愛知県生まれ、名古屋大学経済学部卒、中小企業診断士。
IT企業在職中に、単一業種においてキャリアを積んでいくことに疑問を感じ、どんな業界、職種でも通用する知識を得るべく中小企業診断士を取得。複数社を経て、現在の勤め先にて、コンサルタントとして、データを活用した業務効率改善に取り組む。
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“脱Excel”か“活Excel”か
ほとんどの企業が使っている表計算ソフト「Microsoft Excel」(以下、Excel)。便利なツールですが、本来の目的を超えて“使いこなし過ぎる”ことが、かえって業務効率を低下させてしまったり、業務の属人化につながってしまったりする場面があるのではないでしょうか。 このコラムでは、日常業務でよく見掛けるExcelの活用例を紹介しながら「こんな場面は脱Excelを考えた方がよい」「こういうExcelの活用法はお薦め」といった知見を紹介していきます。
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