GoogleやIBMは量子コンピュータ開発に積極的だ。これらの企業の開発状況や、ユーザー企業が量子コンピュータ技術を利用するメリットについて、IBM基礎研究所の責任者に話を聞いた。
IBMは量子コンピューティングの研究と開発を積極的に進めている。2019年には53物理量子ビットのモデルを含む新しいシステムを発表し、「IBM量子コンピュテーション・センター」(IBM Q Quantum Computation Center)を開設した。
前編「量子コンピュータの実用性を測る新指標『量子ボリューム』とは」に続く本稿では、IBM基礎研究所の量子コンピュータ戦略責任者であるボブ・ストール氏へのインタビューを基に、量子コンピュータの開発状況やIBMの戦略、進化の可能性について考える。
―― Googleは最近、NASA(米航空宇宙局)と協力して実施した研究所での実験において、量子コンピュータが通常のコンピュータ(古典コンピュータ)の計算速度を圧倒的に上回る「量子超越性」(Quantum Supremacy)を実現したと主張しています。ただしその実験手法の一部は公開されていません。これは重要な出来事だと考えますか。
ストール氏 この件で、量子超越性が実現されたと断言するのは難しい。その実験の前提条件や計算内容を確認できれば、もっとはっきりしたことが言えるだろう。実験に関する全ての情報が公開されて初めて、第三者が実験の妥当性を評価できるようになる。
Googleがこの実験に利用したハードウェアで計算結果を再現できれば、量子超越性が実現したかどうかを断言できる。この実験については、今後数年以内に再現できるようになる可能性がある。
IBMは量子超越性を重視しているわけではない。当社主導で、量子超越性についての実験をする予定は今のところない。当社が重視するのは「量子優位性」(Quantum Advantage:量子コンピュータの性能が古典コンピュータを上回ること)と、53物理量子ビットシステムを、量子コンピュータの研究団体「IBM Q Network」の参加者が利用できるようにすることだ。
Googleの実験は科学の進化にとって価値がある。しかしそれは実世界の問題を解決する目的で、ユーザーに量子コンピュータのシステムを利用してもらうこととは異なる。
―― IBMは、2019年9月にIBM量子コンピュテーション・センターを開設しました。これによって、ITベンダーの間で量子コンピュータ向けアプリケーション(以下、量子アプリケーション)の開発への関心が大きく高まると考えますか。
ストール氏 そう考えている。だが、それは企業の開発者が日常業務として量子コンピューティングの取り組みを始める可能性があるという意味ではない。金融機関JPMorgan Chaseや自動車メーカーDaimlerなどの企業と米国空軍が、コラボレーション組織「IBM Q Network」に参加している。これらの組織は、最新かつ最高性能の量子コンピュータの利用を希望している。IBM量子コンピュテーション・センターは、IBMが量子コンピュータの研究規模を大きくし、改善し続ける姿勢ことの裏付けになる。産業研究者を含め、量子コンピュータに積極的な研究者のニーズも満たせると考えている。
―― 量子力学の一部の原理は、量子コンピューティングと密接に結び付いています。IT担当者にとって、この学問分野を理解することはどの程度重要でしょうか。
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