ハードウェアの保守は学生が担当
“業務フルクラウド化”の東京工科大学が学生システムをオンプレミスに残した訳
東京工科大学は、学生が利用するシステム群をハイブリッドクラウドで運用し、学内データセンターの保守を学生が担当している。その理由とは。
クラウド活用を推進する東京工科大学は、学生が利用するシステムのためのITインフラとして、自校のデータセンターで運用するプライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせたハイブリッドクラウドを構築している。アクセス集中時にも安定したサービスを提供するためにパブリッククラウドを採用し、学内にある既存のデータセンターは学生の学習機会を創出するのに役立てている。本稿は東京工科大学のクラウド環境と、ITインフラを使った教育への取り組みについて取り上げる。
オープンソース技術でクラウドを構築
現在東京工科大学は学生向けシステムの基盤として、学内データセンターとパブリッククラウドの「Amazon Web Services」(AWS)を組み合わせて利用している。学内データセンターのサーバは部品から自校で組み立てており、プログラミング言語の「Java」を中心にオープンソースの技術を採用した。Webコンテンツ管理(WCM)システムの「WordPress」といったサブシステムはコンテナ管理ソフトウェアの「Docker」環境で稼働させている。その他のサブシステムも徐々にコンテナへ移行させている最中だ。
「オープンソース技術とコンテナ利用は、当校のクラウド運用方針に合っている」。東京工科大学コンピュータサイエンス学部教授の田胡和哉氏はこう語る。同校はクラウドの運用において、システムの移動可能性(ポータビリティ)を確保して、エンドユーザーが主導権を持ってシステムを選定し利用できるようにすることを重視している。「コンテナ技術を利用することで、ITインフラとなるハードウェアやクラウドサービスを変更する際、比較的簡単にシステムを移動できる」(田胡氏)
「業務系はパブリッククラウド化、学生系はオンプレミス維持」の理由
東京工科大学は教職員向けの全ての業務システムをパブリッククラウドで運用している。一方で学生用ポータルサイトや学習管理システム「Moodle」、出席管理システムといった学生向けのシステムは、オンプレミスのIT環境を併用している。
全てのIT環境をパブリッククラウドに移行せず、オンプレミスを残した理由について、田胡氏は「コスト面で最適だったからだ」と話す。もう一つの理由は、学内にデータセンターを置くことで、学生がハードウェアの保守管理に参加する学習機会を提供できることだった。
2019年時点で東京工科大学には約7800人の学生が在籍しており、教職員向けのシステムよりも学生向けシステムの方が総合的に見てトラフィックが多い。しかも出席管理システムや学生用ポータルサイトは、講義の開始時がアクセス量のピークタイムになるという。このように時間当たりのアクセス数に大きくばらつきがあるため、ピークタイムのアクセス集中に合わせてAWSを予約利用し、平常時は内製の学内データセンターを併用することで、ITインフラのランニングコストを抑えているという。
クラウド環境を学生の教育に活用
東京工科大学のコンピュータサイエンス学部は、「実学主義」という教育方針の下、ITエンジニアの育成に力を入れる。学内のハイブリッドクラウド環境を運用保守しているのは、先進教育支援センター教員と数名の有志学生を中心としたメンバーだ(写真)。学内データセンターの存在は、学生がハードウェアを組み立てたり、学内システムを構築したりする機会の創出に貢献している。田胡氏は「スキルのある学生にとっては貴重な学習機会となっている」と話す。運用保守に携わった学生からは「エンジニアとして実際に働く環境に近く、就職後に経験が役立った」との声も上がっているという。
現在使っている学生用ポータルサイトも、卒業生が開発したものだ。田胡氏は「現在のポータルサイトが気に入らなければ、学生自身で改善すればいい」と言う。今後は学生によって複数の新しいポータルサイトができる可能性もある。「教育機関がクラウド環境を構築する目的には研究利用の意味合いもあるため、新しい技術を積極的に取り入れていきたい」(田胡氏)。東京工科大学はリソースの拡張と縮小が容易なパブリッククラウドと、システムの移動や導入がしやすいコンテナ技術で構成したオンプレミスのITインフラを生かし、今後もエンドユーザーである学生と教員主導でITインフラの改善を進める意向だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
4
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
5
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
9
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
-
10
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー