小売・流通業界ではありふれたビジネスモデルとなった「サービタイゼーション」。製造業がサービタイゼーションに移行する際には、乗り越えなければならない壁がある。その壁とは。
前編「『サービタイゼーション』の4段階とは? 製造業“コト売り化”の手順」で解説したように、調査会社IDCの調査報告書「IDC Servitization Barometer: Charting Your Path to New Revenue Streams」によると、製造業が製品だけでなく、製品が生み出す価値やサービスも販売するビジネスモデル「サービタイゼーション」に移行するには4つの段階がある。その最終段階である「第4段階」に到達している企業は、同調査報告書によるとまだ少ない。第4段階は、社外でプロセスを開始・終了でき、顧客やパートナー、競合他社を結ぶバリューチェーンを技術で実現する状態だ。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行がもたらした経済不安は「企業の間でサービタイゼーションとその価値に関する理解が進む契機となった」と、ERP(統合業務)ベンダーIFS(Industrial and Financial Systems)のCEO、ダレン・ルース氏は語る。IFSは、前述のIDCによる調査報告書のスポンサーとなったベンダーだ。
小売業者はこれまでのような実店舗からデジタルチャネルに移行し、設備やサービスを販売する代わりにレンタルする新しいビジネスモデルを採用し始めている。航空宇宙や防衛産業の分野でも、General Electric(GE)やRolls-Royceなどの大手が、エンジンを販売する代わりに従量課金制で貸与するビジネスモデルを導入している。「サービタイゼーションは幅広い領域に浸透し、どこにでもあるものとなりつつある」(ルース氏)
サービタイゼーションの普及により「企業と顧客の関係は、取引相手というよりパートナーシップに近い形に変わっていく」とルース氏はみる。より多くの収益が循環することにより、レジリエンス(逆境や困難に適応する耐久力や回復力)の強い企業や、サービス品質の高い企業が増えていく。結果として「規模の経済」(生産規模を拡大することにより、単位当たりのコストが下がること)が実現すれば「改善の余地が新たに生まれるようになる」と同氏は語る。
IDCで垂直戦略と新興テクノロジー担当アソシエイトバイスプレジデントを務めるジョルジオ・ネブローニ氏によると、サービタイゼーションの第4段階に到達するには、乗り越えなければならない課題がある。
「企業が現在、どの段階にあるかによって課題は変わる」とネブローニ氏は語る。第1段階から第2段階に移行するときは、旧来のシステムの刷新やサプライチェーンの効率化などが重要課題だ。第4段階に近づくにつれて、ビジネスモデルの変革と変化への即応力などが課題になる。
企業が直面する主な課題は、企業文化と技術の問題だ。ネブローニ氏によると、企業文化の問題を引き起こす原因は、サービタイゼーションに必要な「サービス指向スキル」の不足にある。例えばフィールドサービス要員には技術に関する体系的な知識などのハードスキルだけではなく、コミュニケーション能力のようなソフトスキル(ヒューマンスキル)も求められる。
サービタイゼーションでは製品のアップデート間隔が短くなる傾向があるため、トレーニングや新しい製品体験にも追随できなければならない。製造業はサービス指向のビジネスを運営できる社内人材が総じて不足しており、人材確保が必要だが、サービス指向の業界から幹部を招き入れることは簡単ではない。
ネブローニ氏は、技術の問題について「システムが分断化していてフィールドサービスの情報をカスタマーサポートと共有できず、カスタマーサポートの情報をサプライチェーン管理システムに反映できないような状況では、何をするにも難しく、時間がかかる」と指摘する。
ルース氏によると、サービタイゼーションへの移行に積極的でない企業は厳しい状況に陥る心配があり、サービタイゼーションの推進は経済の強化につながる。「なかなか適応できない企業は長く持ちこたえるのが難しくなるが、多くの企業がこの契機を認識していることは調査データが示している」と同氏は指摘。レジリエンスの高いビジネスモデルに基づく企業が生き残るようになれば「長期的な経済の向上が実現する」とみる。
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