EHRの音声認識機能は使い物になるか【後編】
医療現場に必要なのは「言わなかったことを補う技術」? 音声認識機能の理想像
ベンダーは電子カルテ(EHR:電子健康記録)向け音声認識機能の有用性を訴求しているが、実際にそれを使っている医療現場はどう見ているのか。現場が本当に必要としている機能とは。
中編「電子カルテベンダーCernerが『AWS』移行後も『Nuance』の音声認識を選ぶ理由」に続き、後編となる本稿は、実際に臨床で音声認識技術を利用している医療従事者の見解を基に、その実用性を探る。
Vanderbilt University Medical Centerで生物医学情報学と小児内分泌学の准教授を務めるヤー・クマー・クリスタル氏は、電子カルテ(EHR:電子健康記録)ベンダーEpic Systems(以下、Epic)のモバイルアプリケーション「Haiku」のユーザーだ。クマー・クリスタル氏はHaikuの音声認識機能「Hey Epic」を日常的に使っている。Hey Epicの性能は「一般消費者向けの音声認識機能と変わらない印象」だというが、音声コマンドは基本的なものに限られている。そのため同氏は、「今後は『この患者が膝の骨折で放射線科を最後に受診したのはいつだったかを教えて』というような、より詳細な指示を音声アシスタント経由で操作できるようになってほしい」と話す。
まだ「音声入力」にすぎない、未成熟な技術
音声認識技術はここ数年で進化はしているものの、まだ使い道が限られている。医療現場はさておき、一般消費者の日常利用シーンでも制限が残る。
音声認識技術には「誇大な宣伝文句が見られる」と、調査会社CB Insightsプリンシパルアナリストのジェフリー・ベッカー氏は話す。「音声認識技術は非常に優秀だと考えられがちだが、実際に使ってみると未成熟でインテリジェントではないことに気付く」とベッカー氏は主張。音声認識技術の大きな課題としてユーザビリティの向上を挙げる。
公立医療機関UCHealth(University of Colorado Health)でCIO(最高情報責任者)を務めるスティーブ・へス氏は「現状の音声認識技術の性能だと、医師の仕事を減らすどころか、むしろ増やしている」と語る。
UCHealthに在籍する2000人以上の医師は、Nuance Communicationsの音声入力ソフトウェア「Dragon Medical One」を使用し、診断書やメモを口述している。ヘス氏は「医師は音声入力には興味があるが、患者のカルテを参照するような用途で音声認識技術を活用することにはまだあまり関心が向いていない」という。電子カルテの音声アシスタントはいずれ医師と患者の会話や体験を把握し、医師が電子カルテに記録したことを転写して診断書を作成したり次の指示を出したりするような、高度で直感的なものになるだろうとヘス氏は考えている。ただし、その実現にはあと2~5年はかかるだろうと予想する。
医療分野の“音声アシスタント”は今後どうなる
Epicで研究開発担当のバイスプレジデントを務めるセス・ハワード氏は、音声認識技術の力を借り、「医師と看護師がPCを使用する時間を短くして、患者に向き合う時間を長くするのが理想だ」と語り、ヘス氏のビジョンに賛同している。
そこまでたどり着くためには、電子カルテ向け音声認識技術が進化し、医師特有の言い回しや医学用語を正しく理解することに加え、患者が使う「正確ではない医学用語」も理解する能力を備える必要がある。
ハワード氏は「音声認識技術は人間と同じように、曖昧な会話の『足りない言葉』を自ら補って理解力を高めなければならない。このためには恐らく、人間の演繹法(えんえき)を模倣して、会話から結論を導く能力を持たせる必要がある」と考察する。
この問題の解決は非常に難しく「今はまだSF(サイエンスフィクション)のように聞こえるかもしれない」とハワード氏は語る。ただし整形外科の経過観察といった一部の分野ではすでに「より高度な音声認識技術のプロトタイプが生まれている」と同氏は説明する。
ベッカー氏は「EHRの音声認識機能の最終的な目標は、患者の診察全体の記録をシステムに任せ、医師の負担を軽減することだ。今後3~5年かけて、ベンダー各社はこの分野で技術競争を繰り広げるだろう」と予想する。
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