Googleの調査で分かった「金融機関がクラウドを使わない“本当の理由”」金融機関のクラウドサービス利用に関する調査結果

金融業界でハイブリッドクラウドやマルチクラウドなどのIT戦略の採用が進みつつある。ただしクラウドサービスの導入状況は金融機関によってまちまちだ。金融機関がクラウドサービスの導入で抱える課題とは。

2021年10月19日 05時00分 公開
[Caroline DonnellyTechTarget]

 金融機関でクラウドサービスの導入が進みつつあるものの、相変わらず法規制やレガシーシステムの複雑さがその進展を妨げている――。これはGoogleからの委託を受けて、市場情報機関Harris Insights and Analyticsが実施した調査で明らかになった事実だ。日本と米国、カナダ、フランス、ドイツ、英国、シンガポール、オーストラリアの金融機関で働く1300人以上のリーダーがこの調査に回答した。

 回答者の83%はクラウドサービスを「最も重要なITインフラ」として利用していると答えた。38%の回答者がオンプレミスシステムとクラウドサービスを併用するハイブリッドクラウドを採用している。単一のクラウドサービスを利用していると答えたのは28%だった一方、複数のクラウドサービスを併用するマルチクラウド戦略を進めている回答者は17%だった。マルチクラウド戦略をまだ採用していない金融機関の回答者のうち、今後12カ月以内にマルチクラウド戦略への移行を検討していると答えた回答者は88%に上る。

金融機関がクラウドサービスの導入を諦める“あの理由”

 調査レポートは、金融機関のクラウドサービス移行を遅らせている原因を幾つか指摘している。Googleが挙げる原因は、

  • レガシーシステムの複雑さ
  • クラウドサービスの信頼性への不安
  • 法規制の難解さ
  • コンプライアンス要件の細分化

などだ。金融機関がクラウドサービス導入を進めるには、証券取引の事務処理や顧客口座の開設といったバックオフィス業務を中心に、法整備やレガシーシステムの複雑さを解消することが必要だと同社は指摘する。

 これまでに「かなりのワークロード(アプリケーション)」をクラウドサービスに移行させた金融機関でも、中核となるバックオフィスアプリケーションをクラウドサービスに移行させることについては、まだ抵抗がある。引受業務(企業が発行した新しい証券を証券会社が取得すること)のような中核業務では、欧州全体でクラウドサービスの使用率が低く、英国では30%しか利用されていないとGoogleは説明する。

 調査レポートは「法規制に起因する課題」が、金融機関各社のクラウドサービス移行を遅らせていると指摘している。回答者の84%は、複数の規制機関にまたがって規制が細分化されているため、各機関の審査と承認に時間がかかり過ぎるという意見で一致している。さらに78%がクラウドサービスの利用に関する規制が一義的に解釈できないため、クラウド技術の導入を妨げていると回答している。

 クラウドサービスの導入コストを課題とする企業もある。自社でオンプレミスインフラを優先して利用する38%の回答者は、クラウドサービスを利用しない理由の一つとして、規制を順守するためのプロセスやコンピューティングリソースに多額の投資が必要になることを挙げている。

 調査会社IDC Financial Insightsでリサーチ部門のバイスプレジデントを務めるジェリー・シルバ氏は、今回の調査によって金融業界全体のクラウドサービス導入の進行状況に大きなばらつきが生じていることが浮き彫りになったと語る。「多くの銀行が既にハイブリッドクラウドを採用する一方で、計画や導入作業の段階にとどまる銀行もある」とシルバ氏は考察する。

 「金融機関が重点を置く必要があるのは、最新のITインフラを導入して事業の効率や回復性、俊敏性を確保することだけではない」とシルバ氏は話す。クラウドサービスのセキュリティやコンプライアンスなど、システムを管理するために必要な手順を踏むことにも注力する必要があると、同氏は指摘する。

Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術

米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

髫エ�ス�ス�ー鬨セ�ケ�つ€驛「譎擾スク蜴・�。驛「�ァ�ス�、驛「譎冗樟�ス�ス驛「譎「�ス�シ驛「譏懶スサ�」�ス�ス

製品資料 株式会社AIT

国際間の映像データ配信や拠点間での動画共有も高速で、ファイル転送の注目手法

大容量データの送受信には、通信遅延や帯域制限の課題がある。本資料では、高速で安全なデータ送信を実現できるファイル転送プラットフォームを紹介する。導入時に気になるポイントとともに、料金プランも分かりやすく解説している。

製品資料 発注ナビ株式会社

リードが商談化できない? SaaS導入のベンダー側と企業側の悩みを一掃する方法

SaaSの利用が拡大する中、ベンダー側と企業側の両方がさまざまな課題を抱えている。ベンダー側は商談につながるリードが獲得しにくいと感じており、企業側は製品の選定に困難さを感じているという。双方の課題を一掃する方法とは?

製品資料 NTTドコモビジネス株式会社

多様なデータを一元管理、次世代のコンテンツ管理基盤とは?

従来のファイルサーバで対応できない多様なデータを、効率的に管理・共有できる「全てのコンテンツ保管庫」として、クラウド型コンテンツ管理基盤にVPN接続機能を組み合わせたサービスが注目されている。その特徴をマンガ形式で紹介する。

製品資料 株式会社マヒト

3分で分かる、「名刺発注業務」を効率化するポイント

従業員の自己紹介に加えて、企業間の関係構築においても重要な役割を担う名刺だが、その発注業務は意外と手間がかかる。名刺の作成から注文まで、ミスを発生させずに効率化するにはどうすればよいのか。本資料では、その解決策を紹介する。

製品資料 株式会社MONO-X

IBM i の資産を生かし、着実にDXへとつなげるモダナイゼーションの進め方

IBM i 基幹システムを運用する企業でモダナイゼーションが喫緊の課題となる中、推進の課題も多い。そこで、「クラウド」「ノーコード開発」「API」「AI」を主軸とするIBM i ユーザー向けモダナイゼーションサービスを紹介する。

アイティメディアからのお知らせ

郢晏生ホヲ郢敖€郢晢スシ郢ァ�ウ郢晢スウ郢晢ソスホヲ郢晢ソスPR

From Informa TechTarget

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ
ネットワークの問題は「帯域幅を増やせば解決する」と考えてはいないだろうか。こうした誤解をしているIT担当者は珍しくない。ネットワークを快適に利用するために、持つべき視点とは。

Googleの調査で分かった「金融機関がクラウドを使わない“本当の理由”」:金融機関のクラウドサービス利用に関する調査結果 - TechTargetジャパン クラウド 隴�スー騾ケツ€髫ェ蛟�スコ�ス

TechTarget郢ァ�ク郢晢ス」郢昜サ」ホヲ 隴�スー騾ケツ€髫ェ蛟�スコ�ス

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...