保有データ量が増大する問題は、コストの面でもCO2排出の面でも企業を悩ませる可能性がある。今後、ストレージのデータをどう保管すればいいのか。まず考えた方がよいのは「使わないデータ」の扱い方だ。
企業の保有データは、消去しない限りは年々増大を続ける。ストレージの保存容量が不足するごとにSSDやHDDを増設するのではコストの負担が大きくなり、それと同時にストレージの消費電力量も増大する。二酸化炭素(CO2)排出の抑制が一段と求められる中で、何の対策も取らずにデータ保管量を増やすことは、得策とは言えない。今後、ストレージのデータ保管における戦略や方針には何が求められるのか。
ストレージベンダーNetAppのチーフテクノロジーエバンジェリスト、マット・ワッツ氏は「企業のストレージには相当量の『使用しないデータ』が存在する」と指摘する。この観点がストレージのCO2排出量やコストを削減するための起点になるという。ワッツ氏の説明を基に、企業に求められるデータ保管のポイントを紹介する。
企業のストレージにあるデータのうち、かなりの割合が「使用していないデータ」だということを裏付ける調査結果がある。ストレージベンダーSeagate Technologyと調査会社IDCが2020年7月に公開したレポート「データを再考する」によれば、企業が社内業務で入手可能なデータのうち、活用されているのは32%。残り68%は活用されないままになっている(注)。
※注:調査対象者は中小企業や大企業に所属する1500名(アジア太平洋および日本の500人、欧州の475人、北米の375人、中国の150人)。2019年12月から2020年1月にかけて調査を実施した。
こうした活用されていないデータに対して、何をすべきかを企業は検討しなければならない。「将来的に活用する可能性がある」と考えてSSDやHDDで保管し続けるのでは、コストやCO2排出量がただ膨らんでいくだけだ。不要だと考えられるデータを消去すれば、空き容量を確保したり、増設を回避したりできる。だが問題はそう単純ではない。法規制により長期保管する必要のあるデータや、実際に将来使用する可能性の高いデータもある。必要なデータかどうかを見極めることができない場合、データの所有者でない限り消去の判断には慎重にならざるを得ない。
ワッツ氏は、企業が取り得る最初のステップになるのは、使用頻度に応じてデータを分類することだと説明する。具体的には、コールドデータ(使用頻度の低いデータ)や、全く使用しないデータを見極める。これには、使用頻度に応じて保管するストレージを使い分ける「データ階層化」の機能を備えたストレージ管理ソフトウェアを使用するとよい。労力の掛かる手作業によらず、自動的に分類することが可能だ。コールドデータや全く使用しないデータを「CO2を排出しにくいストレージ」に移し替えると同時に、主要ストレージであるSSDやHDDの空き容量の確保、増設の回避にもつながる。
CO2を排出しにくいストレージの選択肢としては、データセンターに再生可能エネルギー由来の電力を使用している「クラウドストレージ」や、カートリッジでデータを保管する限りは電力を使用しない「テープ」などが考えられる。
クラウドストレージがCO2を排出しにくいストレージの候補になるのは、2つの理由がある。1点目は、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft、Googleといった主要クラウドベンダーは、データセンターの電力源として再生可能エネルギーを利用していることだ。再生可能エネルギーは基本的にはCO2を排出しない。化石燃料由来の電力を使用している企業がクラウドストレージにデータを移行した場合は、そのデータ保管に必要な電力分のCO2を削減できることになる。
2点目は、主要クラウドベンダーのデータセンターのPUE(電力使用効率)が総じて優れている点だ。PUEは、データセンターの全消費電力量を分子にして、サーバやストレージなどのIT機器の消費電力量を分母にして求める。データセンターの電力消費の効率を測る指標として広く使われている。ワッツ氏は「データセンターの平均的なPUEの値が1.5前後であるのに対して、クラウドベンダーのデータセンターのPUEは、1.1前後であることが普通だ」と説明する。PUEは1.0に近いほどIT機器が効率的に電力を使用できているという見方をする。そのため一般的なデータセンターでデータを保管するよりは、消費電力量を低減できるとみなせる。
テープを含め、記録媒体の種別による消費電力の考え方については、TechTargetジャパン記事「容量増加のSSDと安いHDD、低電力のテープ――これからのストレージの選択肢」で紹介している。
後編は、ストレージを使い分けるためのポイントと、もう一歩進んだデータ保管のポイントを紹介する。
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