リモートアクセス技術ベンダーTeamViewerは、AR機能を開発するなどリモートアクセス以外の領域に事業を広げてきた。その背景を同社CEOと最高製品技術責任者に聞いた。
リモートデスクトップツール「TeamViewer Remote」を手掛けるTeamViewerは、拡張現実(AR)技術といったリモートアクセス技術以外の領域にも事業を広げてきた。韓国の自動車メーカーHyundai Motor Company(現代自動車)がシンガポールにある電気自動車組立工場でAR技術を活用するなど、TeamViewerの技術は産業分野において使われている。こうした取り組みは、TeamViewerがリモートアクセス技術をワークフロー管理やスマートファクトリーといった新しい用途に応用し、産業用デバイスへの接続機能を拡張しようとする中で実現した。
TeamViewerのCEOオリバー・スタイル氏と最高製品技術責任者のメイ・デント氏に、産業分野における同社技術の活用や、AR機能の開発について聞いた。
── TeamViewer Remoteはどのような業界のニーズを対象にしているのか。
スタイル氏 TeamViewer Remoteの基本概念はシンプルだ。重要なのはデバイスの種類に依存せず、「iOS」「Windows」「Android」「Linux」などのさまざまなOSを搭載するデバイスで使用できることだ。
それが実現した次のステップでは、人同士をつなぐユースケースに着目した。ある特定の状況でサポートやデータを必要とする現場作業員をどのように支援すればよいのかを考え、AR機能の追加に着手した。その一環として、現場作業員がスマートグラス(カメラや通信機能などを搭載した眼鏡型のヘッドマウントディスプレイ)を用いてマニュアルやワークフローを表示できるツール「TeamViewer Frontline」を開発するために、3社の企業を買収した。AR機能は現在、当社事業の2つ目の柱になっている。これから進出を試みる3つ目の柱は、資産と現場作業員が同じ場所に存在するスマートファクトリーだ。
当社が参入する産業分野は、競合のソフトウェアベンダーが参入に消極的な分野だ。ITとOT(Operational Technology:制御技術)で考え方が異なるため、産業分野は比較的複雑だと言える。当社はさまざまな産業分野のユーザー企業と仕事をする中で、ユーザー企業が直面する課題を把握しており、この市場に将来性を感じている。
GPS(全地球測位システム)機能やヘッドアップディスプレイを搭載している昨今の自動車に目を向けると、高額な機械の複雑なメンテナンス作業に従事する技術エンジニアには、こうした先進的な情報提示技術が行き渡っていない。今でも技術エンジニアは、PDFファイルや図表の確認にタブレットを使用している。彼らがスマートグラスやAR用のヘッドマウントディスプレイを使用すれば、手を使わずにデータ、ワークフロー、指示を確認できるようになる。
── こうした産業機器の特殊な要件を満たすために、困難だった作業は。
スタイル氏 大手企業と仕事をするときには困難な作業に直面することがあった。そうした場合を含めて、製品はインターネット接続、エンドツーエンドの暗号化、標準OS、リモートアクセスとリモート制御など、18年の歳月をかけて築き上げた技術に基づき、ユーザー企業の課題を解決してきた。
技術的には、あらゆるデバイスにTeamViewer Remoteを接続することは可能だ。重要なのは、データをどのように切り分けるかだ。例えば、当社の製品を使用している医療機器のメーカーは、医療機器の診断とメンテナンスを実施するために、離れた場所にある医療機器に接続しなければならない。医療機器には操作に関する複数のログデータが存在し、一部のデータは患者情報を含む。このような個人情報に関わるデータは分離して、データとセキュリティに関する方針を定めて患者情報がメーカーの手に渡らないようにすることが重要だ。
── ITシステムとOTシステムを融合すると、データ漏えいのリスクが高まる恐れがある。他に導入している予防策は。
デント氏 顧客と共同で取り組んでいる認証や評価に関するプロセスなど、セキュリティプログラムを導入する際にはさまざまな要素が関係する。当社は製品開発サイクルの一環として、ゼロトラスト(何も信用しないことを前提に対策を講じるセキュリティの考え方)をはじめとするサイバーセキュリティのベストプラクティスについて、人材育成のプログラムを実施している。米国のセキュリティベンダーBitSight Technologiesによるレーティングで、当社は業界トップクラスの評価を受けた。
スタイル氏 当社はクラウドサービスを支持視している。全てのデータやシステムをオンプレミスで管理することが安全だとは限らない。企業にはクラウドサービスとオンプレミスシステムが混在するようになり、セキュリティ体制の維持はますます困難になっている。一部の大企業は対処できるが、全ての企業がそうではない。将来的に、オンプレミスシステムのセキュリティ問題を、自社で問題を解決するよりも、日常的にセキュリティに取り組んでいるクラウドサービスベンダーを頼る方が適切になる可能性がある。
例えば、TeamViewer Remoteは非営利目的の個人ユーザーであれば無料で利用でき、認証済みのエンドユーザーが自由にデバイスに接続できるようにする。デバイスのIDと認証情報があれば、デバイスに接続してそのデバイスを利用しているエンドユーザーをサポートしたり、デバイスを制御したり、情報をやりとりしたりすることが可能だ。
しかし企業の場合、認証情報を知っている人なら誰でもデバイスに接続できるというのは、恐ろしい状況になりかねない。当社は、企業向けに同じ機能を備えた新しいリモートデスクトップツールを開発している。この製品は管理機能を備え、誰がどこからデバイスに接続できるのかを制御できる仕組みがあり、社外からの接続に対して自社を保護できるようにしている。第三者がそうした規則や手順を侵害する懸念を持つユーザー企業には、自社専用の条件付きアクセスルーターを導入し、社内ネットワークに設置することもできるようになる見込みだ。
後編は、TeamViwer Remoteのデータに関する取り組みを紹介する。
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