住宅金融大手が「Red Hat OpenShift」で進めたリアルタイムデータ処理とは?金融機関のモダナイゼーション事例

大手金融機関Nationwideは、Red Hatの技術を用いてリアルタイムデータの活用を進めている。当初同社が抱えていた課題から、導入した仕組み、成果までを解説する。

2024年11月12日 05時00分 公開
[Karl FlindersTechTarget]

 英国の住宅金融組合Nationwide Building Society(以下、Nationwide)は、同社が提供するバンキングアプリケーション「Banking App」を支える基盤システムの構築に取り組む。目指すのは、リアルタイムデータを処理でき、予測が難しい需要変動にも柔軟に対処できるシステムだ。大量の顧客データをメインフレームで扱ってきた同社でこのプロジェクトが発足した経緯や、それによって得られた成果とは何だったのか。

金融大手はRed Hatで「リアルタイムデータ処理」をどう進めた?

 従来Nationwideは、大量の顧客データをメインフレームに蓄積し、各部門で個別に管理してきた。システムは扱いづらく開発のスピードが低下していたことに加えて、リアルタイムデータの増加と、データの量と種類の多様化が負担になりつつあった。

 Nationwideはこの課題を解決するため、リアルタイムで発生するイベント(操作や取引、データの更新など)を逐次処理し、他のシステムやサービスにリアルタイムで伝達、処理するための基盤「Speed Layer」を構築した。OS「Red Hat Enterprise Linux」(RHEL)上で稼働するSpeed Layerは、コンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」ベースのイベント駆動型オートスケーラー「KEDA」を活用することで、毎秒10万件以上のデータを処理する。この結果、Banking Appのユーザーはデータをより速く確認できるようになった。

 プロジェクトの成功を受け、Nationwideは事業部をまたぐより広範囲なシステム統合を決断。Red Hatのコンサルティング部門と協力し、「Business Integration Platform」(BIP)を構築した。同社が目指したのは、必要に応じて柔軟にスケール(拡張)でき、最新のクラウドネイティブアプリケーションと連携できる「イベント駆動型の統合プラットフォーム」だった。

 BIPは、Kubernetesベースのコンテナ管理ツール「Red Hat OpenShift」(以下、OpenShift)で構築されており、イベントストリーミング用のミドルウェア「Apache Kafka」(以下、Kafka)やドキュメント指向データベース「MongoDB」などのオープンソース技術を使っており、障害発生時もサービスにアクセスできる構成となっている。

 BIPは1日1億件の呼び出しを処理でき、うち1400万件は外部からのクエリだ。他にもワンタイムパスワード(OTP)認証や、SAPシステムとの連携など、幅広い機能を提供する。99.999%のサービス可用性や、処理速度の最大500%高速化を実現。システムの迅速なアップグレードが可能となった。

 NationwideはBIPのインフラとして、Amazon Web Services(AWS)のクラウドサービスとオンプレミスのRHELを使用しており、今後はより多くのワークロードをクラウドに移行する計画だ。同時にBIP担当チームは、ワークフローのさらなる自動化を進め、BIPの規模拡大を目指すという。

 BIPの責任者を務めるグラント・バレンタイン氏は、「未知の需要に備える必要がある」と話す。将来的に、バンキングアプリケーションの決済件数や、ユーザー数、規制といった要件は変化を続けている。BIPについては、「OpenShift上で運用することで、クラウドの選択肢、堅牢なパフォーマンス、そしてビジネスの俊敏性を実現し、よりスムーズで便利な体験をユーザーに提供できる」とバレンタイン氏は評価する。

 2008年の世界金融危機の際、ほとんどの金融機関が支出を削減する中で、NationwideはITへの投資を強化してきた。同社は10億ポンド規模の技術革新プロジェクトを始動し、最新技術を積極的に取り入れるための基盤を整備した。2024年現在、NationwideはFinTech(金融とITの融合)を活用した事業変革に取り組んでいる。その一環として、全ての決済システムをクラウドベースのシステムに移行するプロジェクトも始まっているという。

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