大手金融機関Nationwideは、Red Hatの技術を用いてリアルタイムデータの活用を進めている。当初同社が抱えていた課題から、導入した仕組み、成果までを解説する。
英国の住宅金融組合Nationwide Building Society(以下、Nationwide)は、同社が提供するバンキングアプリケーション「Banking App」を支える基盤システムの構築に取り組む。目指すのは、リアルタイムデータを処理でき、予測が難しい需要変動にも柔軟に対処できるシステムだ。大量の顧客データをメインフレームで扱ってきた同社でこのプロジェクトが発足した経緯や、それによって得られた成果とは何だったのか。
従来Nationwideは、大量の顧客データをメインフレームに蓄積し、各部門で個別に管理してきた。システムは扱いづらく開発のスピードが低下していたことに加えて、リアルタイムデータの増加と、データの量と種類の多様化が負担になりつつあった。
Nationwideはこの課題を解決するため、リアルタイムで発生するイベント(操作や取引、データの更新など)を逐次処理し、他のシステムやサービスにリアルタイムで伝達、処理するための基盤「Speed Layer」を構築した。OS「Red Hat Enterprise Linux」(RHEL)上で稼働するSpeed Layerは、コンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」ベースのイベント駆動型オートスケーラー「KEDA」を活用することで、毎秒10万件以上のデータを処理する。この結果、Banking Appのユーザーはデータをより速く確認できるようになった。
プロジェクトの成功を受け、Nationwideは事業部をまたぐより広範囲なシステム統合を決断。Red Hatのコンサルティング部門と協力し、「Business Integration Platform」(BIP)を構築した。同社が目指したのは、必要に応じて柔軟にスケール(拡張)でき、最新のクラウドネイティブアプリケーションと連携できる「イベント駆動型の統合プラットフォーム」だった。
BIPは、Kubernetesベースのコンテナ管理ツール「Red Hat OpenShift」(以下、OpenShift)で構築されており、イベントストリーミング用のミドルウェア「Apache Kafka」(以下、Kafka)やドキュメント指向データベース「MongoDB」などのオープンソース技術を使っており、障害発生時もサービスにアクセスできる構成となっている。
BIPは1日1億件の呼び出しを処理でき、うち1400万件は外部からのクエリだ。他にもワンタイムパスワード(OTP)認証や、SAPシステムとの連携など、幅広い機能を提供する。99.999%のサービス可用性や、処理速度の最大500%高速化を実現。システムの迅速なアップグレードが可能となった。
NationwideはBIPのインフラとして、Amazon Web Services(AWS)のクラウドサービスとオンプレミスのRHELを使用しており、今後はより多くのワークロードをクラウドに移行する計画だ。同時にBIP担当チームは、ワークフローのさらなる自動化を進め、BIPの規模拡大を目指すという。
BIPの責任者を務めるグラント・バレンタイン氏は、「未知の需要に備える必要がある」と話す。将来的に、バンキングアプリケーションの決済件数や、ユーザー数、規制といった要件は変化を続けている。BIPについては、「OpenShift上で運用することで、クラウドの選択肢、堅牢なパフォーマンス、そしてビジネスの俊敏性を実現し、よりスムーズで便利な体験をユーザーに提供できる」とバレンタイン氏は評価する。
2008年の世界金融危機の際、ほとんどの金融機関が支出を削減する中で、NationwideはITへの投資を強化してきた。同社は10億ポンド規模の技術革新プロジェクトを始動し、最新技術を積極的に取り入れるための基盤を整備した。2024年現在、NationwideはFinTech(金融とITの融合)を活用した事業変革に取り組んでいる。その一環として、全ての決済システムをクラウドベースのシステムに移行するプロジェクトも始まっているという。
米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
基幹システム運用の課題を解消すべく、ノーコード開発ツールを導入する動きが加速している。数あるツールの中からどのようにツール選定を進めたらよいのか、またどのような課題を解決できるのか、具体的なツールも含めて解説する。
老朽化したシステムの刷新に向けノーコード開発ツールを導入した「東亜建設工業」。その活用により、ベンダーに依存することなく柔軟性と持続可能性の高いシステムの構築を推進できる体制を実現している。同社の取り組みを詳しく紹介する。
社内業務の徹底的な効率化を目指す「八千代工業」。最初に導入したRPAでは、紙に依存した業務への対応は難しかったが、これらをデジタル化するためにノーコード開発ツールを使ってアプリを開発し、大きな成果を挙げている。
IT技術の重要性が高まる一方、IT人材不足が加速している。その不足を埋めるため、自社の業務システムをノーコードで開発する動きが広がっているが、ノーコード開発を導入する際には、将来的な全社DXを考慮してツールを選ぶ必要がある。
業務効率化に有効なシステム化だが、プロコードやローコードによる開発では場合によって複雑なコーディングが必要となり、かえって新たな課題を生みかねない。そこで登場したのが、スキル不要で使えるノーコード開発ソリューションだ。
お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。
「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...
Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...
「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。