2008年11月20日 08時00分 UPDATE
特集/連載

“第3のコミュニケーション”企業向けIMの魅力【後編】モバイル対応、使い勝手……自社に最適な企業向けIMを見極める7つのポイント

コミュニケーションを円滑化してくれるIM。だが個人向けと企業向けの製品では、その考え方、使い方が根本的に異なる。ビジネスに適したIMの選定ポイントをまとめてみた。

[渡邉君人,Qript]

 前回の「企業で使ってこそ分かるIMの本当の価値」では、インタスタントメッセンジャー(IM)をコミュニケーションの道具としての観点から取り上げた。IMは日々交わされる「揮発性情報」を効率よくやりとりできることに加えて、在席情報を示すプレゼンス機能が実はコミュニケーションメディアにもなり得る。一方、現場の社員はIMの導入を歓迎する傾向がある一方で、経営層には効果がなかなか理解されないという問題点についても触れた。

 ただ、筆者があらためて指摘するまでもなく、実際のところ国内ではIMの企業導入が期待ほど進んでいない。いろいろな市場調査リポートで高い普及率が示されることの多い欧米や韓国などとは対象的だ。日本人には「メッセージを送ったら相手の仕事を邪魔してしまうかもしれない」といった惻隠(そくいん)の気持ちがコミュニケーション習慣として根強く存在するため、一朝一夕に変化を求めるのは難しい。ベンダー側には導入事例を踏まえた実際のメリットをじっくりと訴求していくことが求められるだろう。

 とはいえ、入り口の部分で堂々巡りをしていても前には進まない。後編では、導入を決めた、あるいは前向きに導入を検討しているという前提で、IMの選定方法や導入のポイントについて解説したい。

コンシューマー版とビジネス版の違い

 IMの導入に当たっては、当然ながらまずは導入するIMを選定しなければならない。現在、市場には大きく分けて2種類のIMが存在する。1つは主に個人用途のコンシューマー版で、もう1つは企業向けのビジネス版だ。

 コンシューマー版はその多くが無償提供である。というよりも、一部のシェアウェアを除いて、ほとんどすべてが無料といってもよい。アカウント取得のために個人情報を登録する程度の手間は必要だが、すぐに使えることがメリットだ。有名なところでは、「AOLインスタントメッセンジャー(AIM)」「ICQ」「Yahoo!メッセンジャー」「Windows Live メッセンジャー」「Skype(スカイプ)」などがある。これら以外にも、フリーウェアあるいはシェアウェアとして公開されているメッセンジャーソフトがたくさんある。国内では「Vector」「窓の杜」といったサイトで入手できる。

 一方のビジネス版は基本的に有償である。主な製品として「Cisco Unified Communication Manager」「IBM Lotus Sametime」「Microsoft Office Communication Server(旧Live Communication Server)」「Yocto(ヨクト)」などがある。シスコシステムズやマイクロソフトの製品では、IMのメッセージだけでなく音声やデータも統合するユニファイドコミュニケーション(UC)の1つと位置付けられており、OfficeアプリケーションやIP電話との間でプレゼンス(在席情報)も共有できるようになっている。

 コンシューマー版はいずれも機能は似通っているが、ビジネス版は設計コンセプトや主要機能、連携可能ソフトウェアなどがそれぞれで異なる。システム構築に必要なハードウェアリソースについても十分な検討が必要だ。

主要なIM製品
名称 分類 URL
AOLインスタントメッセンジャー コンシューマー版 http://www.jp.aol.com/aim/index.html
ICQ http://www.icq.com/
Skype http://www.skype.com/intl/ja/
Yahoo!メッセンジャー http://messenger.yahoo.co.jp/
Windows Live メッセンジャー http://messenger.live.jp/
Cisco Unified Communication Manager ビジネス版 http://www.cisco.com/web/JP/product/hs/iptel/index.html
IBM Lotus Sametime http://www-06.ibm.com/jp/software/lotus/products/sametime/
Microsoft Office Communication Server http://office.microsoft.com/ja-jp/communicationsserver/
Yocto http://www.yocto.ne.jp/

画像画像 左の画面はCisco Unified Personal Communicatorでのメッセージ交換。そこから直接内線を掛けるといったことも可能。右画面はMicrosoft Office Communicator(クライアント)でのプレゼンス確認

閉じた世界でセキュリティを確保

 コンシューマー版とビジネス版の大きな違いはその設計思想にある。図1を見てもらえれば分かるが、コンシューマー版は多くの人とのコミュニケーションを実現することを目的として「外側に開かれた世界」で利用することを設計思想としている。一方のビジネス版は「内側に閉じた世界」での利用を設計思想としている。特定ユーザー同士の特定のやりとりしかサポートしないことでセキュリティレベルを高めているわけだ。

図1 図1●コンシューマー版IMとビジネス版IMとの思想の違いを示したイメージ。コンシューマー版は不特定多数の人と広くコミュニケーションを図ることを目的としているので、外側に広がる指向性を持つ。逆にビジネス版はセキュリティを高めるために内側に囲い込もうとする指向性を持っている

 企業環境としてどちらが適切かは明らかだろう。無償ですぐに使えるからといって、外に開かれたコンシューマー版の抱えるリスクを考えると、業務システムとして企業内にたやすくは導入できないはずだ。

 最近ではコンシューマー版のIMをターゲットにした、スパムメールならぬ「IMスパム」の発生が欧米をはじめ日本でも報告されている。ちなみにIMスパムは「SPAM IM」をもじって「スピム」とも呼ばれる。知らないユーザーから送られてきたメッセージや画像を不用意にクリックしたりすると、トロイの木馬が仕込まれるといったトラブルに発展することがあるので注意したい。SkypeやYahoo!メッセンジャーを使っているうちに感染してしまった、というような一般ユーザーの被害をインターネット上でよく見掛ける。もちろん、コンシューマー版が直ちに危険というわけではない。やりとりする相手を制限するように設定するなど適切に使用すれば問題は起きにくい。

 ただ、P2Pファイル交換ソフト「Winny」を使っていて、本人は注意しているつもりでも知らない間にAntinnyという暴露ウイルスに感染してPC内の機密情報を含むファイルが流出してしまう事案が後を絶たないことからも分かるように、ユーザー側の設定や使い方にセキュリティを委ねてしまうのは企業システムとしてはリスクが高過ぎる。筆者がビジネス版IMを勧める理由の1つは、企業には「内側に閉じた」システムこそが適切と考えるからだ。ビジネス版IMには、社外へのアクセスをブロックしたり組織・職位に対応したアクセス権限を付与するといったアクセス制限や、Active DirectoryなどのLDAPディレクトリと連携したユーザー管理、通信履歴(ログ)の記録といった、セキュリティや設定の集中管理機能が備わっている。

企業文化や商習慣に合った機能が選定のポイント

 セキュリティ以外では、IMの選定に当たってどのような点に注意すべきだろうか。もちろん、企業の既存環境との整合性やどのような使い方を想定しているかによって必要な機能は異なるので一概にはいえないが、おおむね次のような7つのポイントに注意するとよい。

  • モバイル環境(携帯電話/スマートフォン)に対応していること(※)。外出が多い営業部門に導入する場合は携帯電話連携機能は必須

※ 例えばMicrosoft Office Communication Serverの場合はWindows Mobile搭載スマートフォンに標準装備されたWindows Live メッセンジャーから、Yoctoなら携帯電話から専用Webページを介してメッセージを交換できる。

  • 添付ファイルの送受信が可能なこと。特に日本の企業や官公庁では「通達」が重要な役割を果たしているため、配布や開封確認をIMにオフロードできると業務効率が上がる(図2
図2 図2●ファイル配布は必須機能の1つ。多くの「通達」を扱う企業や機関であれば、該当する部単位/課単位に簡単に配布できて、さらに各人の閲覧状況(開封確認)を把握できる機能が備わったIMがあれば、効率とコンプライアンスを高められる
  • 導入・運用に手間やコストが掛からないこと。ハードウェアにIMをインストールしたアプライアンス的な導入方法もある
  • 使用ユーザー数の増加に対してスケーラブルであること。特定部門のみに試験的に導入した後で全社展開する手順が取りやすい。サーバハードウェアの適切なサイジングも必要
  • トライアル版が提供されていること。微妙な使い勝手はスペックを見ただけでは分からない。実際に使ってみて、自社の利用目的に沿っているか、機能上かゆいところに手が届くような工夫や配慮がなされているか、といった事項を事前に確認できるとよい
  • 自社のビジネス形態や利用目的に応じて細かなカスタマイズが可能なこと。ポータルなどを導入している企業がウィンドウの配色やボタンの位置を整合させたいような場合に有効だ
  • 複数の拠点が遠隔にあって打ち合わせなどを主体とする場合は、動画(ビデオカンファレンス)や音声(ボイスカンファレンス、IP電話)をサポートしていること

より低コストに――IMの提供形態の多様化

 IMに限らないが、新しいソフトウェアプラットフォームの導入は、企業の情報システム部門にとっては少なからず負担となることは事実だ。本特集の前編でも触れたように、ネットワークやセキュリティに影響しそうだということになれば、情報システム部門の担当者はできるなら入れたくないと考えるかもしれない。

 そこで直接的な作業負担だけではなく、このような「心理的負担」を軽減する目的で、ユーザーの要件に合ったサーバハードウェアを選定・調達し、IMのインストール・構築を行ったアプライアンスとして納入するというサービスを利用する方法もある。ユーザー自らが構築する場合に比べ、情報システム担当者の負荷を大幅に低減できる。さらにこの形態の発展形として、まだ実現はされていないが、IMの機能をASPサービスで利用することも考えられる(図3)。サーバハードウェアを導入する必要がないため、ユーザー企業は低価格で企業向けIMを利用できることになる。

図3 図3●セキュアな利用を実現するASP型IMサービスのイメージ。企業ごとの細かいカスタマイズは難しいが、IMの基本機能を低価格で利用できるようになる

 以上、IMの導入ポイントを解説した。ただ実際のところ、機能のとても細かい部分で使いやすさや使いにくさが決まるケースも多いので、ポイントとして前述したトライアル版などを活用して実際に触れてみるのが最良だと考えている。また、インテグレーションに当たっては、経験豊かなパートナーを選定することをお勧めしたい。

<筆者紹介>

渡邉君人

株式会社Qript 代表取締役CEO

大阪外国語大学在学中にQriptの前身となるクリプトワンソフト設立、代表取締役に就任。中学時代からコンピュータと向き合うプログラマーだが、現在は社長業に注力。エンタープライズ向けのIMを中心に幅広いアプリケーションの開発・販売を行っている。



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