ペーパーレス化によるコスト削減や業務効率改善は、経済不況に直面しているユーザー企業にとって重要な課題の1つである。デジタル複合機はペーパーレス化を実現するためには必須のツールであるが、運用方法を間違えると、コスト増加や業務効率の低下を招きかねない。そこで、本稿ではデジタル複合機を活用した効果的なペーパーレス化を実現するためのポイントについて解説していく。
まず、デジタル複合機とは何かをおさらいしておこう。デジタル複合機とは「文書をデジタル処理し、ネットワーク機能を備えることで、プリンタ、コピー機、FAX、スキャナの機能を1台で提供可能な機器」を指す。これまで複数の機器に分かれていた役割や機能を集約することで、さまざまなメリットが生まれてくる。導入の目的と期待される効果を整理すると以下のようになる。
1. デジタル文書と紙文書の間の無駄な変換処理をなくす
無駄な処理の例
2. 紙文書のデジタル化を促進する
デジタル化の例
3. 複数機器を統合することで電気代などの運用コストを削減する
4. 紙文書を扱う場所を集約することでセキュリティを強化する
上記のポイントは、文書の形態をデジタルデータに統一して各種のITアプリケーションで扱いやすくする「ソフト面の集約」(1と2)と、物理的な機器をまとめる「ハード面の集約」(3と4)の2種類に分けることができる。不要な紙文書を減らすという意味でのペーパーレス化は「ソフト面での集約」によって得られる部分が多い。だが、紙文書がまったく不要になるわけではないので、「物理面での集約」も考慮して、紙文書の活用に必要なコストを減らすことも同時に考えるのが重要である。

しかしながら、デジタル複合機を導入しただけでは十分な効果を得ることはできない。デジタル複合機を活用したコスト削減や業務効率改善を考える際に最もやってしまいがちなことは「現状を顧みず、とにかくプリンタやFAXを撤廃してデジタル複合機に一本化する」ということである。
デジタル複合機自体はあくまで「機器」であって「ソリューション」ではない。従って、運用上の工夫がなければ、期待されていた効果を達成することはできない。よく見られる例としては「デジタル複合機を導入すれば無駄な印刷が減る」といった過剰な期待がある。冷静に考えれば分かることだが、機器が集約されることと、無駄な印刷の抑制とは直接的な関係がない。誰が、どれだけ無駄な印刷をしているのかを把握し、しかるべき強制力のある対処をしなければ、不要な紙文書を減らすことは難しいのが現実だ。
また、それまで各部署に設置されていたプリンタを1カ所に集約したことによって、部署間で“プリンタ争奪戦”が始まってしまうケースもある。さらにスキャナを無理に集約したことで利用頻度が減り、紙文書からのデジタル化を阻害してしまうといったデメリットもある。現状を把握せず、無理に集約を進めることは、多くの弊害を引き起こすことになるので注意が必要だ。
デジタル複合機を効果的に活用し、ペーパーレス化をトラブルなく進めるにはどうすればいいのだろうか? そのためには、次に解説する「現状の把握」「アカウント連携」「ルールの適用」の3つのステップを踏むことが望ましい。
最近のデジタル複合機は、ログ(利用記録)データを蓄積し、それを参照できる機能を備えているのが一般的だ。そのログを基に「自社内のデジタル複合機の利用状況がどうなっているか?」をまず把握することが大切である。それによって、印刷利用が多いA部署とスキャナ利用が多いB部署のどちらに近い場所にデジタル複合機を設置すべきかといった課題に対し、客観的な回答を下すことができる。自社でログを蓄積/参照することが難しい、あるいはこれから新規にデジタル複合機の導入を検討しているといった場合は、販社やSIerのサービスを活用するとよいだろう。大塚商会の「オフィス診断サービス」などはその代表例である。
ログの蓄積/参照だけでは、全体の利用状況を把握することしかできない。真のペーパーレス化を促進するためには、個々の社員の利便性を高めるという視点が大切だ。例えば、「ある社員あてに届いたFAXを紙文書に出力せずにメールの添付ファイルとして転送する」などといったことが挙げられる。こうしたことを実現するためにはデジタル複合機が社員のアカウントを認識している必要がある。最近のデジタル複合機はAcitve Directoryなどのアカウント管理/認証の仕組みと連携できる製品も多い。さらにアカウント連携によって「誰がどんな操作をしているか詳細なログを取ることで、無駄な印刷をしている社員を特定して改善を促す」といった、一歩踏み込んだ無駄の削減を実施することもできる。あるいはデジタル複合機が備えるパネル画面上でユーザー認証を行えば、「認証をパスした場合のみ印刷物を実際に出力する」という運用が実現する。出力された紙文書を他者が無断で持ち出すことによる情報漏えいを防ぐには有効な手段といえる。
デジタル化と利便性向上の双方に着目した最近の例としては、キヤノンの「eCopy ShareScan OP for MEAP」などが挙げられる。デジタル複合機から紙文書をFAXで送ると、その内容が電子メールとして相手方に送られる(あて先、件名、本文などはデジタル複合機のパネル画面上で入力)仕組みである。送信結果を自分のメールボックス内に保存できるので、FAXとメールの双方の送受信記録を一元管理できるわけだ。
アカウント連携が実現したら、次のステップはルールの適用だ。アカウントごとにルールを設定し、無駄な印刷処理やセキュリティ的に好ましくない行為を行えないように制限を掛ける。例えば、「社外向け資料などでカラー印刷を必要とする営業部門以外はカラー印刷を禁止する」といった運用が考えられる。もちろん、本当にカラー印刷を必要とする営業部門以外の社員に対しても禁止してしまうのでは本末転倒だ。「現状の把握」「アカウント連携」といった形で利用状況を個別に把握できるという前提があって初めて、強制力のあるルール提供が意味のあるものになるという点に十分留意する必要がある。
さらに最近ではアカウント単位だけでなく、プログラム単位でも処理内容を指定できるものがある。これを利用すると、「社員がWebページ画面のカラーコピーを取ることを禁止する」(つまり、Webブラウザからのカラー印刷を禁止する)といった設定が可能になる。例えば、日本ヒューレット・パッカードの「HP Color LaserJet CM3530 MFP」などはこうした機能を備えたコンパクトなA4デジタル複合機だ。
このように、現在のデジタル複合機はさまざまな機能を持っている。それを有効活用するためには現状を把握した上で、アカウント連携やルール適用を通じた既存のIT基盤とのコンビネーションが不可欠といえる。また、最近のデジタル複合機はWebサーバ機能が内蔵されているものも多く、実質は「ネットワークに接続されたサーバ機器」と同等になっている。そのため、社外からの攻撃などを防止するためのセキュリティ面での配慮も今後の重要な運用ポイントとなってくるだろう。
| メーカー名 | 機種 | 最大用紙サイズ | カラー/モノクロ | 特徴 | 備考 | 本体標準価格(税別) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| エプソン | LP-M7500FS | A3 | カラー | スキャンした紙文書を本体に差したUSBメモリに直接保存できる「スキャン to USBメモリ」機能など | EpsonNet Service Platform対応 | 105万8000円 |
| キヤノン | Color imageRUNNER iRC3080F | A3 | カラー | 同一文書を異なる通信手段で複数のあて先へ一括送信できる | MEAP対応 | 165万円 |
| 富士ゼロックス | DocuCentre C2101 PFS | A3 | カラー | クライアントPC側にドライバを必要とせず、Webブラウザ画面からの印刷が可能な「CentreWare Internet Services」など | Apeos iiXには未対応(対応機種は「Apeos Portシリーズ」) | 155万円 |
| リコー | imagio MP C1600H SPF | A3 | カラー | スキャンした紙文書をそのままメール送信できる「スキャンto E-Mail」機能など | Operius対応 | 89万8000円 |
| ※コピー/プリンタ/FAX/スキャナの4つを備え、カラー、A3サイズに対応しているものからピックアップ | ||||||
さらにペーパーレス化を促進するためには、デジタル複合機自体の使い勝手を向上させることも忘れてはならない。主要なデジタル複合機メーカーはそれぞれ開発プラットフォームを持っており、それを利用して独自の操作画面などを作成することができる。主要メーカーの製品が搭載するアプリケーション開発フレームワークを以下に列挙した。デジタル複合機選定に際しては、自社で既に利用しているIT基盤との相性なども十分に考慮に入れることが大切である。
| メーカー名 | 開発フレームワーク名称 | 主な開発言語 |
|---|---|---|
| キヤノン | MEAP | Java |
| エプソン | EpsonNet Service Platform | Java |
| リコー | Operius | 独自言語またはJava |
| 富士ゼロックス | Apeos iiX | XMLおよびSOAP |
| シャープ | Sharp OSA | C# |
このように見てみると、デジタル複合機はPCサーバに近い存在になりつつあるといえる。デジタル複合機は複写機の延長でもあるため、中堅・中小企業では情報システムの担当部門もしくは担当者ではなく、総務関連部門で管理されているケースも少なくない。しかし、デジタル複合機の現状や求められる役割を考えると、今後はデジタル複合機をサーバなどと同様にIT機器の1つとしてとらえ、情報システム担当の管轄とすべきだろう。
ソフトウェアベンダー数社でソフトウェア製品の企画、設計、開発、コンサルティング、トレーニングなどに携わった後、ノークリサーチに入社。シニアアナリストとしてITのさまざまな領域の調査・分析に従事し、その成果を記事執筆やコンサルティング活動を通じて積極的に発信している。