2010年02月10日 08時00分 UPDATE
特集/連載

ノーク伊嶋の「中堅・中小企業をITで救いたい!」【第3回】もっと身近に、もっと頼りにしよう「士業のセンセイ」

税務や労務について的確な指示を出してくれる税理士や労務士は、中小企業にとって頼れる存在。ITについて助言するのは「管轄外」だといわれるが、本質的な経営課題を解決しようとする働きかけはあるのだろうか。

[伊嶋謙二,ノークリサーチ]

 中小企業の多くは現状、税務処理や人事・労務関連業務について、税理士、会計士、社会保険労務士といった、いわゆる「士業」の先生にお願いしている。税理士には毎月の会計処理を依頼し、社会保険労務士には社員の入・退社、給与、社会保険料、就業規則について相談したり、社員との雇用契約上の業務処理をお願いしたりする。しかし、士業は中小企業のそれぞれの後方業務が専門である。果たして企業としての本質的な課題、経営者の悩みなどの包括的な相談に乗ってもらえるのだろうか。

 例えば、ITを活用する方法などを実際に提案するのは、士業本来の役割ではないので難しいとの声も聞かれるが、中小企業にとって良き助言をもらえる、最も近い外部の相談者は“士業のセンセイ”方のはずである。実際はどうなのか?

士業は中手企業の最も身近な存在

 いわゆる士業と呼ばれる国家資格を有する人たちは、中小企業にとっては外部に頼れる数少ない存在といえる。実際に税理士は毎月の帳簿チェックや会計処理などの財務指示を行っており、企業との関係は深い。また社会保険労務士(以下、社労士)は、社会保険料から人事の相談まで幅広い業務相談を請け負う。特に総務部門が手薄な企業では、業務を一手に引き受けてもらうこともある。

 以下の表では、税理士、社労士に加え、中小企業診断士やITコーディネータなど中小企業の経営支援に関連する代表的な士業と人数を示している。今回は、一般的な中小企業にとって最も関連の深い税理士と社労士へのインタビューから、中小企業はどのようにこの先生たちとつながっていくべきかを探りたい。

中小企業に関連の深い主な士業一覧
有資格者 所轄官庁 役割
税理士 7万1601人(2009年11月現在) 財務省
国税庁
日本税理士会連合会
税務の専門家として、独立した公正な立場において納税義務者の信頼に応え、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。各種税金の申告・申請、税務書類の作成、税務相談、税に関する不服審査手続きなどを行う
中小企業診断士 8500人(2009年12月現在) 経済産業省
中小企業庁
社団法人中小企業診断協会
経営コンサルティングにかかわる資格の中で唯一の国家資格。資格がなくてもコンサルティングは行えるが、有資格者であれば信頼性が高まり、独立開業する場合には有利
社会保険労務士 3万4223人(2009年9月現在) 厚生労働省
日本年金機構(旧社会保険庁)
労働関連法令に基づく申請書の作成代行などを職業として行うための資格またはそれを職業とするもの
ITコーディネータ 約6000人(2009年12月現在) 経済産業省
特定非営利活動法人ITコーディネータ協会
経営とIT両面に精通し、企業経営に最適なIT投資を支援・推進することができるプロフェッショナル。ユーザーとITベンダー双方の立場を理解し、経営者の立場から真に経営に役立つIT投資をサポートする
※参考文献:各所轄官庁WebサイトおよびWikipedia

 社労士は、顧問企業からの毎月の顧問料をもらうことで成り立つ。顧問契約企業数を何社持つかで基本的な収入が決まる。例えば、30社顧問契約企業があるとすれば、1社当たり月額顧問料4万円の場合は毎月120万円の収入が得られることになる。

 社労士は税理士とは違い、毎月必ず定期的な業務があるわけではなく、一度決めた社員や人事の制度が固まれば特に何もすることがないこともある。つまり、入社や退社、保険料率の変更などのイベントがなければ、何もせずとも顧問料がもらえるわけだ。社労士は一見、楽なビジネスのようにも映るが、今回取材した社労士からは以下のような本音を聞いた。

 「実際、毎月指導することはあまりない。保険料や法改正などがあれば必要になるが、社員の出入りが多くなければ、税理士のように毎月顧問企業へ行くこともなく、何もしなくても顧問料はもらえる。それでいいかどうかは別にして、多くの顧問企業を持つことで、社労士のビジネスの安定性は図れる。ただし、単に顧問先を増やして個々の企業に深くかかわらないやり方だと、中小企業の本質的な改善提案はできないことは分かっている」

 社労士、特に開業社労士は指導する意識が高い人が多いため、自己研さんなどの上昇志向をもともと持っている。しかし、企業からの要求や相談が少ないということもあり、その能力を十分に使い切っていないようだ。

 逆に中小企業の経営者は、社労士に対して恐らく要求が甘い。社労士が経験上得ているナレッジなどを引き出す努力を企業がすることで、社労士は持っているノウハウを吐き出すはずだ。その要求がないために、定型の業務を淡々とこなしている社労士が多いという。つまり、一様に先生が悪いのではなく、そういう頼み方をしている企業にも努力が足りない。だが企業が通常の人事業務以上の要求、依頼を提示すれば、さらに役立つ良いアドバイスや提案をしてくれる可能性が高い。宿題を出せば必ず学んで応えてくれるのが士業の人たちだからだ。

 ただ、取材した先ほどの社労士は、今は税理士や社労士などの士業も商売が難しい時期で顧問料も下がってきており、自らの生き残りを模索中だという。さらに「士業の世界も、顧問料をもらいながら企業と着実に付き合う方法と、税理士や弁理士などの士業同士が共同で仕事をシェアしながらビジネスを展開する方法に二極化している。どちらかといえば、今後は後者が中小企業へのサービス向上に結び付くと考えている」と語っている。

資金繰りの確保が中小企業唯一の課題?

 一方、税理士は社労士とは違い、企業と定期的にやりとりすることが前提になっている。そのためコミュニケーションは社労士よりも多いが、お金にかかわることの指導がほとんどである。そこでは経営のコア事業のアドバイスをしたり、ITの利活用を進めてくれるという期待感は薄い。

 ITに関しては、会計ソフトを顧問先に提供することが一般的だ。TKCのように独自のソフトを有料でレンタルするのが典型的なスタイルだ。しかし税理士は、既に何らかのアプリケーションを持っており、顧問先企業にもそのアプリケーションを使わせることになるので、別の会計ソフトを顧問先に提案することにあまり関心がない。

 「経営者にとって、重要なのは資金繰りをきちんとできること。それを手伝うのが税理士だ。この最も重要な中小企業の課題さえクリアできれば、ほとんど問題ない」と税理士も企業も考えている。

 また税理士は、ITによる経営指導のソフトの存在も知っているが、現実は宝の持ち腐れの場合が多いと感じているという。経営者のほとんどは毎月の資金繰りに追われ、経営戦略にじっくりと時間をかける余裕がない。「経営分析ソフトを利用している企業はほとんどない。実際、単なる数字の分析結果を基に企業がどうすべきか、そして経営戦略を決めることは無理がある。コンサルまでできるようなレベルまで持っていくのは至難の技だ」という。つまり、単にITを導入してもダメということである。

 経営指導ができるかという点でいえば、税理士という単独枠での指導、啓発には限界がある。会計士、社労士、弁理士、弁護士、中小企業診断士などの士業グループが一体となり、いわゆるワンストップサービスとして中小企業の経営を総合的にフォローすることが必要になる。つまり、ワンストップでの中小企業への業務サービスを行うことの重要性は、先に述べた社労士の場合と同じなのだ。

 企業の観点で見れば、税理士には単に資金繰りだけではなく、社労士同様に指導してもらえるポイントが多い。税理士事務所は社労士、弁理士などが連携して営業していることが多いため、さまざまな顧問先の実例を持っている税理士は、実は経営に生かせる多くのヒントを持っており、頼めば無料で教えてもらえる場合もある。お金(資金繰り)の先には事業継続という本質があることを忘れてはならない。常にこの点を意識して付き合うべきだろう。

センセイと公的な仕組みを使い切ることが肝心

 本音をいえば、お金を掛けずに支援をしてもらいたいと思っているのが中小企業である。そこで最も頼りにしているのが、国策であり自治体や地元の経済団体である。しかし、企業にとってそれらが遠い存在であるのも事実だ。どのような中小企業の支援策が講じられているのかが分からない場合が多い。経営課題を解決する自立した方法を見いだすことが、現実的には中小企業にとって高い壁になっている。

 日本の中小企業は何かを変えたり始めるのには保守的であり、皆が使い始めないと進んで新しいことには取り組まない傾向が強い。SaaS(Software as a Service)のような安くて便利とされているサービスにしても、自ら学んで利用するということにはなりにくい。士業の先生や商工会、販売店など外部の強い後押しや提案があって、ようやく検討に入る。ここで例として「J-SaaS」に触れておこう。

 J-SaaSとは、経済産業省の主導によって運用されているSaaS形態のサービスである。2009年3月にサービスを開始しており、中小企業を対象に各種の業務アプリケーションを提供している。SaaSの基盤構築には大きな投資がなされ、今後のITのサービス化への橋渡しとして期待が大きかった。

 このJ-SaaSへの認知度を調査した結果が下のグラフである。認知度は最も高い従業員数帯でも約30%にとどまり、非常に低い。J-SaaSが主な対象としている20人未満の従業員数帯では、認知度が16.0%となっている。さらに実際に活用している割合は、最も高い従業員数帯でも4.0%となっており、ごく一部のユーザー企業が利用するにとどまっている。せっかく税金を掛けて構築したIT基盤が宝の持ち腐れ状態にある。

画像 J-SaaSの認知度と活用状況

 サービスインして間もない時期(調査は2009年5月)なので、様子見状態であるということは理解できるが、それにしても認知率の低さが問題である。良い仕組みがあっても、中小企業に情報が届いていない。プロモーションがお粗末としかいいようがない。頼りにしている士業の先生たちも知らないし(今回取材した社労士、税理士も残念ながら知らなかった)、知らせる活動もほとんどない状態だ。

 『週刊BCN』によると2009年11月現在、J-SaaSの契約企業数は約3000社で、当初計画していた2010年3月時点の50万社に遠く及ばない状況になっている。仕組みを作っても、中小企業の経営者に直接届ける人や方法をJ-SaaSプロジェクトは具体的に考えてはいなかった。結局、誰も積極的に中小企業へ提案なり営業をしなかったということになる。

 中小企業では経営者が自らネットワーク上で、欲しいアプリケーションを「購入して利用する」ということはほとんどなく、士業の先生や販売店の働きかけによって、従来の業務アプリケーションを活用しているというステージにまだいる。あえてSaaSに切り替える理由もメリットも感じてはいない。つまり中小企業にとってSaaSは、IT利用形態の選択肢の1つにすぎないと理解しなくてはならない。

 企業がITに求めているのは「冗費削減、効率性/生産性向上、サービスや品質の向上」などの効果だ。では、中小企業が取るべき最善手は何なのか。答えを見いだしたいと考えている企業は、最初の一歩を足元がきちんと見える所に踏み出すことだ。その行き先をサポートするのが士業であり、国策の末端の組織や団体である。

 少なくとも、手を差し出せば応える人や仕組み、ツールはある。その支援を受けられる権利を行使するための、最低限の努力をユーザーは惜しんではならない。その前提として経営を前進させる、ITを理解するという基礎体力と気力を持つべきだと筆者は考える。


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