クラウド時代のデータセンター
データセンタービジネスに巻き起こる価格破壊とサービスの高度化
多くの企業にとって、ITインフラの運用管理の負荷軽減とコスト削減は重要な課題だ。あるデータセンター事業者の最近の動きを追いながら、データセンタービジネスに何が起こっているのかを探ってみた。
低価格、高パフォーマンスの背景
データセンターサービスについては、初めて利用を検討するユーザー企業もあれば、より効率的に低コストで運用できる事業者を探しているユーザー企業もあるだろう。いずれにせよ、ITインフラにかかわる負荷軽減とコスト削減はすぐにでも取り掛かりたい施策の1つだ。例えば、関係が深かったSIerに運用と保守も任せていたため割高なデータセンターを利用するしかなかったが、コスト削減のため新しい預け先を探しているユーザー企業の声を最近よく聞く。付き合いの長い1社にすべて預ける方が安心だしコストも安い、という考え方は必ずしも常識とはいえなくなっているのだ。
一口にデータセンターといってもそのタイプはさまざまだ。充実したネットワーク設備を備える一方で、電源容量などファシリティ面で物足りなさを感じたり、堅固なセキュリティサービスを備えるなど設備面は充実しているが、郊外に設置されておりコストも高め、といった違いである。また、電源容量が豊富で価格も比較的安いがフルサポートに対応してもらえず、トータルコストは高くなる可能性が出てくるケースもある。
価格とサービス内容の兼ね合いは、選択する側としては悩むところではある。また、価格やサービス内容は魅力的だが、トラブルの連続というのも困る。今回は、データセンターサービス事業者の代表例として、さくらインターネットに話を聞いてみることにした。
垂直統合型のデータセンターサービスとは
「当社では、サーバ、データセンター、サービスまでをすべて自社で作り上げ、ユーザーの視点で常に一歩進んだサービスを提供することをマインドにデータセンター事業を展開している。国内のインターネットサービス事業者で、こうした垂直統合型のデータセンターサービスを提供できているのは、当社以外にはない」と話すのは、さくらインターネット社長の田中邦裕氏だ。
さくらインターネットは、1996年にレンタルサーバ事業からスタートし、翌1997年にはデータセンターを構え、いち早く専用サーバサービスおよびハウジングサービス事業に着手。1999年には、当時郊外型が主流だったところに、都市型の自社データセンターを大阪・本町と東京・池袋に開設し、迅速なメンテナンス対応を実現している。
またサーバについても、メーカー製品を使用せずにホワイトボックスとオープンソースOSを活用した低コスト・高性能のオリジナルサーバを自社開発。こうした、設立当初からの一貫した垂直統合型の取り組みが、同社データセンターサービスの圧倒的なコストパフォーマンスを支えている。例えば法人向けの専用サーバサービスでは、Core 2 Duoモデルのオリジナルサーバを使う「ベーシックプラン」(メモリは標準で2Gバイト、HDDは500Gバイト、回線10Mbps)で初期費用7万9800円、月額料金8800円といった具合だ。
低コスト・高性能をうたうオリジナルサーバに対して、ユーザーが不安を感じることはないのだろうか。田中氏によると、自社データセンターを開設したころは確かに不安視する声もあったが、今ではまったくないという。
クラウドサービスへの対抗策を検討
現在、さくらインターネットは、大阪に本町、堂島の2カ所、東京に池袋、東新宿、西新宿、代官山の4カ所、計6つのデータセンターを構えている。サーバ稼働数は、2009年3月末時点で1万台を突破。サービス提供開始から12年で、国内有数の規模に拡大している。
「今後は、さらなるスケールメリットを出すために、限られたスペースの中にいかにサーバを収容できるかが重要なポイントになる。そのため、当社では自社開発サーバを活用した省電力と高収容への取り組みに力を注いでいる」と田中氏。実際に、同社が2009年に開発した1Uクォーターサーバは、インテルAtomプロセッサおよび2.5インチHDDを採用することで、消費電力と熱の発生を大幅に抑えながら小型化に成功。1ラック最大160台という高収容率を実現している。
さらに同社では、1Uクォーターサーバとともに、1UハーフL型サーバも開発。このタイプには、3.5インチHDDやインテルXeonプロセッサを搭載することもでき、1ラック最大80台まで収容することが可能となっている。田中社長は、「まずは、省電力CPUで高収容率を追求し、そのノウハウを高性能CPUにも応用していく。現在は最大80台だが、もっと高収容が可能になれば、ホワイトボックスでありながら大手SIerのデータセンターサービスに匹敵する性能を低コストで提供できるはず」とし、将来的にはハイエンドのデータセンターニーズまでサービス領域を拡大していく考えを示している。
このように、順調に事業を拡大しているさくらインターネットだが、最近になって新たなライバルの影が見え隠れし始めてきたという。「海外のGoogleやAmazonが提供しているクラウドサービスが、当社の専用サーバサービスと競合するようになってきた。当社のサービスはコスト面では負けてはいないが、料金体系は月額制が基本。これに対し、クラウドサービスは従量制で利用できる。ネット上からすぐに利用を開始して自由なタイミングで解約できるのは、クラウドサービスの大きな強みだ。現時点では、競合する案件はそれほど多くないが、このニーズは氷山の一角であり、その下に大きな潜在需要が眠っているはず」と田中氏は分析する。
もちろん同社では、既にクラウドサービスへの対抗策を検討し始めている。「まずは、専用サーバの料金体系をさらに引き下げ、月額制でもクラウドサービスを上回るコストパフォーマンスを提供していく。その一方で、当社もクラウドの強みを取り入れ、課金体系を見直していく必要がある。本来持っているサービス自体のクオリティは高いので、時間課金ができるようになれば、既存のクラウドサービスとも十分戦えるはず。ただ、将来的にすべてのサービスが時間課金サービスになるとは考えていない。専用サーバサービスとクラウドサービスは、それぞれメリット、デメリットがあり、ユーザーの用途に応じてハイブリッドに展開していくことになるだろう」と田中社長。「ユーザーの視点からクラウドを生かした新たなサービスを提案し、2、3年後にはクラウドサービスの市場でも先頭を走っていたい」と意欲を見せる。
MSP事業への進出で新たなユーザー獲得を
また、さくらインターネットの今後の戦略として忘れてはならないのが、米NetEnrichとの業務提携によるマネジメントサービスプロバイダー(MSP)事業への本格進出だ。NetEnrichはインドにオフショアの拠点を展開しているITインフラ遠隔監視管理サービス企業だ。このMSP事業は、双日グループ内のシナジー効果を生かした初めての業務提携という意味でも、その展開は注目されている。
「今まで当社は、ハウジングサービスにおいて、ハードウェアやOSまではサポートしていたが、アプリケーションなどのサポートには対応していなかった。しかし、ユーザーの立場になってみれば、ワンストップですべてを委託したいというニーズは大きいと考えた。そこで、自社のリソースでは足りない部分をNetEnrichとの提携によって補い、MSP事業に参入することにした。これを機に、ITの知識が少ない一般中小企業のニーズも開拓していく」(田中氏)考えである。
この提携により、障害が発生するとアラートが上がり、障害内容の切り分けを両社エンジニアが判断。そしてインドでは論理的な対応、国内では物理的な作業を行うという対応を行っている。また同社のMSP事業では、こうした作業の流れをすべてチケットシステムで記録するとともに、作業画面をストリーミングで保存している点も大きな特徴で、利用者に対してより信頼性の高いマネジメントサービスを提供していく。
そして、MSP事業への本格参入を布石に、同社では新たなデータセンター開設に動き出そうとしている。田中氏は、「従来は、新しいデータセンターの開設は考えられなかったが、経済状況の悪化で市場環境が大きく変わってきた。他社の都市型データセンターが値崩れを起こし、ほとんどのラックが埋まってきている一方で、新規データセンターに投資できる企業はほとんどないのが現状。それならば、当社が先手を打とうと考えた。次は都市型だけでなく、北海道や沖縄など地方の超大型データセンターも検討している。地方は、都市型よりもファシリティ面でさらにコストを抑えることができるため、コストパフォーマンスを追求したクラウドによるホスティングサービスの拠点として活用できる」と新データセンター開設への展望を明かす。
また、クラウドの技術を活用して従量制の料金体系を新たに打ち出すという動きも興味深い。テスト環境を一時的に構築したいといった場合でも、これまでなら1カ月単位でしかサーバを借りられないためになかなか許可が出なかったというケースはよく聞く話だ。
さくらインターネットのように、レンタルサーバ事業からスタートして垂直統合型のサービスを進めてきた事業者にとって、今は追い風が吹いているといっていいだろう。データセンターの利用にも価格破壊の波が確実に迫ってきている。既存のデータセンターから低価格でサービスが充実した別のデータセンターへ乗り換える動きは今後ますます増えてくるに違いない。
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