2010年08月10日 08時00分 UPDATE
特集/連載

コラボレーションツールはなぜ業績改善に効果が出ないのかユニファイドコミュニケーションが社内情報共有にもたらす3つの相乗作用

コミュニケーションの円滑化を標ぼうするコラボレーションツール。だが「業務改善」の観点では、ユーザーの評価は厳しい。業務効率を上げるには、コラボレーションと実業務とのギャップを埋める必要がある。

[岩上由高,ノークリサーチ]

 社内のコミュニケーションを円滑化し、業務効率を改善することはユーザー企業にとって永遠の課題といえる。その実現のために、これまで多くのコラボレーションツールが登場してきた。しかし、ユーザー企業における社内コミュニケーションが劇的に改善されたとはいえない状況だ。

 そこで本稿では、ユニファイドコミュニケーション(以下、UC)の重要な連携プラットフォームとなるコラボレーションツールが社内コミュニケーションの改善に大きな成果を挙げられない要因という、従来とは少し違う角度からUCの効果を考えてみたい。

きっかけはメール過多状態の解消

 インターネットが普及し始めた初期段階ではメールが電話やFAXに取って代わり、口頭や紙面でのやりとりから大きな変化を遂げた。メールが企業活動の迅速化/効率化に大きく貢献してきたことについては、議論の余地はないだろう。だが、社内コミュニケーションの手段としてメールに依存し過ぎる傾向が徐々に強くなり、新たに以下のような課題も浮かび上がってきた。

  1. 一時的かつ相手が限定された対話もメールを使って同報する
  2. 本来は顔を合わせて行うべき会合をメールで済ませてしまう
  3. よく似た内容の文書を添付したメールが多数はんらんしてしまう

 いずれも多くの方が経験されたことのある場面ではないだろうか? こうしたメール過多の状態を解消するために、これまでさまざまなコラボレーションツールの活用が提示されてきた。1であれば、ちょっとした連絡事項にはメールの代わりにインスタントメッセンジャーを利用すればよい。2はスケジューラーや施設予約を活用して、関係する社員がきちんと顔を合わせて議論できる機会を維持する必要がある。3はファイル共有や電子会議室を活用し、同じ文書の複製が無制限にやりとりされる状態を防ぐという対策が考えられる。

ユーザーによるコラボレーションツールの業績改善評価、やや厳しめ

 このようにスケジューラーや文書共有といったコラボレーションツールはメール過多状態を解消し、社内コミュニケーションを活性化する手段として有効であるはずだ。だが、業績改善という経営的視点に立った場合、必ずしもユーザー企業の期待に応えられていない現状がうかがえる。

 図1のデータは年商5億〜500億円の小中規模企業に対して「業績改善に役立つIT活用」を尋ねた結果(2010年5月に調査実施)である。

図1 図1 業績改善に役立つIT活用

 選択肢の中でコラボレーションツール活用に該当するのは、「グループウェアによる社内コラボレーション改善」と「無料や低額で利用できる情報共有サービス(ファイル共有やスケジュール管理など)」である。会計、顧客管理、生産管理といった基幹系システム改善やビジネスインテリジェンスと比べて、コラボレーションツール活用の業績改善効果はやや低いという傾向が見られる。つまり、ユーザー企業としてはコラボレーションツールを活用するよりも、基幹系システム改善やビジネスインテリジェンスに取り組んだ方が業績改善の効果は高いと考えていることになる。

 もっとも、社内コミュニケーションよりも本業に直結した業務を改善した方が業績改善効果はもちろん高い。だが、実際に企業ユーザーの生の声を聞いてみても、「コラボレーションツールはどれを導入しても同じ」「コラボレーションツールによって日々の業務シーンが大きく変わるわけではない」といったように、改善効果をあまり期待していない様子がうかがえる。

コラボレーションツール上の情報と業務実態の「ズレ」が原因

 では、なぜユーザーが期待した通りの社内コミュニケーション改善効果が得られないのか? そこには「メールから○○○へ」といったコラボレーションツールの乗り換えだけでは解決できない根本的な問題がある。それを示すために、まずは幾つかの具体例を見てみよう。

業務シーン例1:全員がそろわない会議

 スケジューラーや施設予約によって、関係社員の予定を合わせて顔を突き合わせた打ち合わせをするというのはどのユーザー企業にも見られる日常の一場面だ。しかし、「営業部長が急きょ出席できなくなった」「事業部長が客先から帰るのが遅れて、残り10分になってようやく現れた」といった場面も少なくない。

 欠席したり遅れたりする経営層ないしは社員が、打ち合わせにおける重要な意思決定者であることも多々ある。その結果、似たような内容の会議を再度日程調整して開催するか、議事内容を詳細に記した資料を作成して意思決定者に説明するといった手間が生じることになる。

業務シーン例2:使われないファイル共有

 最近では、無償ないしは安価に利用できるファイル共有サービスも多数登場してきている。インターネットを介して共有できるので、コンテンツ作成業者に依頼したパンフレットの校正確認などといった社外とのやりとりにも利用できる。簡易なチャット機能を備えたものもあり、その場で意見交換をすることも可能だ。

 だが、そうやって交わされた内容をその場でファイルに反映できるわけではない。修正を行った上で再度アップロードする必要がある。修正結果をいきなり全員で共有すると、意見が交錯する恐れがあるので、まずは、責任者とコンテンツ作成業者の間だけでメールでやりとりするといった流れにもなりがちだ。となると、「最初からメールでやりとりすればいいのでは?」という気にもなってくる。

業務シーン例3:チャット状態に陥るメール

 短い言葉のやりとりを頻繁に行うようなトピックの場合は、メールではなくインスタントメッセンジャーの方が適している。そうした基準で使い分けを推奨しているユーザー企業も少なくないだろう。しかし、最初はメールでのやりとりが適したトピックであったが、特定の社員が全員に同報する必要のない細かいポイントについて熱い議論を始めてしまい、周囲がそれをじっと見守るといった事態に陥るケースがある。途中でインスタントメッセンジャーに切り替えればいいのだが、最初にメールから始まってしまうと切り替えが難しいという面もあるようだ。

 業務シーン例1の背後にあるのは、「業務は必ずしもコラボレーションツールに記述された情報に従って進むわけではない」という現実だ。スケジュールに登録された日時に全員が集まれればよいが、実際の業務ではその通りに行かないことも多々ある。

 また業務シーン例2における問題は、「『結果』は共有できているが、『過程』が共有できていない」という点にある。修正・校正といった作業過程も含めて共有できなければ、本当の意味で業務効率を改善することは難しい。

 そして業務シーン例3は、「最適なコミュニケーション手段は動的に変化する」ことを示す例だ。複数のコラボレーションツールを導入していても、コミュニケーションの状態が時々刻々と変化するのに合わせて臨機応変に切り替えができなければ、メール過多状態と同じ結果を招いてしまうわけだ。

コラボレーションツールが管理する情報と現実とのズレを埋めるUC

 このように見てみると、コラボレーションツールがうまく活用されない要因がだんだんと明らかになってくる。それは「コラボレーションツールが想定している状況と、実業務で起きる事象にギャップがある」ということだ。すべての社員がスケジューラーに従って行動し、共有すべき成果物を即座に作成することができ、規律に従ったツール活用をすれば、コラボレーションツールによる業績改善効果は目覚ましいものとなるだろう。

 だが現実は、多くのユーザー企業においてそうはなっていない。上記の例に挙げたように、コラボレーションツールの枠内だけではカバーできない事象が日常的に起きている。ユーザー企業が「コラボレーションツールだけでは社内コミュニケーションがうまく改善されない」と考える最大の要因は、まさにここにあるのだ。

 この「コラボレーションツールが想定する状況と実業務で起きる事象とのギャップ」を埋めるものが、実は「UC」なのである。UCというと、IPテレフォニーやIP-PBXといったネットワークインフラの観点で語られることが多い。それ故に、コラボレーションツールが抱える上記の課題を解決できる手段として注目されることが少なかった。

 では、UCの併用によって上記に挙げた3つの事例がどのように解決されるのか、見てみよう。

業務シーン例1の解決策

 UCにおけるビデオ会議やWeb会議は、遠隔地を結ぶためだけのソリューションではない。社内会議であっても、「議事を記録する」という機能を有効に活用することができる。リアルな映像記録を保持しておけば、欠席者や遅刻者のためだけに決議の詳細な経緯を説明する手間を大幅に減らせる。「スケジュール通りに行動するわけではない」という現実問題を、「会議の記録」という手段でカバーするわけだ。

業務シーン例2の解決策

 ビデオ会議やWeb会議には、もう1つ活用すべき機能がある。それはデスクトップ共有だ。特定ユーザーのデスクトップ環境を参加者全員で共有することができる。共有された文書を修正するといった際にも、出された意見をその場で即座に反映して全員に確認してもらうことが可能だ。コラボレーションツールだけでは結果しか共有できなかったが、UCの併用によって作業過程の共有も可能となる。

業務シーン例3の解決策

 UCには「TPOに応じて最適なコミュニケーション手段を適宜切り替える」という基本概念がある。この点が、さまざまなコミュニケーション手段を単に寄せ集めたものとUCとの大きな違いだ。

 統合コミュニケーションツールのようなUCに対応したクライアントソフトウェアであれば、最初はメールでやりとりし、途中から特定メンバーのみとチャットし、その結果をまとめて全員にメールで送って情報共有しておくといったことが1つの画面内で簡単に行える。「最適なコミュニケーション手段は動的に変化する」という現実を前提に据えれば、メール過多に陥る心配もなくなってくる(図2)。

図2 図2 UCの併用によるコラボレーションツールの課題解決例

コラボレーションとUCの融合はもう始まっている

 このように、コラボレーションツールによる改善効果を最大限に発揮させるためには、“実業務とのギャップを埋める手段”であるUCを併用することが非常に有効である。実は、主要な大手ベンダーはこれにいち早く気付いており、既に活発な動きを見せている。ネットワークインフラの観点からは、シスコシステムズがメールソフトウェアベンダーのPostPathを買収し、Web会議サービス「WebEx」と統合することでコラボレーションツールへ進出する気配がある。一方、コラボレーションの観点ではExchange ServerやSharePoint Serverを擁するマイクロソフトが、UC基盤であるOffice Communication Serverの強化を進めている。コラボレーションとUCのそれぞれの方向から、互いに連携を深める状況が進んでいるとみていいだろう。

 最後に、上記に述べた解決策を実現するUC製品例を表1に列記しておく。UC製品の中には、既存のコラボレーションツールと連携できるものも多い。これからのコラボレーションツールの選択において重要なポイントは、ここに挙げたようなUC製品ないしはそれと同等の各種ソリューションと連携ができるかどうかである。「コラボレーションツール単独ではなく、UCの併用によって実業務とのギャップを埋めること」。これこそが、これからのコラボレーションツール活用の最大の秘訣(ひけつ)といってもよいだろう。

表1 コラボレーションツールと連携するUC製品例
製品名 社名 利用イメージ 備考
Cisco Unified MeetingPlace シスコシステムズ Unified Meeting Place
《クリックで拡大》
社内設置型のビデオ会議/Web会議製品
WebEx シスコシステムズ WebEx
《クリックで拡大》
ASP/SaaS形態のWeb会議サービス
IBM Lotus Sametime 8.5.1 日本アイ・ビー・エム Lotus Sametime
《クリックで拡大》
Web会議など各種UCを実現するサーバ製品
Microsoft Office Communications Server 2007 R2 マイクロソフト Office Communication Server
《クリックで拡大》
Exchange Serverと連携した統合メッセージングやWeb会議機能などを備えるUCサーバ製品
Microsoft Office Communications Online マイクロソフト Microsoft Office Communications Online
《クリックで拡大》
UCを実現するクラウドサービス
Microsoft Office Communicator 2007 R2 マイクロソフト Office Communicator
《クリックで拡大》
Microsoft Office Communications Server 2007 R2やMicrosoft Office Communications Onlineのクライアントとして利用でき、Outlookと連携したメール/インスタントメッセンジャーの柔軟な切り替えが可能

岩上由高

ノークリサーチ シニアアナリスト

ソフトウェアベンダー数社でソフトウェア製品の企画、設計、開発、コンサルティング、トレーニングなどに携わった後、ノークリサーチに入社。シニアアナリストとしてITのさまざまな領域の調査・分析に従事し、その成果を記事執筆やコンサルティング活動を通じて積極的に発信している。



この記事を読んだ人にお薦めのホワイトペーパー

この記事を読んだ人にお薦めの関連記事