最悪/最高のタイミングで起きた3日間の空白
BlackBerryのシステム障害でiPhoneに傾くヨーロッパ市場
多数の国がひしめき日本や米国とは異なる市場を形成してきたヨーロッパ。彼らの視点から、米国市場とBlackBerryのシステム障害の影響を検証する。
私が米国を初めて訪れたとき、BlackBerryが広く普及しているのに驚かされたものだ。ほとんどのビジネスユーザーは、カナダのResearch In Motion(RIM)のBlackBerry端末、あるいは当時発売されたばかりの初代iPhoneを使っていた。そのころ、ヨーロッパではBlackBerryをあまり見掛けることはなかった。最もよく見掛けたのがフィンランドのNokia製の端末、そして米国の場合と同様、とてもトレンディーな初代iPhoneだった。
それから数年後、Nokia製端末を取り巻く状況はもちろん変化したが、BlackBerryはいまだに北米ほどの市場シェアを獲得するに至っていない。RIMのプラットフォームは技術マニア向けの製品で、使いこなすには高度な技術知識が必要だと考えられているからだ。そういった状況にもかかわらず、このスマートフォンを使っているユーザーのほとんどが、同ブランドに高い忠誠心を抱き、他の機種を試そうともしないくらい満足している。
BlackBerryの落日
だがそれはつい最近までの話だ。現在は状況が違う。RIMはわずか3日間で、ヨーロッパ(および極東やアフリカなどの地域)のユーザーが、BlackBerryからiPhoneあるいはGoogleのAndroidやMicrosoftのWindows Phone搭載スマートフォンに乗り換えることを真剣に検討するという状況を招いてしまったのだ。
BlackBerryユーザー以外の人々にも既に知れ渡っているその理由とは、ヨーロッパ全域ならびに世界の多くの地域で同端末が3日間にわたって使えなくなったことだ(編注)。
編注:2011年10月10日にヨーロッパ、中東、インド、アフリカで障害が発生し、同12日にカナダ、中南米、米国に波及。13日に全地域での通信が回復した。RIMはアプリケーションの無償提供やテクニカルサポート1カ月無料などの補填策を発表している。
しかも、ユーザーが同端末を購入した最大の目的である電子メールの送受信ができなくなったのだ。Webブラウジング、BBM(BlackBerry Messenger)、Facebook、Twitter、Foursquareといったサービスも利用できなくなった。ロンドン近郊にあるRIMのオペレーションセンターで大規模なシステム障害が発生し、そういった事態に備えたバックアップ対策も機能しなかったのが原因だ。パニックに陥った同社は3日間にわたってシステムを復旧することができず、危機管理広報も後手後手に回った結果、ただでさえ厳しいヨーロッパ市場での事業崩壊という事態に突き進み始めた。
この障害はRIMにとって自殺行為ともいえる重大な過失だ。ライバルに対する最大の優位性、すなわちユーザーからの絶大な信頼を3日で失ってしまったのだ。2011年10月初めの時点までは、Apple、Google、Microsoftは、BlackBerryが享受しているような忠誠心をiPhone、Android、Mango(Windows Phoneのコードネーム)のユーザーに抱いてもらうのは夢のまた夢だと考えていた。
BlackBerryを試した人の大多数は、ユーザーインタフェースが使いにくく、どちらかと言えば技術マニア向けのプラットフォームだという印象を抱きながらも、移動中に電子メールを扱う機能の洗練度の高さにすぐに夢中になった。はっきり言って、BlackBerryほど簡単に、かつ気持ちよく電子メールを送受信できるスマートフォンは存在しない。
それには多くの理由がある。まず、BlackBerryが素晴らしい物理キーボードを備えていることがある。加えて、ヨーロッパのキャリアは他のスマートフォンでは用意されていない好条件の定額データプランを提供している。また魅力的なローミング対応データプランをBlackBerryユーザーに提供しているキャリアも多い。これは多くの国と多数のキャリアがひしめくヨーロッパでは重要アドバンテージだ。
しかし最大の理由は、真のプッシュ型電子メールをBlackBerryユーザーに提供するソフトウェアシステムが用意されていることだ。こういったシステムは他のプラットフォームには存在しない。
確かに、iOS、Android、Windows Phoneの電子メールシステムも年々改良されているが、忠誠心が極めて高いBlackBerryユーザーはこれらのシステムを試そうとせず、またその必要もないと考えてきた。しかし先日の障害で彼らは他社のプラットフォームを試さざるを得なくなった。そして大量のユーザーがそのまま乗り換えてしまうだろうというのは、ノストラダムスでなくとも予言できることだ。
BlackBerryへの逆風はiPhoneへの追い風
今回の出来事は、RIMにとって最悪のタイミングで起きた。一方、Appleにとっては最高のタイミングだった。iPhone 4Sが発売されたのは、RIMのシステムが最終的に復旧した翌日のことだ。そしてスティーブ・ジョブズ氏の死去はiPhoneに対するメディアの関心を一段と喚起し、他のモバイルインターネット端末を検討せざるを得なくなった怒れるBlackBerryユーザーの頭に最初に浮かぶ製品がiPhoneという状況を生み出した。
最近では、Appleがやることは何でも称賛され、これまでApple製品を一度も使ったことがない人までが同社製品を購入することで同社の共同創業者であるジョブズ氏に対する敬意を表することがトレンドになっている。このため、BlackBerryから大量流出するユーザーのほとんどが最新のiPhoneに向かうことになりそうだ。
今回の障害は、BlackBerryのオーナーのみならず、キャリアも激怒させた。キャリアには何の関係もないことなのに、BlackBerryがただの携帯電話と化してしまったことに対してユーザーから責任を問われているからだ。この障害でキャリア各社が経済的損失を被るのは間違いない。BlackBerryユーザーが3日間にわたってデータトラフィックを発生させなかったからだけでなく、サービス障害に対してキャリアが何らかの補償を行わなければならないからだ。既にBlackBerryユーザーへの10月分の請求金額を減額することを発表したキャリアもあり、彼らがRIMに損害賠償請求の訴訟を起こすことも十分に予想される。
RIMが市場シェア(特にヨーロッパ市場)と収入が減少する数少ないスマートフォンメーカーの1社であるという状況の中、同社全体の基盤となるシステムで起きたこのような機能障害は、BlackBerryにとって致命的な災害となる可能性がある。
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