2011年11月14日 09時00分 UPDATE
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医療機関のIT導入事例:クラウド型CRM「NetSuite」データを「攻めの経営」に生かすべく、CRMを刷新した「八王子クリニック」

コールセンター業務でCRMシステムを活用してきた八王子クリニックは2011年5月、そのシステムをクラウド型CRMシステム「NetSuite」に刷新した。狙いは患者データの有効利用にある。

[岡崎勝己]

人間ドックのメリットを説明するために

photo 八王子クリニック

 東京都八王子市の医療法人社団 斗南堂八王子クリニック(以下、八王子クリニック)は、高度な先進医療が受けられる「自費診療」のメリットを生かした医療サービスの提供に力を入れている。

 八王子クリニックは「働く人を応援します」を基本理念として、土・日曜日も診療を行う夜間診療所として1990年に開院。その後、レーザーメスによる痔の日帰り手術を1995年に開始し、クリニックと直結した高齢者用住宅「シルバーヒルズ八王子」を2005年に開設するなど、時代のニーズに合わせた新しい医療サービスの提供を進めてきた。

 特に、同クリニックが“予防医療”の観点から力を入れているのが人間ドックだ。CTによる心臓の冠動脈撮影を世界で初めて人間ドックに組み込んだ「マルチスライスドック」を2003年に開始した。また、MRIとマルチスライスCT、内視鏡による1泊2日の「全身ドック(脳・心臓・胃・胸腹部・大腸・脊椎)」サービスを2006年に開始。さらに最先端の技術をできる限り取り入れるため、大学病院と同等の検査環境を整備するなど施設面も充実させてきた(関連記事:電子カルテ導入で診療の質が向上した「まつばらクリニック」)。

 とはいえ、医療に関する深い知識を持つ患者は多くない。高水準の人間ドックを多くの患者に利用してもらうためには、そのメリットを分かりやすく伝えるとともに、患者に最適なメニューを親身になって提案する取り組みが極めて重要となる。

 そこで同クリニックが積極的に利用しているコミュニケーションツールが電話だ。専用の電話相談窓口を開設し、さらにCRM(顧客関係管理)システムを導入することでより質の高い電話対応を目指している。

photo 八王子クリニックの井上氏

 八王子クリニックで事務長を務める井上敬介氏は「電話による人間ドックの予約では患者の不安や疑問を解消し、希望に沿った検診メニューを提案する必要がある。そのため、1件当たり15分程度の会話が発生する」と説明する。スタッフには検診を円滑に進められるよう、事前に既往症などの情報を聞き出すことが求められる。また、専門的な知識が求められ、1人当たりの確認項目も多い。井上氏は「CRMシステムはそうした業務における効率化の切り札になると考えた」とシステム導入の狙いを説明する。

情報の活用を阻むシステム構造の壁

 八王子クリニックは2008年、最初のCRMシステムとしてあるベンダーのクラウド型CRMシステムを導入した。初期導入コストを抑えられ、スモールスタートが可能なことなどを評価しての採用だった(関連記事:導入検討企業の6割がSaaS型に注目! アンケートで分析するCRMのユーザー動向)。

 井上氏によると「CRMシステムは顧客対応の質の向上という当初の目的に加え、人間ドックの患者情報を一元化するというメリットもあった」という。名前や住所、性別、年齢などの患者の基礎データを集約でき、次の来院を促すために患者へのダイレクトメール送信といったアクションを起こせる環境が整備された。「病院経営の観点から考えれば、その意義は極めて大きい」と井上氏は強調する。

 その後、管理すべきデータが増え続ける中、既存システムの操作性などに課題が出てきたという。特に問題視されたのが「データベース(DB)を1つしか利用できないシステム構造」だった。具体的には、患者の基礎データと来院歴などの履歴情報を同一のDBテーブルで管理していたため、「全てのデータをMicrosoft Excelの同一シート上で管理しているようなもので、時系列などの切り口で柔軟にデータを抽出することができなかった」(井上氏)。保有している情報を十分に活用できないという状況だった(関連記事:読めば分かる! BI(ビジネスインテリジェンス)ツールの種類と必要な機能)。

photo 八王子クリニックの渡邊氏

 また、八王子クリニックではコールセンター業務の見直しを継続的に実施してきたが、見直しに伴うシステム改修が必要となりその都度改修コストが発生していた。さらにシステムの拡張性が低く、経営状態を把握するためにも必要なレセプトコンピュータとの連携が困難であった(関連記事:前年比2倍以上の普及率、レセプト請求オンライン化の現状)。

 八王子クリニックの人間ドック課 課長で診療放射線技師の渡邊義雄氏は「システム運用を続けると、各種の改善項目が見つかった。その結果、システムに求める機能レベルが高まり、既存システムでは限界を感じるようになった」と振り返る。さらに、CRMシステムのサービス利用料の改定によって月額利用料金が1.5倍になることが分かり、八王子クリニックではシステムの抜本的な見直しを決意。2010年秋から代替システムの検討に着手した。

ITシステムの導入にはパートナーの協力が不可欠

 八王子クリニックが次期システムに求めた要件は、以下の4つだった。

  1. クラウド型CRMシステムである
  2. さまざまな条件、切り口でデータを抽出できる
  3. 業務見直しに伴うカスタマイズが容易に実施できる
  4. 他システムとの連携など、システムの拡張性が確保されている

 2010年末、複数の候補の中から八王子クリニックが最終的に選んだのが「NetSuite」であった(関連記事:ネットスイート、顧客管理とWeb会議を連携させるクラウド型CRMソリューション)。

NetSuite CRMの主な機能
機能 詳細
営業支援 営業案件管理/個別商談管理、顧客管理、営業予測、見積もりと受注管理、インセンティブ管理、文書管理
パートナー管理 リード共有管理、パートナー営業予測、パートナーキャンペーン管理、パートナー営業管理/受注管理、コミッション管理
カスタマーサービス管理 ケース管理、セルフサービスのカスタマーポータル、タイムトラッキング
マーケティングの自動化 リード管理、キャンペーン管理、メールマーケティング、Webマーケティング支援

 「幾つかのサービスの説明を受けたが、われわれが提示した条件に最も合致していたのがNetSuiteだった。また、システム構築から無償の保守サポートまで約束してくれた代理店の存在も大きかった。ITにそれほど精通していないわれわれでもクラウドを使いこなすためには、包括的に支援してくれるパートナーが不可欠だ」(井上氏)

 NetSuiteの導入は最初からスムーズだったわけではない。システム導入をサポートした企業自体が医療機関へのシステム納入が初めてで、医療業界に関する業務知識を十分には備えていなかった。そのため、カスタマイズにおける八王子クリニックの要望が実際のシステムに十分には反映されず、何度も指示をし直す必要があったという。

 「人間ドックの予約業務は、通販会社などの受付業務とは全く異なる。例えば、予約の際は、かなり詳細な内容まで尋ねる質問が多い。当初はその必要性を理解してもらいにくく、意思疎通の面で少なからず苦労した」(渡邊氏)

 カスタマイズ期間は当初より1カ月延びたが、2011年5月に新システムの本格稼働を開始した。渡邊氏は「完成したシステムの機能やインタフェースには満足している」と手応えを感じているという。

情報活用を推進して疑問を解決する糸口をつかむ

 八王子クリニックではNetSuiteを導入したことで「顧客管理機能が充実しており、電話対応の質の向上も見込むことができる」(井上氏)という。電話対応の現場では、導入当初こそ操作方法などで若干の戸惑いが見られたものの、現在は何の問題もなく業務を進められている。その結果、電話対応の良さから人間ドックの受診先として八王子クリニックを選ぶ患者も少なくないという。

photo NetSuiteのダッシュボード画面《クリックで拡大》

 また、患者データの活用の幅が着実に広がりつつある。全身ドックの受診患者を対象にした各種キャンペーンの案内、受診後のフォローアップである1年間のメールによる相談受付、従来では難しかった定期的な検査案内などへの取り組みが新たに実現した。

 八王子クリニックでは今後も業務に合わせてシステムへの改修を実施していくとし、「これまでの経験を基に、より柔軟にシステムのカスタマイズが実施できるはずだ」と渡邊氏は語る。さらに井上氏は「マーケティング活動における患者情報の活用にさらに注力する」と語る。例えば、患者の行動を時間軸で捉え、申し込みから受診までの間で最もキャンセルが発生するのはどの時点か把握できれば、「顧客がどこに不満を抱いているかのヒントを探ることができる」という。

 今後、八王子クリニックはNetSuiteを情報の“ハブ”としてレセコンや他の業務システムとの連携を強化する計画だ。競争がますます激しさを増す医療業界では、有効な情報利用はそうした荒波を乗り越えるための羅針盤となるかもしれない。その重要性はさらに高まりつつある。

クリニック紹介

医療法人社団斗南堂八王子クリニック

photo

理事長:井藤尚文

東京都八王子市に1990年4月開業

【診療科目】

内科、外科、皮膚科、肛門科、脳神経外科、胃腸科、各種健康診断、マルチスライス人間ドック(脳・心臓・肺)、八王子市特定健康診査・予防接種

【Webサイト】

http://www.hachicli.or.jp/


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