ネットワーク仮想化のために重要な機器のアップグレード戦略ネットワーク仮想化に備える(前)

ネットワーク仮想化は、アーキテクチャ設計の不備を解決するわけではない。そのため、ネットワークコンポーネントのアップグレードや仮想インフラの導入を計画する際は、細心の注意が必要だ。

2011年12月05日 09時00分 公開
[Stephen J. Bigelow,TechTarget]

 仮想化の対象は個々のサーバにとどまらず、企業のサーバやストレージを接続するネットワークにも広がりつつある。しかし、ネットワーク仮想化は、短期間で、あるいは簡単に導入できるとは限らない。ネットワーク仮想化を最大限に活用するには、IT担当者が物理ネットワークインフラに変更を加えなければならないことが多い(関連記事:仮想インフラに10ギガビットネットワークは必要か?)。本稿では、ネットワーク仮想化の役割を検討し、企業が10Gbps以上の高速LANに移行する際に考えるべき重要なアップグレード戦略について概説する。

ネットワーク仮想化とは

 ネットワーク仮想化は、単一のコンポーネントやソフトウェア製品によって実現されるわけではない。ネットワークの物理ハードウェアとその上の論理ネットワークエンティティとを分離する抽象化を支援する、ハードウェア要素とソフトウェア要素の組み合わせによって実現される。

 ネットワーク仮想化は幾つかの理由から、検討することを避けて通れないものになっている。米TechTargetが2011年にIT担当者を対象に行った仮想化に関する調査では「回答者の34%が仮想ネットワークを、データセンターにおける大規模な仮想化アーキテクチャの一部と認識している」ことが分かった。また、32%がネットワーク仮想化技術を、仮想環境を展開する方法として歓迎している。26%が、この技術は管理を向上させると考えている。

 ネットワーク仮想化の導入は順調に進んでいる。この調査では、何らかの形でネットワーク仮想化を利用している回答者が全体の45%を占めた。現在は利用していない回答者のうち60%も、今後12カ月以内に導入する計画だ(関連記事:60.9%が無線環境を構築 読者調査が示す企業ネットワークの今)。

 ネットワーク仮想化に必要な抽象化は、外部または内部の仮想化という2つの主要な方法で実装できる。

 外部仮想化では、仮想LAN(VLAN)ソフトウェアとVLAN対応スイッチを使って、1つの物理LANを複数の論理LANに分割したり、複数の物理LANを(所在位置が異なる場合も含めて)1つの論理LANとして結合したりする(関連記事:「VXLAN」入門──VLANを拡張する新標準とその必要性)。大抵の場合、外部ネットワーク仮想化は、ネットワークトラフィックの制御やセキュリティの強化に役立つ。例えば、VLANを作成して経理部門のユーザーのトラフィックを隔離したり、VoIPやiSCSIのトラフィックを伝送したりできる。

 内部仮想化では、特定の物理ホストサーバ上の仮想マシン(VM)間でネットワークを構築する。仮想化ソフトウェアを使ってサーバ内に仮想スイッチを作成することで、VMが物理ネットワークにトラフィックを一切渡すことなく、メモリ領域間でデータを直接やりとりできるようになる。これにより、サーバのVM間のデータ転送が高速化し(VMの見掛けのネットワークパフォーマンスも向上する可能性がある)、外部ネットワークの帯域需要も減少する。

 この2つの方法は組み合わせて利用でき、いずれも企業が自社固有のニーズに合わせてネットワークを構築、カスタマイズするのに役立つ。

ネットワークのプランニングとアップグレード

 ネットワーク仮想化の導入に当たっては、まず、パフォーマンスに関する期待などの技術的な問題よりも前に、ビジネス目標をしっかり把握しておかなければならない。その情報があれば、IT担当者は、既存のネットワークアーキテクチャとその物理コンポーネントをはるかに詳細に検討できる。これらのコンポーネントには、スイッチとそのネイティブVLANサポート機能、各サーバのNIC(ネットワークインタフェースカード)やHBA(ホストバスアダプター)、各サーバで利用可能な仮想化ソフトウェアなどが含まれる。ファイアウォールやロードバランサなど、関連するネットワーキングシステムの存在も無視してはならない。

 ネットワーク管理者は、利用可能なLANインフラとネットワーク仮想化要件を比較検討する際に、ネットワーク仮想化のサポートやパフォーマンス向上に必要なアップグレードの機会を見つけることができる。「ネットワーク仮想化を行うには、スイッチ、インターネットワーキング機器、サーバなどを全面的に刷新しなければならないかもしれない」と、ITコンサルティング会社の米Convergent Computingのランド・モリモト社長は語った。「そうしたアップグレードによって、ビジネスのニーズや要件を満たすようにIT環境の整備が進むのであれば、それは良いアップグレードだ。そうでないなら、多大な費用を掛けてハードウェアやサービスを増やすだけになってしまう」

 モリモト氏の指摘は正しい。前述の調査によると「回答者の48%が、仮想インフラをサポートするために物理ネットワークをアップグレードしなければならなかった」という。表1は、スイッチ、NIC、HBA、ルータのアップグレードが、仮想ネットワークをサポートする上で非常に重要なことを示している。だが、ネットワークのどの要素もアップグレードの対象になり得る。また、アップグレードしていないと答えた回答者のうち40%が、2012年にネットワークをアップグレードする計画だ。

仮想インフラのサポートを目的としたインフラコンポーネントのアップグレード
ハードウェア 2011年にアップグレードした 2012年にアップグレードする
ネットワークスイッチ 79.57% 81.58%
サーバNIC 49.46% 51.32%
ネットワークルータ 40.86% 56.58%
サーバHBA 40.86% 35.53%
ネットワークケーブル類 31.18% 31.58%
ネットワークゲートウェイ 26.88% 30.26%
ネットワークアプライアンス 25.81% 34.21%

 ネットワーク仮想化は、アーキテクチャ設計の不備を解決するわけではない。このため、ネットワークコンポーネントのアップグレードやネットワーク仮想化の導入を計画する際は、細心の注意が必要だ。例えば、ネットワーク機器のパフォーマンス要件と能力を適切に見極めていない企業は、仮想ネットワークの目的を達成できないかもしれない。

 「ITエンジニアは、仮想化プロジェクトのネットワークコンポーネントを忘れていたせいで著しい遅延が突然発生すると、慌てて対応し始める」と、ITソリューションプロバイダーの米MTM Technologiesの仮想化アーキテクト、ビル・クレーマン氏は語った。「仮想デスクトップは、I/Oやネットワーキングの帯域を大量に使用することがある。仮想化プロジェクト専用のスイッチング環境を用意しておけば、ネットワーク速度に関する問題の軽減を図れる」(関連記事:デスクトップ仮想化の仕組みとメリット

 次回は、ネットワーク仮想化を実現するために必要なインフラ設計のポイントを紹介する。

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