VMware vs. Microsoft:「MS製品の方が安い」は通用しないクラウド管理市場食べ放題のSystem Centerは柔軟性に欠ける?

MicrosoftとVMwareは、クラウド管理ソフトのライセンス体系が異なる。1ライセンスで包括的に機能を提供するMicrosoftと、機能単位でライセンスメニューを用意するVMware。来たるクラウド時代ではどちらを選ぶべきか。

2012年07月24日 08時00分 公開
[Beth Pariseau,TechTarget]

 専門家によると、仮想化市場において米Microsoft米VMwareとの間で繰り広げられているエンタープライズITをめぐる競争は、ハイパーバイザーの比較という段階を既に通り越し、戦いの中心はプライベート管理の分野に移ったという。

 米調査会社Iumillnataで主席ITアドバイザーを務めるジョナサン・ユーニス氏によると、5年前は各社のハイパーバイザーを並べて機能や価格を比較するのは容易だった。しかし新たに登場したプライベートクラウドモデルでは、特定ベンダーの戦略を全面的に受け入れることが求められるため、仮想化ツールの比較はほとんど意味がなくなったという。

 「『今日はオレンジを買おうか、それともリンゴを買おうか』というような単純な問題ではない。『リンゴの将来に賭けるか、それとも、かんきつ類の将来に賭けるか』という問題なのだ。両者は全く別種のものなのだ」とユーニス氏は話す。

Microsoftの「バイキング料理」戦略

 Microsoftの戦略を採用する企業にとって、プライベートクラウドソフトウェアは食べ放題のバイキング料理のようなものだ。1ソケット当たりの価格が3607ドル(Enrollment for Core Infrastructure(ECI)プログラムを利用した場合は5056ドル)の「System Center 2012 Datacenter Edition」には現在、

  • Operations Manager
  • Configuration Manager
  • Data Protection Manager
  • Service Manager
  • Virtual Machine Manager
  • Endpoint Protection
  • Orchestrator
  • App Controller

が含まれる。

 既存のMicrosoftユーザーには暫定ライセンスも用意されている。例えば、「System Center Virtual Machine Manager(SCVMM)2008」のライセンス1本でSystem Center 2012 Suiteのライセンス1本の権利が得られる。

 既にMicrosoftのツールに投資した企業にとって、System Centerの新しい価格設定は魅力的だ。

 「ライセンス関連の業務に時間を取られないのが助かる。その分、IT関連業務に専念できるからだ」と話すのは、建設管理サービスの米Walsh Groupで先進技術担当マネジャーを務めるパトリック・ワーツ氏だ。「ライセンス方式とライセンス対象に関してはVMwareも非常に意欲的になってきた」

 しかしWalsh Groupは、System Center 2012のECIライセンスを選んだという。

 「われわれは基本的に、社内に保有しているどのサーバ上でもMicrosoftのスイート全部を使えるライセンスを持っている」とワーツ氏は語る。「こういった包括的なライセンス契約であれば、どのライセンスがどれに対応するかを覚えたり、ライセンスをどのように管理すべきかを考えたりしなくて済むので大助かりだ」

 その一方で、Microsoftのライセンスは柔軟性に欠けるという指摘もある。必要な機能だけを手に入れるのにもスイート全体を購入する必要があるからだ。

 米医療サービスDartmouth Hitchcock Medical Centerの上級システムエンジニア、ロブ・マクシンスキー氏は「Microsoft製品を専門とするコンサルティング会社でもない限り、System Centerの全ての機能を使っている企業は少ない。当社ではこの製品ライセンスをまとめ、十分な数になった段階で、Datacenterにライセンスを移行しようと思っている」と話す。

VMwareの「アラカルト料理」戦略

 VMwareのメニューベースのアプローチは柔軟性が高いが、VM単位のライセンスなので、全ての機能を利用しようと思うとかなりの金額を支払うことになる。

 VMwareの製品でMicrosoftのSystem Centerに相当する機能を手に入れるには、それぞれ別個にライセンスされる4種類の製品を購入する必要がある。

 5番目の機能「vCenter Orchestrator」はvCenterに含まれている(関連記事:複雑化するvSphere環境を高度に管理 vCenter Serverの上位製品登場)。

 vCloud Directorのライセンス価格は、25VMパックで3750ドル。vCenter Operations Enterpriseの価格は1VM当たり195ドルから。vFabric Application Performance Managerの価格は1VM当たり360ドル。SRM Enterpriseの価格は1VM当たり495ドルとなっている。VMが500個の環境で全てのVMをライセンスした場合、VMware環境のコストは少なくとも60万ドルに達する。

 VMwareのvCenter Operationsスイートに魅力を感じるというITプロフェッショナルによると、コストの問題のために社内への導入を断念したという。

 「誰が何と言おうと、vSphere環境との連係に優れているのはVMware製品だというのは間違いない」と話すのは、イスラエルのIT企業で仮想化管理者を務めるマイシュ・サイデルキーシング氏だ。「しかしvSphere製品のVM単位の価格方式に移行するのに抵抗を感じる人は多い。私もその1人だ」

 IT部門がプライベートクラウドのチャージバックモデルに移行する準備が整うまでには、しばらく時間がかかると指摘する人もいる。このモデルはVM単位のライセンスを補完するのに最適な方式だといえる。

 ノルウェーのEVRY Consultingの上席インフラコンサルタント、クリスチャン・モーン氏は「VM単位のライセンス方式はSRMなどの製品では当然かもしれないが、ハイパーバイザーや管理ユーティリティには適していない」と指摘する。「サービスを主体としたインフラに移行すればVM単位の料金設定が理にかなったものになるが、そのためにはIT部門が社内の利用者に課金できることが条件となる」

 VMwareへの忠誠心が高いユーザーの中には、支払った費用は取り戻せると考えている人もいる。

 大手金融サービスの上級エンジニア、チャールズ・ゴートロー氏は「クラウドモデルを前提とすればVM単位の価格設定が必要になる。消費モデルが個々の仮想マシンにシフトした段階では、もはやインフラ単位で価格を設定することはできない」と話す。

新たなITインフラモデルが出現

 将来の仮想化環境の配備形態として、Microsoft Virtual Hard DiskやVMware Virtual Machine Diskのフォーマットではなく、Amazon Machine Image(関連記事:RightScaleが実現するクラウドマネジメントの世界 〜Amazon Web Servicesとの違いは?)が採用された場合はどうなるのだろうか。また、これら全ての形式が採用された場合、あるいはそのどれも採用されない場合はどうなるのだろうか。企業がMicrosoftとVMwareのどちらの製品に投資するかを決める際には、こういった問題も検討する必要がある。

 MicrosoftはWindows Azureというパブリッククラウドを提供しており、VMwareはvCloud Directorを提供している。しかしパブリッククラウドサービスに関する限り、両社は各種のクラウドソフトウェア配備モデルやクラウドソフトウェアスタックとの厳しい競争に直面している。競合製品には米Rackspaceの「OpenStack」(米Hewlett-Packardが推進)や米Citrix Systemsの「CloudStack」、米Amazon.comの「Amazon Web Services」などがある(関連記事:機能を徹底比較! 〜Eucalyptus、CloudStack、OpenStack)。

 米コンサルティング会社Open Skyでシステムとソリューションを担当するエンジニア、ジョン・バイスロー氏は「今後の傾向としては『社内の仮想インフラにはMicrosoftの管理環境ではなく、vCenterベースの管理環境を採用する』といったものではなく、『特定のハイパーバイザーやクラウドに依存しない製品を採用する』といった流れになるだろう」と話す。

 「Microsoftが『自分たちの製品の方が安い』という議論を主張できる時間はあとわずかだ」と同氏は指摘する。

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